第325話 3対1の目的

「んんーー!!」


目が覚めた俺は身体を起こし、腕を上げて伸びをする。


「起きたのは俺が最後か」


俺が起きた時にはもう3人とも起きていた。

ちなみに、起きた順番を聞くと、ラウレーナ、ルシエル、ルイだったそうだ。ルイのあの魔法を食らったラウレーナが1番に起きるとはな。もしかして物理職の方が回復するまでが早いのか?



「さて、まずは4人とも良い戦いだったと言っておくよ」


俺達の元に学校長がやってきてそう言ってきた。


「反省会の前にこの戦いの目的を話すよ。その目的はヌルヴィスが1人でどれだけ戦えるかを見るためなんだよ」


どうやら、学校長はこの3対1の模擬戦をただの思い付きで面白そうだからやったとかではないようだ。


「惜しいところまで戦えたら良いと思ってたけど、勝ってしまうなんてね。これならヌルヴィス1人で次の国や街に行っても大丈夫そうだ。ちょっとやそっとの敵じゃ負けないよ」


なるほど。これは俺が1人で行動しても大丈夫かのテストのためだったのか。しかし、惜しいところまでで良かったのか…限界まで振り絞って傷だらけになって勝つ必要はなかった。…まあ、それを知ってたとしても俺は勝ちたいから誰よりも重傷になっても最後まで戦ったな。

でも学校長の話はわかったが、気になることはある。


「何でヌルヴィスが1人で行動する必要があるの?僕らも一緒に行くよ」


そう、そこだ。ラウレーナが言っていたように3人で行けばいいのだ。別にわざわざ俺1人で行動する必要はない。


「2人はここで学べることを全て学んだと言えるかな?」


「「あっ…」」


学校長のその言葉に2人はハッとなる。


「ラウレーナは巣に連れ込むために巣の魔法の改良や他の手段を作ること、ルシエルは目眩しの魔法に追加効果を作ったり、他の魔法の開発だったりとここでやれることは残ってる。

でも、ヌルヴィスにはここでやれることは残ってないんだよね。詠唱省略も地道に練習するしかないし、オリジナル魔法も大鎌の魔法があれば必要ない」


俺は学校長で闇魔法と大鎌のゴリ押しをできるように特訓していたほどには魔法に関してここで新たに学ぶことは無い。

だが、ラウレーナやルシエルはまだまだ魔法の開発など学校長に相談してやれることが多い。他の場所でもそれらもできなくはないが、魔法のエキスパートがいるここでの方が捗るのは間違いない。


「ヌルヴィスにここで無駄な時を過ごさせる訳にはいかないから、ヌルヴィスだけ他の街へ先に行ってもらおうと思ってね。もちろん、ここに居たいって言うなら止めないよ」


俺は別にここに居ても問題は無い。ここでやれることがない訳ではないのだ。

ただ、俺があの魔族達にも負けないほど、魔族の王の右腕のあの魔族の顔面を殴れるほど強くなるにはどうするのが1番か考えた時に自ずと答えは出た。


「わかった。先に俺一人で次の国に行ってそこでラウレーナとルシエルを待つよ。ただ、ルシエルは魔族に狙われるから…」


「もちろん、私が責任を持って近くまで転移で連れて行くよ」


問題はルシエルがラウレーナと2人で俺の後を追うことだった。その時に魔族に狙われたら大変だ。

だが、学校長が送ってくれるなら安心だ。

いや……ちょっと待て!


「いや!駄目だ!ルシエルと離れたらルシエルが奴隷契約で死んじゃう!」


危ない…思い出してよかった。ルシエルと距離が離れ過ぎると、ルシエルの奴隷紋が反応してルシエルを殺してしまう。だから俺はルシエルから隣街ほどの距離は離れてはいけない。


「あー、それね」


「っ!?」


学校長はそう言うと、ルシエルの服の中に手を入れ、胸より少し上の奴隷紋を触る。そして、何らかの詠唱を小声で行った。



「はい。契約内容を変えたから問題無いよ」


「へ…?」

「え…?」


「距離の制限を無くすついでに、ヌルヴィスが死んだ時にはルシエルは奴隷から解放されるようにもしたから安心して死んでいいよ」


「「……」」


俺とルシエルは空いた口が塞がらなかった。この学校長は何でもありだと思っていたが、まさか奴隷の契約も弄れるとは…。できないことの方が少ない気がする。いや、そもそもできないことがあるのか?



「ヌルヴィスにはおすすめの国があるよ。ちょうど今の力を試すにはうってつけだよ」


奴隷契約の変更は些事かのように、学校長は俺の行き先の話題に移った。


「ヌルヴィスに行って欲しいのは冒険者の国アドリスク。この国の近くには多種多様な魔物が多く、しかも低ランクから高ランクまで勢揃いだ。それもあって冒険者達が多く集まるから冒険者の国って言われてるよ。また、普通はほとんど見ることの無いAランクの冒険者パーティも複数居て拠点にしてる。それに普段は絶対に見かけないけど、伝説とされるSランクの冒険者もいるからね」


その話を聞いた瞬間、俺の中で奴隷契約の変更のことは頭から消え去った。最近はまともに冒険者として活動していなかった。それもあり、その話はとても魅力的に感じた。


「その更に奥には迷宮街って言うのもあるけど、ヌルヴィスはどうする?」


「冒険者の国に行くよ」


学校長の質問に俺は即答で答える。

こうして、俺の次の行先が決まった。

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