冒険者の国編

第329話 到着

「道は……こっちか」


学校長から貰った地図を頼りに俺は進んでいく。時々馬車とすれ違う時はあるが、その時は馬車から見つからないように森を通ることにしている。だって走りながら次の国を目指す奴はほとんど居ないから、普通は盗賊とかと間違われる。無用なトラブルを避けるために多少遠回りになってもそうしている。



「あ、馬車が魔物に襲われてるな」


少し先にある馬車が森から出た魔物に襲われていた。だが、俺は無視して森に入って馬車を追い抜く。

別にこれは馬車を見捨てたとかではない。魔物はゴブリンやウルフとかの低ランクだったし、しっかり護衛の冒険者もいたのを確認したから森に入ったのだ。俺が手を貸さずに済むなら無駄に手を出す必要は無い。俺が手を出したら雇われた冒険者の仕事を奪うことになるし、冒険者を雇った者からしても俺にも報酬を与えないといけない場合が出てくるなどみんなの不幸に繋がる。

明らかなピンチの時は冒険者と雇い主に声をかけて両者からの合意が得られた時だけ手を出す。


「まあ、そんな機会はほとんど無いけど」


治安が特に悪いわけではないここで、盗賊の話は聞かないし、魔物も高ランクは出てこない。だから馬車を助ける機会はない。



「さて、今日は寝るか」


暗くなってきたので、俺は眠ることにする。適当な木の上に登り、枝に座って幹に寄りかかって目を閉じる。背負った大鎌で上手くバランスが取れるから落ちることは無い。また、木の上は地上に比べて魔物の心配が少ない。とはいえ、鳥のような魔物だったり、下から何かを投げて攻撃してくる魔物もいるだろう。だが、そんな魔物の攻撃は危険感知や気配感知で察知できるだから魔物避けをせずに眠ることができる。



「よし、行くか」


次の日、朝日が昇って周りが明るくなってきたので、軽く朝食を食べてまた走り出す。

こんな感じで走り続ければ計算では7日か8日で冒険者の国アドリスクに着くだろう。





「おっ!あれか!」


計算通り7日後の昼前に目的の街へと辿り着いた。小さな町を寄らずに真っ直ぐ来たから予定よりも少し早かった気がする。


「あれ?門番は?」


城壁の門に近付くが、並んでいるのは馬車のみで、朝だからか少ない冒険者は素通りしている。


「ここって素通りしていいのか?」


つい俺は入口近くに立っている門番にそう聞いてしまった。


「なんだ、他の街から初めて来たのか?この街は冒険者が多いからいちいちチェックしてたら冒険者が帰ってくる夕方は長蛇の列になるぞ。だから冒険者カードを見せながらだと何もせずに街に入れるんだぜ」


「なるほど」


門番と話している俺の後ろも当たり前のように冒険者が冒険者カードを持ちながら素通りしていく。


「これでいいか?」


俺と周りの冒険者に習って冒険者カードをマジックポーチから取り出す。


「おお!若そうなのにもうBランクか!それなら中心部のギルドを使えるな!」


「中心部のギルド?」


話を聞くと、この街では冒険者の多さから冒険者ギルドが2つあるそうで、片方は街の中心部にあるCランク以上しか使えないギルドで、城壁からそう遠くないところにあるギルドは一応どのランクの者も使えるギルドらしい。ただ、Cランク以上の者が城壁近くのギルドを使うことは無いそうだ。中心部のギルドに入れるのは一種のステータスとなっているらしい。


(これはラッキーだな)


この制度のおかげで俺は2種類の冒険者カードを使う時は別々のギルドに行けるのだ。2つの冒険者カードを使い分ける時にさらに同一人物だとバレにくくなった。学校長はこれを知っててここを勧めたのかもしれないな。


「色々とありがとうな。これで夜飲みにでも行ってくれ」


「おっ!助かるぜ。また何か聞きたければいつでも来いよ!」


色々と話を聞かせてもらった礼に銀貨数枚を門番に渡す。門をよく利用するなら門番と仲良くなって損は無いからな。


「さて、まずは宿を取るか」


街に入った俺は最初に宿を取る事にする。ここで問題になるのは中心部に取るか、中心部の外に取るかだ。


「いい宿がいいし、中心部に取るか」


安宿は嫌なので、中心部の宿を取る事にした。中心部は高ランクの冒険者が多いこともあり、高級店が多いらしい。

中心部に入ってすぐ近くの宿は宿の質の割に値段が安かったし、そこにした。ここなら中心部のギルドも城壁近くのギルドも問題なく行ける。

今日はゆっくり休んで、明日は2つのギルドに行ってみようかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る