第315話 俺の原点

「一旦その実験とやらは止めた方がいいかもしれないね」


魔装の後も色々と試していた俺に学校長はそう言った。


「これは大体の人が当てはまるんだけど、まず強くなるためにするべきことは自分長所を伸ばすか、短所を無くすかの2択なんだよ。ルシエルは前者をやってて、ラウレーナは後者かな。多分ルイスはそのどちらも取り組んでるね」


「ああ」


それは俺もよくわかってる。だから獣人国では後者のために闘装と魔装を取得し、ドワーフ国では前者のために大鎌を手に入れた。

また、ルシエルは様々な種類の魔法を活かすために複合魔法や新しい魔法を練習し、ラウレーナは素早さを補う魔法の開発に勤しんでいる。また、ルイは複合魔法の練習と相手に接近されたりした時のための魔法の開発をしている。


「でも、ヌルヴィスがやってるのはそのどちらでもないのには気付いてる?」


「ああ…」


今俺がやっているのは新しい技を身に付ける、いわゆる長所を増やすことだ。


「もちろん、長所を増やせれば先の2択以上にすぐ確実に強くなれる。でも、それをみんなしないのはそれが凄く難しいからだよ」


今の実験も全て失敗に終わってるし、その難しさはよく分かってる。


「あの偉そうな魔族に何を言われたか知らないし、今すぐ強くなりたいって気持ちも分かる。でも一旦原点に帰ってみたら?」


「原点……」


そう言われて俺は原点は何かを考える。なかなか思い浮かばないと、学校長が手助けをしてくれた。



「ヌルヴィスの1番の長所は?」


「魔力と闘力があること」


「それだけがあっても駄目だよね?他に何がある?」


「それを活かせる高い【攻撃】と【魔攻】」


「それで?さらにそれを活かせる何がある?」


「鬼才の大鎌術と闇魔法」


「そう。それだよ」


学校長はやっとお望みの答えが出たからか、俺を指す。


「今回は相手が本気じゃなかった。もし、本気でこられた時に小細工を2、3個増やしたところで絶対勝てたと言えるかい?」


「………いや」


本気を出されていたら小細工を使うことなく負けていただろう。

今回の相手は自分よりも全て上回っているように感じた。まだ【防御】などの短所が負けるには別にいい。だが、今回は長所すら負けていたのだ。


「厳しいことを言うよ。闘力と魔力を持っている君は魔族以上に器用貧乏になりかけている。特に小技を増やせば増やすほどその傾向が強くなる」


「っ!?」


それを聞いて俺はハッとしてしまった。言われたらそんな自覚はある。


「私が教えた複合魔法やこれから取得しようと頑張っている詠唱省略はもちろん良いスキルだ。でもそれらは補助でしかない。元となるスキルが弱ければ意味が無い」


確かに複合魔法や詠唱省略がどんなに便利だろうと、魔法のスキルがレベル1だったらほぼ意味が無いに等しい。


「だから原点に帰ろう。新しい大鎌を手に入れた、複合魔法を取得した。それならそれの元である大鎌術と闇魔法をもっと伸ばそうよ」


「…できるのか?」


もうその2つ、特に大鎌術は努力で伸ばせる限界に達している気がする。


「できるよ。例えば、鬼才の武器スキルは勝手に動いていると思うほどに自由自在に武器が振れる。でも、自分が考えついてもない常識として無い動きはできない。それに最初から何でもできたらスキルレベルなんて要らないからね」


「まだ可能性が……」


俺は右手に握った大鎌を見つめる。俺が勝手に限界だと思ってたから成長しないだけで、もっとこの大鎌術は成長できるのか?


「あっ…!」


俺は突然大鎌を振り被ると、大鎌を大きく後ろから下に振り、そのまま上に振り上げる。このように振ると、大鎌が地面を擦ったり、ぶつかったりするから今まではこんな動きはできなかった。

だが、今は違う。硬い地面に大鎌の刃が当たるが、抵抗を感じずに地面を斬り裂いて、大鎌は上に振り上げられた。


「そう、それだよ」


「こんな使い方が……」


俺は新しい大鎌の使い方に感動していると、学校長は続けて言う。


「魔族の氷の魔装の武器は斬れないと判断して、斬る選択肢を無くしてたけど、本当に斬れなかったの?全く同じ場所に鋭い一撃を何度もできていたら斬れたんじゃない?」


「確かに……」


あの時斬るのは無理とそうそうに諦めた。だが、この大鎌と俺の大鎌術なら斬れたのではないか?


「闇魔法に関しても私が教えたいことは沢山ある。まだまだ鬼才のスキル達は成長できるよ。君の長所はまだ成長途中だよ」


長所はまだ成長途中という言葉が俺の脳裏に強く刻まれる。


「そもそも闘力と魔力を持って人よりも手数が多い君はあんまり小細工は要らないよ。昔の戦い方を思い出して」


「昔の戦い方……」


昔はどうやって戦っていただろうか?思い出されるのは冒険者になって初めて生死を分ける戦いをした彩化の魔物である赤ベアだ。あの時は闇魔法以外を使って小手調べかつ確実にダメージを与えていた。だが、最終的に大鎌と闇魔法に頼って戦い、俺が生き残った。


「君なら私や後から来た魔族みたいな圧倒的格上以外なら大鎌と闇魔法で相手を正面から叩き潰せるんだよ。それだけの力、ポテンシャルがある。

これからここにいる期間はそれができるように特訓だよ。ここを出ていく前にラウレーナとルシエルとルイと戦ってもらうけど、騙し討ちや初見騙しではなくて正面から叩き潰してみなよ。

もちろん、私はヌルヴィスだけでなく、他のみんなも勝てるように鍛えるけどね」


「ああ…。任せとけよ」


氷魔族には油断したところに初見騙しの詠唱省略の無属性魔法で隙を作って殺った。だが、正面から氷短刀をぶった斬って身体を真っ二つにできるようになる…想像しただけで武者震いが起こる。そんな圧倒的な強さを手に入れたい。

俺はここにいる間は大鎌術と闇魔法を重点的に鍛え、3人との総当りの模擬戦を挑む。

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