第328話 旅立ちと忠告

「全部の対戦が終わってこれで4人の順位が付いたね」


最後の反省会が終わったところで学校長はそう言い出した。


「ヌルヴィスが3勝で1位で2位が同率で3人だね。何とも面白い結果になったもんだよ。これは相性の問題が大きく出たね。でも、その相性の悪さを無くすためにパーティを組むんだから、結果自体はあまり気にしなくていいよ」


3人の戦いを見て相性の重要さというのを強く感じた。特にそれを感じたのはラウレーナとルイの戦いだ。ラウレーナはルイに近寄らないと攻撃手段が無く、しかも近付くためにも【敏捷】が無いからなかなか上手くいかなかった。


「その点どの分野にも隙が無いヌルヴィスが3勝したって感じだね。これが2対2とかになると組み合わせ次第でヌルヴィスでも負ける可能性は十分あるだろうけど」


やはり、物理職と魔法職の全てのステータスを持っているのはそれだけでかなりのアドバンテージとなる。例え、他よりも防御力が低かろうと。


「ただ、魔物や人との殺し合いで相性が悪かったから死んだなんて言い訳は通らない。だから3人には相性が悪い相手にも負けないような技術を教えていこうと思うよ」


俺が先に旅立ってからやることの話だが、確かに相性の悪い相手と戦う対策は重要だろう。


「それと、ついでにヌルヴィスに勝てる方法もそれぞれ教えていくからね」


「え!?」


3人は更にやる気に満ち溢れる顔になっているが、俺からしたら溜まったもんじゃない。学校長からしたら俺を倒す方法なんていくらでも思い付くだろう。


「だから1人になってからもサボらずに魔物と戦うんだよ。ヌルヴィスよりもレベルが低くても、だんだん上がりにくくなるんだからそのうち2人にレベルは追い付かれるよ。だから今のうちにできるだけ上げな」


「おう」


マジでのんびりしていたら合流した時点でも2人に負けるということがあるかもしれないな。


「それで、いつ行くんだい?」


「明日みんなと最後に特訓をして明後日の朝に行こうかな」


今日まではガチの模擬戦ばかりだったから明日のんびりと特訓をしてから明後日の朝にこの国を出ていこうと思う。


「馬車はいるかい?」


「特訓も兼ねて走って行くからいらないよ」


冒険者をやる上にはスタミナはかなり重要となる。それを鍛えるためにも、早く到着するためにも走って行くのが1番ベストだ。


「じゃあ、明日に4人での最後の特訓をしようか」


「ああ」


こうして、次の日は4人で最後の特訓をして、旅立ちの日となった。



「酷い目にあった……」


「熱烈なお見送り会だったじゃないか」


街を出る門近くで学校長とラウレーナ、ルシエル、ルイの4人がお見送りに来てくれていた。


ちなみに、昨日の特訓は何なら今までのガチの模擬戦よりも過酷になっていた。なぜなら、3人と順番に何度も模擬戦をやらされたからだ。学校長も魔力や闘力をも回復させて俺に何戦もやらせていた。


「…ルイはここから出る時は勇…仲間と合流するだろうし、当分は会えないと思う」


「あ、そうなるな」


ラウレーナとルシエルは特訓が終わり次第、俺と同じ街まで来るが、ルイはそうはいかない。


「改めて、今までごめ…」


「それはもう聞いたから別にいいよ。ここでの特訓にルイが居てくれて助かったよ。ルイのおかげで魔法使いとの戦い方を学べたよ。……学校長は普通の魔法使いとは言えないしさ」


「ちょっと急に私の悪口はやめてくれないかい?ここでの面倒見てあげたのはどこの誰だと思ってるんだい?」


ルイのおかげでここでの特訓が捗ったのは言うまでもない。また、ルイと何度も戦ったり、対策を練ることで魔法使いとの戦い方を経験できた。賢者のルイも普通の魔法使いと呼べるかは少し微妙だが、異常な学校長よりは普通の魔法使いだろう。


「シアに会った時はよろしく言ってくれ」


「うん。今は道場での扱きで余裕が無いみたいだから、会った時は言っておく」


シアは道場で師匠に根性から叩き直されていて、かなり過酷なスケジュールで生活しているそうだ。その分、ルイと同じようにかなり強くなっているらしい。


「じゃあ、行ってくるよ!またな!」


「僕もすぐ行くからね!」

「余もすぐ特訓を終えて向かうから!」

「またね」


俺は3人とそこで別れて街の外へと出た。



「さて、学校長は何か言い残したことでも?」


「あれ?気付いてた?」


「いや、普通に後ろを付いて来てただろ…」


学校長は俺の後ろを一緒に行くのが当たり前のように平然と付いてきていた。これに気付くなという方が難しい。


「少し忠告というか、注意があってね」


「ん?」


冒険者として生活する上での注意なら聞いたが、今度は何の注意だろうか。


「勇者と揉めて戦うのはおすすめしないからね」


「…別に揉める気も戦う気も、そもそも会う気もないが、勇者はそんなに強いのか?」


勇者とは関わり合いにすらなりたくないが、学校長が注意してくるほどとは勇者はそんなに強いのか?


「話を聞く分には弱いんじゃない?今ならルイの方が絶対に強いね。ヌルヴィスなら魔力無しでも勝てるんじゃない?」


「ならなぜそんな注意を?やっぱり貴族だから面倒くさいとか?」


勇者がそんなに強くないのなら勇者の関係者が面倒くさいからということだろうか。


「いや、戦いにおいての話だよ。注意した理由をはっきり言うと、ヌルヴィスが勇者と相性が良くないからだよ。

勇者というものは追い詰められるほど一撃の攻撃力が増していく。それに聖剣は一撃の威力は抜群に高い。その2つが合わさると防御力が低いヌルヴィスの闘装を突破して1発で倒せるくらいの威力が出るね」


「……それは相性最悪だな」


俺の相性が悪い相手は急に攻撃力が上昇するような相手だ。今まで普通に受けていたのに急に上がった攻撃を受けて、一撃でノックアウトということも有り得る。普通ならそれでも大ダメージを受ける程度で済むはずだが、俺は防御力が低いから1発で気絶や致命傷になる。

相性のせいで負けたり、苦戦する戦いを一昨日までで何回も見た。だからいくら弱い相手でも相性が悪いとなれば侮れない。


「何か譲れない何かがあって勇者と戦う場合は勇者が気絶したあとも油断しないようにね」


「…分かった。気を付けるよ」


流石に殺せば安心だろうが、殺すのはダメだろう。だから気絶しても、警戒し続けるようにしよう。


「話はそれだけ。これからも頑張ってね。闘力と魔力を合わせた魔法が完成したら見せに来てね」


「おう。色々とありがとうな」


「これでも先生だからね!転移」


学校長が転移をして目の前から居なくなった。



「さて、行くか!」


とりあえず、面倒そうな勇者とは可能な限り関わらないと決め、俺は走って次の国へと向かった。

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