第330話 ハプニング

「飯も食ったし、行くか」


新しい街に来た次の日、宿で朝食を食べたので俺は冒険者ギルドに向かうことにした。時間は8時くらいなので、普段ギルドに向かう時間よりは遅めである。


「やっぱり宿は安心してゆっくり眠れるからいいな」


自分では平気と思っていたが、7日間も森の中の木の上で眠るのは体が休まっていなかったみたいだ。そのせいか、昨日は12時間近く眠ってしまった。そのせいで起きるのが予定よりも遅くなった。

木の上は楽でいいのだが、連続で10日を越えそうなら1度どこかの街にでも寄って1回しっかりと休むべきだな。



「ここがCランク以上のギルドが」


随分としっかりした作りの大きな冒険者ギルドの前に俺は来た。今までどの街で見たギルドよりも大きい。生まれ育った国の王都のギルドの倍以上は余裕である。

入口で眺めていても何も始まらないので、中に入ることにする。



「おい…見ねぇ顔だな」


「ん?」


ギルドに入ってすぐ中に居た2身長m以上でガタイのいいおっさんに声をかけられた。ギルド内に居る10から20人の目線が一気に集まる。


「ここはCランク以上しか来れないって知ってるか?」


俺に近寄って来て上から見下ろすように俺にそう続けて言ってくる。どこかギルド内の空気が張りつめる。だが、なぜかその男に対して恐怖やいやつ感は感じない。


(あ、そういうことか)


ある程度事情を把握した俺はマジックポーチからギルドカードを取り出す。


「この街に来たのは昨日の新入りだ。だが、この街の仕組みは聞いてるし、俺はBランクだから大丈夫だ」


「なんだ!そうだったのか!それなら歓迎するぜ!若そうなのに随分ランクが高いんだな!」


男は俺の肩をどんどんと叩きながらそう言ってくる。

俺がギルドカードを取り出してからは徐々に興味を失ったとばかりに集まった視線が散っていく。


「気を使ってもらってありがとうな」


「なんだ、気付いていたのか」


この男が声をかけてきたのはCランク未満がここに来た時に悪い輩に絡まれるのを防ぐためだ。だからいの一番に自ら絡んで平和的に終わらせようとしていたのだ。

男が最初からそのつもりだったから絡まれているのに恐怖などは感じなかったのだ。元々善意からだしな。


(普通はこの男に凄まれたら俺でも身体が強張るはずだ)


肩を軽く叩かれて実際に触れてからはより分かるが、この男はかなり強い。肩を抑えられただけで逃れられない気がした。正直、物理職だけだと相手にすらならないかもしれない。


「急に消えたと思ったらまたお節介してたわけ?」


「今回は必要なかったようだがな。おっ!紹介するぜ。この3人と俺が疾火気炎っていうAランクパーティだ。これでもこの街でAランクになって何年も経つベテランだぜ」


男はAランクの4人パーティらしい。しかも、Aランクになってからも長い大ベテランだ。


(バランスいいな…)


後ろからやってきた者は男に声をかけた紅一点のエルフの魔法使い、その後ろに立つ獣人の剣士と人族の大盾を持ったタンクだ。そして、背に2本の大斧を背負っている目の前の男。パッと見だけでも攻守、物理魔法とバランスの良いパーティだと分かる。


「ギルドに一人で来てるようだが、ソロでやっているのか?」


「いや、パーティを組んでいるんだが、今はちょっと用事があるって別行動をしてるんだ。それで俺だけ一足先にこの街に来たってことだ」


その質問はある意味当然と言えるものだった。Bランクにもなってソロで冒険者をやっている者は異端と言ってもいいほど珍しい。基本的に仲間と組んだ方がランクが上がるが早いし、何よりも安全だ。


「それなら仲間が来るまで一緒に依頼を受けるか?」


「ちょっと!」


初対面の俺にそこまで言うってどこまでお人好しなんだ。よくここまで強くなるまで騙されて殺されずに生きれたな。…いや、強いからこんなお人好しでも生きていけるのか。それに行き過ぎた場合には止めてくれる仲間がいるのも大きいのかもしれない。

また、このかなりのお人好しもいつもののことのようで、エルフの女は止めているし、他の男もあちゃーっと言う表情をしている。


「有難い申し出だが、多分俺は足でまといになるからやめておくよ。ただ、人手が足りない依頼があったら是非とも参加させてくれ」


「そうか!それならまた声をかけるな!」


俺が断ったことで後ろのエルフが胸を撫で下ろしている。そりゃあ、Aランクの依頼に実力知らないこんな小僧を中に入れるのは困るよな。お人好しなのはいいけど、パーティの仲間のことも気にした方がいいぞ。

ちなみに、断った理由に関しては間違っていない。レベル上げのためにソロでやりたいというのはあるが、このパーティと依頼を共にするには魔法を使わなければ確実に足でまといになる。


「ほらっ!行くわよ!」


「お、おう!俺の名はザックス!また会ったら飯でも奢るぜ!」


「俺はヌルヴィス!その時はよろしく頼む!」


エルフに引っ張られるように外へ行かれるザックスとすれ違いざまに自己紹介をする。そういえば、パーティの名前は聞いたが、肝心の個人の名前は聞いてなかったな。


「さて、どんな依頼があるか見てみるか」


思わぬハプニングが起こってしまったが、その結果として良い出会いがあったな。

今からは予定通りギルドの中を見て回ることにしよう。

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