第326話 卒業祝い
「さて、それならこの学校は卒業ということになるね」
「卒業でいいの?」
授業なんて学校長の1回しか出てないし、あまり学校に通っている感はなかった。期間的にも半年程度しか学生として在籍していない。こんな生徒を卒業にしていいのか?
「私が卒業と言えば、卒業になるんだよ」
「学校長特権か…」
まあ、学校長なら好きに人を卒業させる権限はあるだろうな。学校長が卒業と言えば、それはもう卒業扱いか。
「それに君はとっくに卒業の資格を得ているよ。平均的な卒業生と魔法勝負をしても負けることは無いだろうね」
魔法の学校ということもあり、卒業するためには魔法の腕が求められるそうだ。その腕についても複合魔法とオリジナル魔法を取得したら余裕で問題ないレベルらしい。
「そんな君に卒業祝いを渡そうじゃないか」
「え?」
学校長は突然そんなことを言って、どこからか腕輪を取り出した。
「まず、これは見た目を変える腕輪型の魔導具だ。髪色と目の色が変わるし、顔の印象もどことなく変えてくれる。魔法職で冒険者として活動する時に使うといいよ」
「おお!」
何気にそれは嬉しい性能である。これを使えば俺の赤紫色の髪は緑色に、青紫色の目は黄色になるそうだ。また、顔は少したれ目になったりと印象が変わる程度に変化してくれるらしい。
この魔導具は常に付けてて、使用したいタイミングで魔導具に魔力を注ぐと効果が出るそうだ。
「次はこの特注の杖を渡そう」
次に学校長は杖を渡してきた。卒業祝いは1つではないようだ。
「これは…杖なのか?」
学校長に渡された杖は木でできたステッキのような少し太めのただの棒に見える。もちろん、魔力は至極と比べても遜色ないかそれ以上に流しやすい。これを持っていたら今以上にスムーズに魔法を使えそうだ。
「それは仕込み杖だよ。魔力を込めてみな。多分わかるよ」
「やってみる」
学校長に言われた通りに魔力を注いでみる。すると、何かできそうな気がした。試しにそれをしてみることにした。
「うわっ!」
杖の先から長い刀身が出てきた。
「それは大刀を仕込んだ魔導具の杖だよ。さすがに大鎌を仕込むのは難しかったから大刀で勘弁してね」
「いや…十分過ぎるぞ」
表向き魔法職として動いている間は大鎌などの武器が持てず、もし魔物などが接近しても素手でどうにかするしかなかった。
だが、これがあればその時は大刀で初撃を防ぐことができる。初撃を防げたらこのまま大刀で反撃するなり魔法を使うなり、相手が手強かったから大鎌を取り出せたりするのだ。慣れれば刀身を出すのも一瞬でできるし、不意打ち対策として完璧だ。
試し斬りをさせてもらったが、至極の前に使っていた大鎌よりも斬れ味は良かった。大刀としてのスペックもかなり高そうだ。
「最後にこのローブを贈るよ」
「ローブ?」
俺はローブとは少し違うかもしれないが、半袖位の袖を通して羽織るマント?みたいなのを使っている。だからローブは要らないと思っていたが、そのローブも特殊なのか?
「もちろんこれも魔導具になってるよ。物理職として使う時には動きに邪魔にならないように、薄くして袖を無くして羽織る程度にすればいいよ。少し傷付いたくらいなら自動で修復するからね」
学校長は実際に黒いローブを着ながら実演をして俺に見せてくる。
「そして、魔法職として活動する時には……」
「おお…!」
学校長が魔力を込めると、ローブが変化して濃い紫になり、厚さが増し、全身を覆うほど大きくなった。
「このように全身をローブで包むことで防具を装着していることも隠せるよ」
「凄いな…」
これは普段の物理職として冒険者活動している時も使えるし、魔法職として冒険者をしている時も使える優れものなのか。モードが変わる時に色が変わるのも地味にいいな。
もし、敵が強くて仕方なく魔法を使った時に人が近くいたらこのローブで魔法職のように偽装することが出来るのか。
「でもこの3つはかなり高かったんじゃないのか?こんなの貰ってもいいのか?」
「正直、コネを最大限使って特注で最高品質の物を作って貰ったから、大黒貨や秘蔵の魔物を使ったりと出費はデカかったよ。でもその程度の出費で私の懐にダメージを与えられるとは思うなよ?」
学校長は自慢げにそう言ってくる。
「私がこのプレゼントをしたのはせっかくの魔法をいっぱい使って欲しいって気持ちの表れだよ。鬼才の魔法があっても使ってくれなければ意味が無い。それを少しでも使ってもらいやすい状況にしたかったからこれらを贈るのさ」
「そっか…」
確かに冒険者としての活動中はどうしてもできるだけ魔力は使わない方針の時が多かった。でも学校長の卒業祝いのおかげで魔法を使う難易度は格段に下がった。これらを使えば冒険者の国でも魔法職の冒険者としても活動できる。
「それと、君はかなり強くなっている。でも、まだまだ君よりも強い者は沢山いる。それは個人だけじゃなくて、国とかの組織を含めてだ。
だから絶対に公に物理職と魔法職を持つというのをバレてはいけない。でもこの先は全力でないと勝てない敵も増えてくるだろう。仕方なく魔力を使った時に少しでも誤魔化せるようにという意味も含めて贈ってもいるよ」
「ありがとう」
学校長はかなり俺の心配をしてくれていることがわかった。
俺は学校長から受け取った魔導具を使って今まで以上に物理職と魔法職の両方のステータスを持つのを隠そうと決意した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます