第324話 1対3の模擬戦(3)

「がほっごほっ…!」


俺はルイの魔法が消えたところで、咳き込んで血を吐きながら両腕を下に降ろす。


ドサッ


すると、俺の両手で持っていたラウレーナが力なく地面に横たわる。

俺は魔法が来る瞬間に両腕を上げてクロスしたラウレーナを掴んで盾のように上に持ち上げたのだ。

ただ、ラウレーナも無抵抗で盾にされるような者ではない。


「…置き土産がデカ過ぎるぞ」


ラウレーナは魔法が来る前に俺の顔面を1発殴っていた。闘装と氷魔装を打ち砕くその1発は俺の両鼻から鼻血を出すに至った。そのせいで頭と顔がかなり痛い。


「雷魔装、闘装、闇身体強化」


俺は無くなった魔装と闘装をもう一度行い、身体属性強化も変更する。


「腕は使い物にならないか…」


水魔装のせいで服を掴めなく、ラウレーナの腰を掴んだため、俺の両手は水魔装に守られず魔法を受けている。その結果、肘から先はボロボロで力も入らない。


「そろそろ来るか…?」


魔法が終わってすぐにルシエルが攻撃しに来ないのは、俺らの周りの地面には雷がほとばしり、火も付いているからだ。だが、それらはだんだん消えてきている。だからそろそろルシエルは来るはずだ。

俺の身体の痺れももう少しで回復できる。



「しっ!」


「来たか!」


ルシエルが横から勢いよく向かってくる。俺は大鎌をつま先で弾いて浮かび上がらせると、膝裏に挟んでルシエルに振る。


「よっ…!」


キンッと甲高い音を鳴らして俺の大鎌とルシエルの刀がぶつかった。まさか、この状態から大鎌を振るとは思っていなかったのか、ルシエルは体勢を崩している。

そんな中、俺は膝裏から少し浮かび上がらせるように離した大鎌にかかと落としをする。すると、ルシエルへ大鎌の刃の先が勢いよく向かっていく。


「くっ…!」


しかし、ルシエルは自動回避で何とか横に回避をする。それを見越していた俺は大鎌の刃の近くの柄を蹴って、地面に刺さった大鎌を浮かび上がらせると、柄の先を蹴る。


「かほっ!」


ルシエルは向かってきた大鎌の峰で腹を殴られて転がっていく。俺は蹴った大鎌にすぐ追い付き、大鎌の柄を足裏で回転させて大鎌を上に向ける。


「はあっ!」


そして、大鎌の柄の先を片足で軽く踏みながら、大鎌をもう片足で蹴り上げて大鎌から闇の斬撃をルシエルに放つ。俺は立ち上がった大鎌を口で咥えると、大魔法を打ち終わって疲弊しているルイへと向かう。


「燃え尽きろ!」


「轟け!」


ルイが向かってくる俺に詠唱を始めた。俺は咥えている大鎌を首の横で挟んで詠唱をする。

しかし、ルシエルに時間をかけすぎてもうルイが魔法を使えるくらい復活していたか。


「ファイアランス!」


「サンダーサイズ!」


俺とルイの魔法はぶつかり合って相殺される。広範囲の魔法を警戒して魔法で相殺するつもりだったが、これなら大鎌で斬り消せたな。


「燃え尽き、吹き荒れろ!」


今度は複合魔法の詠唱を始めるが、俺は構わずルイへと向かう。


「ファイアウィンドサイクロン!」


今度はちゃんと大鎌で消せない広範囲の魔法を放ってきた。だが、もうそれは問題ない。


「闇れ!」


俺は温存していた闇魔法のサイズのストックをここで使った。元々、ストックはルイを確実に仕留めるために使うつもりだった。

俺のストックは魔力が残り少ないルイの魔法を突破してルイへと迫る。


「うぐ……」


ルイは杖でガードしようとしたが、上手くいかず、ストックの攻撃を受けて吹っ飛ぶ。もちろん、俺はそれを追う。



「はあっ!」


「何で大鎌を両手を使わずに大道芸みたいに自由に使えるの…」


まだ意思があったルイに首の横で挟んだ大鎌を振り、確実に気絶させる。


「俺に大鎌を使えない状況はない」


ルイを気絶させてから質問に答えた。

俺の鬼才の大鎌なら手足以上に上手く扱える。俺からしたら大鎌は第5の四肢に近い。だから両手両足が無くなったとしても大鎌なら自由に扱える自信がある。



「さて、後は1人だけだが、まだやるか?」


「もちろんじゃ」


(ちっ…)


正直、両腕は感覚がないほど酷いし、顔面を殴られたせいで顔と頭もガンガン痛い。だからここで諦めて貰いたかったが、そう上手くはいかないようだ。

とはいえ、ルシエルも無属性魔法と大鎌と闇の斬撃を食らってかなりボロボロである。


「暗がり、轟け!」


「っ!」


ルシエルには悪いが、この状況でルシエルと接近戦をしたいとは思えない。オリジナル魔法が禁止のルシエルには俺との魔法合戦は分が悪いだろう。


「ダークサンダーバーン!」


俺は目の前に複合魔法で広範囲魔法を放つ。とはいえ、これくらいなら今のルシエルでも避けれる。だが、ルシエルはこの魔法のせいで俺に迫るとしたら遠回りしないといけなくなる。


「なっ!」


「しっ…!」


しかし、そんな俺の思惑を打ち破り、ルシエルは大ダメージ覚悟で魔法の中真っ直ぐ向かってきた。


「輝け!」


「ぐぐ…」


ルシエルが突き出してきた刀を膝裏で挟んだ大鎌で受けるが、その前にルシエルは詠唱を始めていた。


「ライトランス!」


「ぐがっ…!」


大鎌を挟んだ右脚の太ももにルシエルの魔法が突き刺さる。力が抜け、大鎌が地面に落ちる。


「おらあっ!!」


俺が痛みで怯んでいる間に、ルシエルは俺の大鎌を俺の足の届かない場所まで蹴り飛ばす。


「しっ!」


そして、ルシエルはそんな俺に刀で斬りかかる。大鎌が無く、両腕と片脚が使えない今だと防御なんてほぼ不可能だ。魔法なども間に合わない。

負けたと感じつつも、せめて大鎌が手元にあればどうにかできるのに!っと思った時だった。


「至極来い!」


俺は自然とそう叫んでいた。すると、闘力が勝手に勢いよく大鎌まで伸び、大鎌を俺の顔まで高速で引き寄せた。


「うおっ!」


「しあっ!」


俺の咥えながら振った大鎌とルシエルが振った刀をが俺に当たるのは同時だった。



「俺の勝ちだ…!」


その結果、その場に立っているのは俺だけになった。最後に分けたのは大鎌術と刀術のスキルレベルの差。それと咥えることで腕の影響無視で全力で大鎌を振れた俺と、手でしか刀を扱えないせいで右肩の傷の影響を受けたルシエルの違いだ。

だからルシエルの攻撃は俺の身体を斬り裂いているし、傷も深いが、内臓が零れる程では無いからまだ活動はできる。

ちなみに、ルシエルには大鎌の峰を叩き付けただけなので、氷魔族みたいに身体が真っ二つにはなっていない。


「勝者!ヌルヴィス!」


「よっしゃー……」


この中で1番怪我が酷い気がするが、何とか勝つことができた。


「これなら2人が魔法の特訓をしている間にヌルヴィス1人で次の国に行かせても大丈夫かな」


「え?あっ……」


回復させるために近寄ってきた学校長はそう言ったが、真意を聞く前に俺に限界が来て気を失ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る