第311話 回想 後

「お久しぶりです。本当に…ご無事でよかったです」


「…うん」


ルシエルは昔のように目の前で頭を下げる魔族に対して、何を言っていいか分からず困っていた。少なくとも、もうルシエルにはお姫様気分は残っていなかった。


「姫様に会って最初に言うことは決まっていました。王様と王妃様はどちらも無事です」


「そ、そっか……。よかったのじゃ……」


ただ、自分の両親が無事と聞かされた時は身体の力が抜けてペタンと地面に座ってしまう。


「回復します」


「あっ」


ルシエルはそこで自分もそこそこ怪我をしていたことを思い出す。怪我の度合いはヌルヴィスと比較すれば軽いが、絶対に軽傷ではないくらいの傷はある。今座り込んだのはその怪我のせいもあるかもしれない。

それらのその傷をポーションで回復してもらう。


「私と共に国へ戻りましょう」


「………」


その提案はルシエルも想像していた。ルシエルもそれを考えなかった訳では無い。でも……。


「余が居たらいつかまた襲われることになるのじゃ」


「それならまた撃退しましょう」


ルシエルの懸念をノータイムで否定してくるが、問題はそこでは無い。


「まだ街を復旧している途中じゃろ?それが直る度に壊されることになるのじゃぞ。それに、この前に攻められた時に何人死んだ?次は何人死ぬ?

そして、次も父上や母上を守れると言い切れるのか?」


「………」


ルシエルのその言葉を今度は否定できなかった。主に竜が街はかなり壊され、魔族も何人も死んだ。もし次もまた竜が来るようだったらその時も犠牲は確実に生まれるだろう。


「ですが、姫様のためであったら我々は喜んで命をかけましょう」


「余はそれが嫌なのじゃ!魔族のため、国の為に命をかけて戦うのは良い。じゃが、余1人のために命をかけるのは違うのじゃ!」


実際は国の姫のために国の騎士や民が戦うのは何も間違っていない。だからこれはただのルシエルの気の持ちようだ。どうしても自分を守るために国の者達が死ぬのを見たくなかった。

何より、もうただ守られるだけは嫌だった。


「余のせいで父上や母上が危険になるのは嫌じゃ」


「………」


また、ルシエルの中でいきなり刺された母の姿がトラウマのようになっていた。ルシエルはもう同じような光景を二度と見たくない。


「でしたら、私が姫様と同行して……」


「いや、君が国を空けるのは不味いでしょ。君は居るだけで抑止力になるんだ。君が居ないと分かれば、人質を取るために国が攻められるよ」


2人の話し合いに魔族の死体を観察し終えた学校長が混ざった。


「過保護もいいけど、いき過ぎると嫌われるよ。それにもうルシエルには頼もしい仲間がいるから大丈夫だよ」


「……」


魔族は横目で並んで横になって眠っているヌルヴィスとラウレーナの方を向く。


「だが、あやつらはまだ弱いぞ」


「そりゃあ、私や君と比べたらまだ弱いよ。雑魚と言ってもいい。だけど、確実に私達に匹敵するほど強くなるポテンシャルは持ってるし、そのために努力する才能もある」


学校長はヌルヴィス達を高く評価しているようだ。


「それにそんなことを言ったらルシエルだって雑魚だよ。何なら3人の中で1番弱い。

でもいいじゃないか。まだ弱くっても。一緒に3人で強くなればさ。別に君も私も生まれた瞬間から強かったわけじゃない」


「だが……」


それでも過保護な魔族は納得しきれないようだ。だから学校長はある提案をした。


「じゃあ、もしその2人がルシエルと一緒に居るのは狙われ続けることになるからと別で行動することを少しでも悩んだら、ルシエルを連れ帰っていいことにしようよ」


「え……」


その提案を聞いてルシエルは寒気を覚える。自分だったらこんな疫病神のような者と一緒に行動したいとは思わない。


「このままだとお互い話が終わらないんだし、それならいいでしょ?少しは妥協をしてくれよ」


「…そうだな。分かった」


「い、いや…それは…」


2人の間で勝手に決まってしまった条件に口を出そうとしたが、その前に学校長が小声で話しかけてきた。


「ルシエルもこれからずっと一緒に居たいなら彼らのことを信頼しないといけないよ」


「………」


それを言われたらルシエルは何も言えなくなってしまう。



「ところで、あれは始祖なのか?」


ルシエルとの話が終わり、魔族がルシエルには聞こえないように学校長に話しかける。


「さあ?知らないよ」


「おい」


その適当な答え方に魔族は学校長を睨むが、何処吹く風で話を続ける。


「別に何だろうと関係無いよ。あれは仲間想いで自由に生きるただの1人の冒険者ってだけだからね。何か使命があって生まれてきたとしても、そんなことどうでもいいんだよ。生きたいように生きれば」


学校長は言いたいことを言い終え、眠っている3人に近寄った。


「さて、怪我人をこんなところでずっと寝させるのは良くないから移動するよ」


学校長はそう言うと、何かの詠唱をし、魔法を使った。


パッ!


「え…?」


そして、気が付いたら景色は変わっており、ルシエルは救護室にいた。混乱している間に学校長が3人をベッドに寝かせた。


「じゃあ、私達はやることがあるから、ルシエルはここで誰かが起きるのを待っててね」


「あっ……」


学校長と魔族は部屋から出ていき、ルシエルは救護室に取り残された。そして、それから数時間待ってヌルヴィスが起きた。


「これで話は終わりじゃ」


こうして、俺が気絶した後の事の話を一通り聞き終えた。

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