第312話 伝言

「魔族の王の右腕……そりゃあ強いわけだな。まあ、まだまだ隠してる力とかはありそうだけど」


ルシエルの話を聞いて最初にでてきた感想がそれだった。


「学校長もあの魔族をバラバラにするのも凄いね。僕はそこそこのダメージを与えるのがやっとだったのに」


確かに魔族を一瞬でバラバラにする魔法を使える学校長は凄いな。それにここへ急に移動していたというのも、ほぼ確実に特殊魔法の何かだろう。


「そんなに褒めて貰えると嬉しいね」


「「「学校長!」」」


俺達の会話を聞いていた学校長が救護室の中にやってきた。


「とりあえず、3人…4人とも無事で安心したよ」


「学校長達のおかげだよ。ありがとう」


「「ありがとう」」


俺が学校長にお礼を言うと、続けて2人もお礼を言って頭を下げる。


「お礼を言われることでもないよ。自分の教え子を守るのは当たり前だよ。それに言うなら私も遅くなってごめんね」


学校長は頭を軽く下げて謝ってくる。それを俺たちは否定しようとするが、その前に学校長が話し出す。


「まず、あの魔族は帰ったよ」


「え?」


学校長のその発言に疑問の声を発したのはルシエルだった。


「だってルシエルが信じた2人は全く躊躇することなくルシエルと居ることを選んだ。つまり、ルシエルはあの男との賭けに勝った。だからあの魔族と共に行動する必要は無くなった。だから国に帰ったよ。そもそも結構国を空けてるから早く帰らないといけなかったんだよね」


「……もう行ってしまったのか」


あの魔族がもう居ないと言われたルシエルは少し寂しそうだった。まあ、昔からの頼れる知り合い?みたいなのが急に居なくなったら寂しいよな。


「あ、その魔族からヌルヴィスに伝言あるけど聞く?」


「……聞く」


伝言の内容は良いものの気が全くしないが、気になるからここで聞かないという選択肢は無い。ルシエルを連れることに対しての憎まれ口とかじゃないよな?


「じゃあ、はい」


学校長が何かしらの箱のような魔導具を取り出すと、ボタンを押した。


『お前は弱いな』


「っ!!」


その箱からあの魔族の声が聞こえてきた。


『誰にも無い力を持ってなぜその程度の力しかない?もし俺がお前と同じステータスだったとしても俺の方が強いぞ』


「……」


格上だとは認めているし、あの圧倒的強さは恐怖もあるけど憧れに近い感情もあった。だが、この言い方は少しイラッとくる。


『もっと頭を使って柔軟に戦え。せっかくもっと色々できる能力がお前の固定観念で有効活用できていない。今のままでは宝の持ち腐れだ』


『………』


相変わらずイラッとくるが、言っていることは正しい。この国では魔法を鍛えると思っていながらも、魔力しか使わないという固定観念があって、無属性魔法では詠唱省略ができることが失念していたりもした。俺が気付いていないだけで、他にもこのようなことはあるのだろう。


『もし次に会った時にまだ固定観念に縛られた雑魚のままだったら、その時は姫様は我が連れ帰る。精々我の圧に負けずに立って立ち向かえる程度には強くなれ』


「……」


その言葉を最後に伝言は終わっていた。


「偉そうなお前に1発入れれるくらいに強くなってやるよ。そして、いつかはお前よりも強くなって、似たようなことを言い返してやる」


俺は強くなる理由がまたひとつ増えた。上から目線でここまで酷評されるのは普通にムカつく。そもそもお前は最後の方に来ていいとこ取りをしただけな癖に。まあ、来てくれたおかげで俺達の命が助かったわけだからそこに関しての文句はないけどさ。

ただ、次に会うのがいつになるかは知らんが、最低でもあいつがその時の俺と同じ歳の時よりも遥かに強くなってやろうじゃないか。


「意気込んでいるところ悪いけど、2人は1週間は走ることすら禁止の絶対安静だからね」


「「え…?」」


学校長の言葉に俺とラウレーナは顔色を悪くして首を傾げた。


「帰るなとは言わないけど、戦闘はもちろん禁止だよ。それと、その後1週間は軽い運動はいいけど戦闘は禁止だからね。故意にそれを破ったらもう何も教えないから」


「「はい……」」


俺とラウレーナは学校長から言われてほぼ2週間の特訓禁止を言い渡された。


「余はその間特訓しても良いじゃろ?」


「もちろんいいよ。ルシエルにはあの地下の鍵を渡して置くから私が居ない時も好きに使っていいよ」


「やった!」


1人だけ特訓を許されたルシエルを俺とラウレーナが恨みがましい視線を送っていた。

とはいえ、俺もラウレーナも生死をさまようレベルの大怪我をしたのだ。言われた通り体を休めて完全回復するように務めるしかない。

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