第314話 特別なスキル

「闘装、魔装複合」


この魔法は発動しなかった。これは想定内だ。正直、これらがそう簡単に合わさるとは思っていない。合わさったとしても、さっきの無属性魔法らと同じようになるとは思っていた。


「闇魔装、雷魔装複合」


だからさして落ち込まず、次のを試した。


「で、できた…!」


何と、今回はできたのだ。今、俺には確かに闇魔装を纏いながら、雷魔装を装着できている。

喜びの感情が溢れ出すが、それは一瞬だった。


「あっ…何だこれ」


その魔装は雷魔装にしては防御力は限りなく低い上に、闇魔装の斬撃や魔力吸収などの特殊効果は使える気配がない。つまり、無属性魔法と他の魔法を試した時と大差は無い。


「はあっ!」


試しに斬撃をするように願ってもそこからは何も出ない。


「鬼才でも変わらないんだね」


相変わらず俺を見ていた学校長が少し残念そうにそう言った。


「変わらない?」


「見せてあげるよ。火魔装、土魔装」


変わらないということに疑問を覚えると、学校長も実際に2種類の魔装を行って見せてくれた。


「複合魔法は誰よりも極めてる自信があるけど、それでも1種類の方が性能がいいんだよ。ちなみに、身体属性強化でも同じことが言えるね」


学校長が見せてくれた2種類を合わせた魔装は俺からしたらなかなかの出来だが、それでも1種類ずつの方が効果は高いらしい。というか、さりげなく魔装をしたことに驚いた。

しかし、身体属性強化でも同じ結果なのか。俺としては攻撃を上げながら素早さも上げられるかもと期待していたのに。


「…だから魔族も2種類の魔装はしてなかったのか」


あの魔族達が魔法を1種類しか使えないということは無いだろう。だが、王の右腕の魔族を含めて1種類しか使っていなかった。


「これは私の仮説だけど、それらをちゃんと合わせるには他のスキルが必要なのかもしれない」


「他の…?」


「そう。複合魔法のようなスキルの別バージョンが」


確かにその説は納得できる。魔法を合わせるための複合魔法。なら身体属性強化や魔装などを合わせるスキルがあってもいいかもしれない。


「私にそれらを合わせるのは必要なかったからそのあるかも分からないスキルを取得するための努力はしなかったよ。でも接近戦をするヌルヴィスには利点が大きいし、取得するのを目指すべきだ」


「それはそうだな。でも、かなり時間がかかるぞ」


1から手探りで知らないスキルを取得するというのはかなり難易度が高い。それこそ何かの研究者みたいにそれだけの根気よく取り組まなければダメだろう。


「いや、案外上手くいくと思うよ」


「え?」


学校長はニヤッと笑いながらそう言ってきた。その理由がわからない俺に学校長は質問をしてきた。


「スキルの取得は職業によって難易度が違うのは分かるね?」


「ああ」


スキルは職業によって取得難易度が変わる。例えば、武器全般を得意とする戦士と剣を得意とする剣士では槍術の取得に同じ特訓を同じだけしても戦士の方が早く取得する。

また、一般的な物理職が火魔法などの魔力を使うスキルを取得するのは無理と言われ、一般的な魔法職は剣術などの武器を使うスキルや闘力を使うスキルを取得できない。ただ、一般的な魔法職でも短剣術や棒術などの小さな武器や比較的重くない武器を扱うスキルは取得できる。


「私の予想ではヌルヴィスの職業はそれを取得しやすくなっているはずだよ。接近戦をするのには必要だからね。魔族でやろうとしている者を見たことは無いけど、ルシエルも取得しやすいと思うよ」


「ルシエルはともかく俺はどうだろうか?」


俺の職業が魔法剣士ならそのスキルがあるとしてら取得しやすかっただろう。だが、俺の職業は『不遇魔法剣士』だ。こんなところで不遇要素を発揮する可能性は高い。


「あ、そっか…不遇だもんね。でも闘力と魔力を合わせるスキルなら取得できるはずだよ」


「闘力と魔力を合わせる……」


確かにそのスキルがあるとしたら、この世で取得できるのは俺しかいない。それなら取得できるかもしれない。いや…不遇だからもしかすると…。


「何を心配してるか分からないけど、必ず取得できるよ」


「え?」


俺の考え込む顔を見たのか、学校長はそう言ってくる。


「特別な職業はその職業だけの特別なスキルを最初から授かってる。勇者の聖剣術や聖女の聖魔法しかりね。私が知ってる中でもいちばん特別な職業である君が授かってない時点で不遇だから」


「そっか?」


特別なスキルを授かってないことに怒ればいいのか、闘力と魔力を合わせるような特別なスキルがあるとしたら取得できそうなことに喜べばいいのか分からなかった。

とりあえず、俺はこの職業の特別な何らかのスキルを取得できるのはわかった。


「いや…キツ過ぎだろ…」


冷静に考えるとそれを取得するのはかなり難易度が高い。

もし仮に不遇勇者や複合聖女なら前例があるから聖剣ひたすら振ったり、回復魔法のように人を魔力を使って癒そうとすれば聖剣術や聖魔法を取得できるだろうから良い。

だが、不遇魔法剣士は前例がないから特別なスキルがどんなスキルかも分からない。学校長の言うように魔力と闘力を合わせるのが俺の職業の特別なスキルかも怪しい。だから何をどうすればそのスキルを鍛えて取得できるかが分からない。そもそも取得してもそれが特別なスキルかの判別は難しい。本気で確かめるには俺以外に取得した者が居ないか調べないといけない。

だから特別なスキルを取得するのはほぼ無理に等しいだろ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る