第321話 4人目の戦い(2)

(ルイの魔法まで残り5歩…4歩)


俺はルイに近付きながら心の中で地雷原までのカウントダウンを始めていた。


(3歩…2歩!)


そして、残り2歩の地面で走り出し、最後の1歩で大きく跳んでルイに迫る。


「ファイアブレス!」


「シールド!!」


詠唱省略のルイの魔法を俺は無属性魔法を蹴って横に避ける。そのまたすぐに盾を蹴ってルイに正面から迫る。


「はあっ!」


「うっ!」


その大鎌を叩き付けるように上から振り下ろすと、杖でガードしたルイは背中から地面に倒れる。その時にルイは自分の使った何らかの魔法の魔力の上に横になった。その瞬間、俺の危機感知が反応する。


「っぶね!?」


魔力のあった地面から50cmほど上から尖った雷を帯びた岩が突き出てた。俺はそれを何とか身体を捻って掠る程度まで避ける。いや、掠ってしまった。


「なっ!」


その棘は俺に狙いを定めたように方向転換し、俺に巻き付いてきた。俺の上半身は巻き付かれたが、別に腕を固定されてはない。本当に数回り身体を巻き付いているだけだ。だが、問題はこの魔法の岩が重く、雷を帯びている点だ。この2つのせいで俺の動きは鈍る。


「ファイアランス!」


「闇れ!」


自分の上から落ちそうになっている俺にルイは魔法を放ってきた。俺はそれを大鎌で防げないと判断し、咄嗟にストックで相殺しようと放つ。しかし、放った瞬間にミスをしたと悟る。


ガンッ!


「がっ…!」


「ぐっ…!」


至近距離でぶつかりあった魔法が爆発することで俺とルイはそれに巻き込まれた。



「いって……」


爆発に巻き込まれたおかげ?で地雷の範囲から出て、巻き付いた岩も取れた。俺は確かなダメージを感じながら立ち上がる。ほんの少し痺れているのも厄介だな。


「うぅ……」


また、ルイも俺以上にダメージがあるようで苦しそうに起き上がる。

ルイの詠唱省略の魔法よりも俺のストックの魔法の方が威力が強かったのだな。


「くぅ…ふぅ」


背後が地面でそこまで吹っ飛ばなかったルイは再び地雷の中に入る。ちなみに、地雷は4、5個減っている。きっと魔法の爆発で転がったルイが自分で踏んだのだろう。


「しっ!」


俺は痺れが取れると、少しふらふらしているルイに再び迫る。


「シールド!!」


地雷のあるところからは俺は無属性魔法の盾を蹴って進む。さっきの地雷が踏んで発動すると分かったからこれで問題ない。


「アースアロー!」


近付く俺にルイが魔法を放つが、狙いが俺ではない。


「まずっ!」


俺は急に方向転換をする。すると、すぐ近くに岩の棘が伸びてきた。踏めば発動するのなら、土魔法などで直接重さが加わっても発動するか。


「それなら!」


俺は盾を蹴って高く跳び上がる。そのままルイの真上まで行き、天井を蹴って急降下する。


「ウィンドサイクロン!」


「シールド!!」


そんな俺に竜巻のような風魔法を使ってくるが、俺は無属性魔法の盾を真っ当に使ってそれを防ぎながら落ちる。だが、盾はバリンバリントと次々に割れていく。


「ぐっ……」


ルイに大鎌が届く前に盾が全て割れたが、もうルイはすぐ近くにいるから問題ない。


「はあっ!!!」


「あっ…!」


俺は大きな声を上げて全力で殴ると見せかけて、大鎌の先でルイの杖を弾き飛ばす。力がないルイの杖を弾き飛ばすのは簡単だった。また、これで魔法も消えた。

俺はその場でぐるっと横に1回転をしてもう一度大鎌を振る。


「らあっ!」


「がっ…!」


峰から振り下ろした大鎌はルイの肩に当たり、ルイはそのまま地面に叩き付けられた。


「おっとと…」


俺はと言うと、地雷を踏まないように地面に何とか着地した。


「勝者ヌルヴィス!」


「よっし!」


ピクリとも動かないルイを見て学校長は俺の勝利を宣言した。これで何とか3連勝達成だ。


「よいしょっとと…」


俺はそのままルイを抱き抱えて慎重に地雷原から出ていく。ルイが気絶してもこの魔法は消えないんだな。



「随分思いっきり大鎌で殴ったね」


「ははは……」


学校長が思わずそういうほどルイの肩は酷いことになっていたそうだ。また、俺との魔法の爆発で全身傷だらけでもあるそうだ。


「ヌルヴィスはあんまり怪我をしてないね」


「防具のおかげでね」


俺は軽装だが、防具をつけている腕、足、胸などにはあまり怪我はなかった。氷魔族は防具が無い場所を狙って攻撃していたからあまり実感はできなかったが、新しい防具も優秀のようだ。



「うゔ……」


「あ、起きたか」


模擬戦が終わってから1時間ほどしてルイも無事に目が覚めたようだ。


「反省会の前にちょっといい?」


「ん?」


いつもはここで反省会が始まるのだが、その前に学校長から話があるようだ。


「次はヌルヴィス対ルシエル、ラウレーナ、ルイスで戦わない?」


「はあ!?本気か?!」


対戦順決めの時にもそういう提案はしていたが、あれは冗談だった。だが、今回は冗談には見えない。


「もちろん本気だよ。ただ、そのまま戦ったらさすがにヌルヴィスが可哀想だからハンデはつけるよ」


冗談ではないということに驚いたが、ハンデがあるならまだマシである。


「ルシエルはストックとオリジナル魔法禁止、ラウレーナは同時に3本以上の水の線の禁止、ルイスは詠唱省略の禁止でどう?」


「……断れるのか?」


学校長は提案をしているふうに見えているが、これはもう学校長の中では決まっていると思う。だって、ハンデまで詳しく既に考えてあるんだから。


「断れないから決定ね。明日は3人で作戦会議してもらうからヌルヴィスはここには来ないでね」


「何なんだ…」


学校長の急な提案で俺は急遽3対1で戦うことになってしまった。とはいえ、そのハンデがあるなら何とか戦えると思うし、もしかしたら勝てるかもしれない。

ただ、この時の俺は学校長が何を考えてこの提案をしているかまでは考えてすらいなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る