第320話 4人目の戦い(1)

「今回はヌルヴィスの作戦勝ちだったね」


「はい…」


学校長は回復させている途中で意識を戻したラウレーナにそう言った。

ちなみに、ラウレーナの怪我は骨が数本と内臓が少し潰れかけているだけで致命傷ではなかったらしい。致命傷とは一体何なのだろうか?



「さて、反省会を始めようか」


ラウレーナと俺が完全回復すると、昨日のような反省会が始まる。

今回俺の反省点は大魔法で仕留めきれなかった時のことを事前に考えておかなかったことと、最後にラウレーナの巣から注意が逸れたことくらいだった。良かった点はあの魔法の発想と魔力ほぼ全て使う大胆さなどについてだ。あの魔法は氷の刃でラウレーナの水魔装を凍らせて、後ろの闇魔法の部分で叩き付けて攻撃するものだった。刃は凍らせて消滅するので斬れ味は0だが、そもそも斬撃に強いラウレーナには斬れ味は必要ない。雷が水魔装を通さないので、凍らせて水魔装を薄く弱くしたのだ。


また、俺とは逆にラウレーナの良かった点はあの魔法で意識を失わずに俺に攻撃を仕掛けたことぐらいだった。悪かった点は俺の魔法を避けずに食らったことなどだ。やはり、防御力の高いラウレーナはあまり攻撃を避ける意識が薄い。それが今回は最悪の形で出たわけだ。また、あのラウレーナの巣は罠だとわかるから絶対に警戒される。だからラウレーナの巣を囮にできるか、無理やり連れ込めるようにならないと今のままの運用は難しいとのことだ。



「じゃあ、明日はヌルヴィスとルイスね。また明日」


反省会が終わると、俺達は解散して家に帰った。俺は明日の模擬戦がラストだが、3連勝できるように頑張るぞ。

それと、最近はずっと学校長が居るけど、暇なのか?




「準備はいい?」


「ああ」


「ん」


さらに次の日、大鎌を構えた俺と、小さめのルイと同じくらいの大きな杖を持ったルイが開始の合図を今か今かと待っていた。


「ヌルヴィス対ルイスの模擬戦…始め!」


「ふっ!」


「硬くなれ!」


開始の合図と同時に俺はルイに向かって走り出す。走っている途中で身体強化、雷身体強化、闇魔装、闘装、雷付与を行う。


「はあっ!」


「アース!」


俺はまだ詠唱途中のルイに斬りかかる。俺の大鎌をルイは杖を前に出して受ける。


「硬い杖だな!」


「…ランス!」


俺の大鎌はルイの杖に傷を付けただけで、斬り裂くことができなかった。木でできているように見えるが、その杖は一体何でできたいくらの杖だよ。

杖について考える余裕を無くすかのように、後ろに体勢を崩しながら吹っ飛んだルイが杖を俺に向けて魔法を放ってくる。


「しっ!」


俺はその魔法を大鎌で斬って消し、無くなった大鎌の闇魔装をすぐに補充する。避けることもできたが、避けて追尾されても困るからな。


「……」


尻もちをついたように座ったままのルイに俺は走って向かう。そして、そのまま叩き潰すかのように大鎌を構える。

だが、俺はこれでルイとの模擬戦が終わるとはこれっぽっちも思っていない。


「ファイアブレス!」


「やっぱりな!」


ルイが学校長にダメージを与えたのなら、詠唱省略くらい取得していると踏んでいると思っていたが、やっぱりだった。また、詠唱省略で放たれた魔法は俺が斬り消せないような広範囲の魔法だった。俺は事前に警戒していたのと、雷身体強化でスピードが強化されていたからほとんどダメージを受けずに後ろに避けられた。


「取得が早過ぎるだろ」


「賢者だから」


詠唱省略を取得していると予想はしていたが、それにしても取得までが早過ぎる。俺がこの学校に来た時から取得するべく特訓はしていたのだろうが、それでも早い。俺はまだ欠片もできる気がしないぞ。まあ、賢者なら詠唱省略の適正はかなり高いだろうから納得はできる。


「こんなに早く使うつもりはなかった」


「それは残念だったな」


ここぞという場面で使うつもりだったかもしれないが、俺はそれをさせたくなかったから開始早々の速攻でルイを追い詰めたのだ。詠唱省略をできるのを知っているのと、できだろうと予想しているのでは俺の気の持ちようにかなりの差があるからな。


「もう隠し事は無しでいく。硬くなり、轟け!」


「っ!」


新たにルイが詠唱を始める。詠唱途中に近付くことはできないと判断し、俺はさらに少し離れて様子を見る。無属性魔法かストックなら攻撃できるだろうが、今の相性中の魔法で相殺されそうなのでやめておく。


「アースサンダーマイン」


「……ん?」


ルイが魔法を唱えても何も魔法は現れなかった。いや、違うな。


「地面に何をしかけた?」


「何のこと?」


ルイから2~5mほどまでの地面に魔力の反応が20個ある。その位置は決められていないようにランダムだが、全方位満遍なく存在している。また、一つ一つは頭2つ分くらいの大きさしかない。

それと、その誤魔化し方は無理があるぞ。


「何の魔法だ?」


その魔法は詠唱から属性はわかるが、魔法の部分の地面を踏んだら発動するのか、近くを通ったら発動するのか、ルイの任意で発動するか分からない。また、魔法が攻撃なのか、防御なのか、拘束するものなのかすら分からない。何もかも分からないのだ。


「ルイは別にここに来なくてもいいからね」


「……ああ、そうだな」


何よりも、別にルイからすればその範囲に俺が来なくてもいいのだ。


「燃え尽き、吹き荒れろ!」


ラウレーナの場合は魔法の範囲に来てくれないと困っていた。だが、ルイはその範囲から攻撃ができる魔法がある。


「ファイアウィンドランス!」


「はあっ!」


今の魔法を闇魔装を纏った大鎌で斬り消す。闇魔装で効率よく斬り消せるようになったが、それでも魔力消費勝負ではルイには勝てない。無属性魔法もルイの複合魔法を相殺するにはかなりの出力になるから効率が悪い。

また、闇魔装を纏った状態でルイの魔法を食らったら回復できるが、そんな悠長に回復できるほどの生半可な攻撃はルイはしてこないし、もちろん前回それで痛い目を見てるから警戒もしているはずだ。


「轟け!サンダーサイズ!」


「硬くなれ!アースランス!」


地雷のような魔法を狙って魔法を使うが、それはルイの魔法によって相殺される。無属性魔法を放っても詠唱省略で相殺されるな。



「くそ…行くしかないか」


「さあさあ、早く来てよ」


俺は諦めてルイに向かって歩き出す。そんな俺を妨害するつもりは無いようでルイは魔法の詠唱はしない。

魔法職が物理職を持つ者に接近戦を望むってどういう状況だよと思いながらも、俺は警戒しなが進んだ。

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