第333話 警戒すべき魔物

「ワニは問題ないとして、問題はこっちだな」


俺は横からやってきているワニではない魔物に目を向けた。その魔物はこの砂漠で狩りをするならある意味1番警戒すべき魔物である。


「こっちが先に到着するか」


砂の上を走っているそのスピードは砂の中を進むワニよりも速い。俺はその魔物を先に狩るべく、自らも向かうことにした。

その魔物は2mほどのハサミを両手に持ち、長い尻尾の先には鋭く尖った針が付いている。その魔物は巨大なサソリと呼ばれる生き物であり、名前はジャイアントスコーピオンという。


「ほっ!」


サソリが上からハサミを叩き付けて来たので、俺はそれをジャンプして避ける。


シュッ!!


「速っ!?」


空中の俺にサソリは尻尾の針を刺そうと突き出してきた。その行動は予想通りだったが、予想外だったのはその速度と力だ。反射的に大鎌を全力で尻尾に叩き付けてやっとギリギリ針が防具に掠って無傷で済んだ。


「よっ!」


そのまま尻尾はUターンして後ろから俺を刺そうとしてきたので、サソリの頭の方へ盾を蹴って移動する。


「はあっ!」


俺はそのまま大鎌で斬ろうとするが、巨大なハサミでガードされる。この大鎌でも切れ込みが入るだけで、叩き斬れなかった。いや、このサソリのハサミに切れ込みを入れたのを褒めるべきか。


「作戦変更だ」


俺はサソリの尻尾から逃げながら、作戦を変える。ワニが来る前にサソリを殺るつもりだったが、それは諦める。


「でも、その邪魔な尻尾は落とさせてもらうぞ!」


サソリは巨大で素早いが、巨大だから小回りは効かない。俺はそこを付いて尻尾の根元まで行く。


「ここだっ!」


俺は尻尾の鱗と鱗の隙間に大鎌を振り下ろした。


「キチィーー!!」


サソリの絶叫とともに尻尾は根元から落とされ、切れたビクンビクンと跳ねるように動いている。だが、それもすぐに動かなくなる。


「「「ガアッ!!」」」


ちょうどそのタイミングでワニ達がやってきた。俺は盾を蹴って空中に逃げる。


「おお!戦ってる戦ってる!」


尻尾の無いサソリと数匹のワニ達はお互いに目の前の敵を殺すべく戦い出す。こいつらは共存関係でもないので、出会ったらお互いの生存と食料を求めて戦い合うらしい。


「尻尾も無いし、サソリの方が負けそうだな」


ワニの数が多いのと、武器の1つがないことでサソリの方が押され始めた。このサソリは砂漠限定の魔物では無いので、砂場を加味しない状態でB+ランクだ。そのため、ワニよりも強いが、今回に限っては状況が悪かった。


「しっ!」


サソリの2つのハサミがワニに襲いかかったところで、俺はサソリの頭の上に急降下する。


「らあっ!」


そして、その勢いで大鎌を振り、サソリの顔面を大鎌で刺し、そのまま斬り上げる。顔面の上半分が裂けたサソリは力なく倒れる。


「「「ガアッ!!」」」


「しっ!」


その後は残りのワニ達を盾を蹴って空中移動しつつどんどん斬り殺して行った。



「よし、無事に勝ったぞ」


結果として無傷で勝つことができた。また、もう周りに魔物がいなくなったのか、追加が来ることもない。


「よしっと」


俺はワニやサソリをマジックポーチにそのまま入れていく。


「あっ、これは試しておかないとな」


最後に仕舞おうとした尻尾を見て、やりたかったことを思い出した。


「よし!」


俺は気合を入れると、尻尾の先の針を自分に軽く刺した。


「うっ…!」


視界が少し歪み、思わずよろけてしまう。これが毒の効果なのか。毒を食らうのは人生で初めてな気がする。

ちなみに、これは死ぬほどの猛毒では無い。あくまで尻尾のメインウェポンのハサミも上手く使うために弱らせる用途だ。これが致死性の毒ならA-ランスになってもおかしくない。

とはいえ、普通に動き回れない程度にキツいことには変わりない。俺はマジックポーチから用意しておいた解毒中級ポーションを取り出す。


「ごくっ…」


飲んだ瞬間に視界の歪みと気持ち悪さから開放される。


「この毒は戦闘中に食らわないように気をつけないとな」


毒をわざと刺したのは実際にどのような効果があるのか分からないと、もし戦闘中に食らった時に混乱しそうだったからだ。決して俺がドMだからでは無い。


「さて、次行くか!」


毒の効果も分かったところで、次の魔物を探すべく砂地の奥へと進んでいく。

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