第332話 久しぶりの狩り

「よし!行くか!」


この街に着いてから3日目にして、俺は意気込みながら魔物を討伐するべく街の外へ出た。

ちなみに、今回は依頼に関しては何も受けていない。


「少し遠いから走るか」


久しぶりの冒険者活動かつ高ランクの魔物討伐ということもあり、念の為に魔法を使っても大丈夫そうな場所まで行く。その関係上、少し遠くまで行かないといけないが、それぐらいは問題ない。




「ここが砂地か」


2、3時間ほど走ると、今回の目的地である砂地がやってきた。少し前まで岩肌のようだった地面も、そこから先は急に砂地になった。



「ギルドで情報収集した通り本当に誰もいないな」


ここまで来る途中も人の通った痕跡などはなかったが、砂地に来てもそれは変わらなかった。

ここに冒険者がやってこないのはちゃんとした不人気の理由が何個もあるからだ。



「うおっ!歩きにくい!」


俺は砂地に1歩足を踏み入れた瞬間に足がくるぶしまで簡単に埋まった。さらに3歩ほど進むが、今度は脛まで埋まる。

これが不人気の理由の1つ目だ。まず、砂で地面が埋め尽くされているから行動しにくいのだ。物理職だったら機動力は格段に落ちることになるし、魔法職はそもそも進むのにも力がいるから歩くことすら難しい。


「シールド」


ただ、俺には無属性魔法がある。これを使えば砂地に埋もれることなく歩ける。ただ、今回は魔物を引きつける為にいつでもそうできるようにするだけで、とりあえず普通に歩く。ここの魔物は砂の振動で敵を見つけているとかいないとかの情報があったからな。



「おっ」


歩き出して3分もせずに斜め下の砂地から気配感知が反応した。これが不人気の理由2つ目で、魔物が砂の中からやってくる場合があるのだ。気配感知や危険感知が使えなければ無抵抗で攻撃を食らうかもしれない。

俺はより警戒しながらも、まるで魔物に気付いていないかのように歩き続ける。


「っ!」


すると、危険感知が下から反応する。俺は動きにくい砂地を全力で蹴って3mほど跳ぶ。その瞬間、砂の中から巨大な開いた口が出てきた。


「サンドダイルか!」


俺を食おうと砂から飛び出したのは5m近いワニのような魔物だ。この魔物は砂の中を自由に泳ぎ回ることができる。

ちなみに、ランクは動きにくい砂地に居るのを考慮されてのB+だ。これが普通の地面だったら1つ下がってBランクくらいの強さだろう。


「俺が落ちるのを待ってるみたいだが…それは当てが外れたな」


俺の落下地点で待っているワニにそう呟くと、俺は無属性魔法の盾を蹴って急降下する。


「はあっ!」


「…ガアッ!」


突然の加速に対しても、ワニはしっかりと反応してくる。だが、見てからの行動では遅い。俺の大鎌はワニの首を一刀両断する。


「少し大鎌に抵抗があったな」


今は身体強化と闘装していないからか、大鎌でワニを斬る時に少し硬い感触があった。もちろん、ワニの鱗が硬かったからでもありそうだが。



「さて、先を進むか」


ワニをマジックポーチに入れた俺は再び砂地を進んで行く。

…はずだった。


「おわっ!?」


急に地面が逆円錐上に凹んだ。斜面に立っている俺は少しずつ下へと流される。深さは10mほどあるが、このままだったらいずれは底に行くだろう。


ガチンガチン!


そして、底には俺が来るのを待っている魔物のハサミが出ている。


「ここらあえて底まで行くか!」


ピンチになれば足場で逃げられるということもあり、俺は自ら底に滑るように落ちていく。

別に動かずに魔法を使えば底に落ちる前にこの魔物を殺れそうだが、とりあえず今日は魔法を使わずに殺りたい。


「らあっ!」


ビキビキ!!


底近くになった俺は大鎌を振るが、その攻撃はハサミの横半分を斬るだけで、切断はできなかった。また、その傷の周りには大きなひび割れができている。


「魔力を使えなければこの大鎌は活かせないか…」


この斬れ味抜群の大鎌で切断は愚か、ヒビ割れを作ってしまうということは現在の俺のスペックよりも大鎌の方が優れていることになる。普通はこの大鎌はスパッと斬れるからそんな状況にはなり得ないはずなのだ。まあ、多少は魔物のハサミが硬いからって言うのもあると思うけど。


「ギュイッ!」


「おら!」


獲物に攻撃されたからか、砂から顔を出したサンドアリの硬い顔面を蹴り、砂からほぼ全身出してやった。それからは俺が柔らかい腹などに大鎌で攻撃して殺った。

ここの不人気の理由3つ目は高ランクの魔物が数種類も同じ場所で出るので、1つの魔物に絞ってガチガチの装備を整えられないことだ。今の魔物もB+ランクだ。

唯一の良いところはAランクの魔物がいないことくらいだ。


また、これらの不人気の理由3つはこの場所での活動においての1番の欠点では無い。



「ちっ…来たか」


俺の視線の先から目を砂から出した数匹のサンドダイル、別方向からは砂地の上を進む魔物が俺に向かってきている。

この砂地の不人気理由1位が冒険者が来なくて間引けないことにより、魔物が大量に居ることだ。その魔物のほとんどが砂地から出ないから、放置してても害自体は無いに等しいのだ。

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