第336話 Aランクの魔法使い

「3体ほど居るな」


視線の先には2mほどのアリが巣である15m以上の塔のようになっている蟻塚を守るように配置している。


「私が1発ぶち込む?」


「いや、それをすると手に負えない程の数が飛び出てくるかもしれない。だからまずは見張りを殺るぞ」


あの巣から何百体のアリが一気に現れるのを想像すると鳥肌が立ってくる。


「じゃあ、騒がれる前に俺とハインツとヌルヴィスであの3体を仕留めるぞ」


「分かった」

「了解」


見張りのアリの外骨格は鉄っぽいので高くてもC+程度なので魔力を使わなくても仕留めるのは簡単にできる。


「せーのっ!」

「「っ!」」


ザックスの合図で俺達3人は飛び出す。1番スピードが速い剣士のハインツが1番遠いアリへと向かう。


「はあっ!」


俺は自分が担当したアリに近付くと、大鎌で首の細いところを大鎌で切断する。ただ、虫系の魔物の生命力は強いので、頭を切り落としたあとも油断しないでおくが、動くことはなかった。


「やっぱり良い動きをするな」


「ありがとう」


自分の役割を終えて戻ってきたハインツに褒められる。一応道中の魔物も相手にしたが、その時は低ランクだった。


「しかし…ザックスの威力はやばいな」


「あれは怪力馬鹿なだけだ」


「おいおい、俺の悪口か?」


ハインツも俺のようにアリを斬って殺ったが、ハインツは2本の大斧でアリの頭を叩き潰していた。俺の重い大鎌を使っても叩き潰すのは魔力を使わないと難しいぞ。


「さて、この蟻塚をどうするかだが…」


俺達の横には巨大な蟻塚がそびえ立っている。これを刺激してアリを出すのだが、刺激し過ぎて一気に出てくるのは困る。


「まずは中に入って少しずつやるか」


巨大なアリが出入りするような入口は大きく作られているので、俺達でも余裕で入れる。そこから入って、巣から出ていくアリと帰ってくるアリを狩ることにした。




「……思ったよりも出てこないな」


「何なら帰ってくる方が多いぞ」


巣の中に入ってすぐのところで待ち構えてもアリは全然やってこない。巣から出てくる数よりも魔物の死体を咥えたアリが戻ってくる方が多いくらいだ。


「思っていたよりも巣が大きいのかもな」


俺達が巣の入口付近で何かしていても全く気付けないほどにこの巣は奥まで広く、複雑に拡がっているのかもしれない。


「ちくちく倒しても数は一向に減らないわよ。それなら魔法を1発ぶち込んで一気に出した方がいいでしょ。このままだと何年かかるのよ」


ギルドではあんなに冷静そうだったミリーが脳筋のようなことを言っている。まあ、巣の中では崩壊の危険があって魔法は使えないからストレスが溜まっているのかもしれない。


「確かにこのままだと埒が明かないよな。だからって巣の奥に進んで道で挟み撃ちを食らうのは1番避けたいし……」


ザックスがどうするかを悩んでいる。このパーティはリーダーであるザックスが最終判断をするようだ。

ちなみに、巣の中の道は広いと言っても人が4人並んで歩ける程度で、2人が並んで武器を振り合うには狭い。だから大勢に囲まれたらこのパーティと言えどかなりピンチとなる。


「仕方ない、魔法をぶち込むか。アリが手に負えないほど出てきたら距離を取りながら少しずつ減らしていくぞ」


「了解よ!」


俺達は巣から出ていくが、ミリーは独りご機嫌だった。


「さて、離れるぞ」


「お、おう」


魔法を撃つからと俺達は巣から30m弱も離れる。一体どんな魔法を放つつもりなんだ?


「………」


ミリーが2m弱の杖を持ちながら魔力を練り始める。



「硬くなり、吹き荒れ、燃え尽きろ」


魔力を練って5分くらい経つと、ゆっくり詠唱を始める。その詠唱はまさかの三属性の複合魔法だ。


「アースウィンドファイアメテオストライク!」


ミリーは杖を振り下ろしながら詠唱を終えた。


「えっ……」


その1発の魔法に込められた魔力量が俺の総量よりも多いのにも驚いたが、その魔法が見えてさらに驚く。蟻塚の上から巨大な隕石が落ちてきたのだ。


ドンッ…!


その魔法が蟻塚と地面にぶつかると、轟音と共に衝撃波がやってきた。その衝撃波は踏ん張っていないと吹き飛ばされるほどに強い。



「ふう…」


「やば……」


ミリーはひと仕事終えたとばかりに息を吐くが、俺は目の前の光景に絶句していた。蟻塚の塔はもう存在していなく、地面にも大きなクレーターができていた。


「この魔法を初めて見て放心する気持ちはよく分かるが、ぞろぞろ来るぞ」


「「「キシャキシャシャ」」」


クレーターに穴ができると、そこからうじゃうじゃと大量のアリが出てきた。

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