第310話 回想 前

「おいおい!まさか2対1で戦うとは言わないよな!?」


「ご希望なら俺一人で相手をしてやってもいいぞ」


気絶したヌルヴィスを学校長が治療している間に魔族同士は会話をしていた。


「それでも勝てねえって。俺が知る限り近接戦最強がお前だぞ」


「それは褒め言葉と受け取っておこう。だが、俺は自分が最強とは思っていない」


「それは嫌味か?自分のタイミングで何人だろうと動きを封じれ、さらに動かせるようになるのも自分のタイミングだ。相手の動きを封じている間はお前も動けないのを加味しても嫌な能力だぞ。知ってても対処の仕様がないしな」


回復魔族はぺらぺらともう1人の魔族の強さを語る。


「それにその能力と強さ故にお前は王の右腕となり、お姫様の稽古相手に選ばれたんだろ」


回復魔族はその魔族の肩書きを語る。


「そんなお前に俺が勝てる訳が…轟け!サンダーランス!」


今までの会話は意識を逸らすためで、回復魔族はルシエルへ向けて魔法を使う。


「シャドーランス」


しかし、そんなことはもう1人の魔族も想像してないわけがなかった。また、姫であるルシエルの危険を見逃すわけが無い。詠唱省略でルシエルの前から放たれた魔法は回復魔族の魔法を突き破って回復魔族の腹に刺さる。しかし、そのキズは回復魔装ですぐに治る。


「その特殊魔法で鬼才の影魔法…。それが厄介過ぎるぜ。もう勝てないのはわかった。もう抵抗しない」


回復魔族はそう言うと、抵抗しようと力んでいた体の力を抜いた。それは動きを封じている側も気付く。


「だが、あの始祖みたいな力を持ったガキは何なんだ。あれは俺らすら把握していない完全なイレギュラーだったぞ」


回復魔族の問は学校長へと向いていた。やっとヌルヴィスの治療に一段落した学校長はそれに答える。


「その前に君の属している組織について詳しく教えてくれるかい?そうすれば、あの子のことについて教えるのもやぶさかでは無い」


「残念ながら俺みたいな末端はそこまであの組織について知ってるわけじゃねぇ。それに限りある情報も言えないし、抜き出せないようになってるぜ。

それと、今の反応であのガキについてはお前らも知らないのは分かったぞ」


学校長と回復魔族の言い合いはこれで終わった。お互いに情報が言えないならそれ以降進展はしない。


「それならお前自身のことを教えろ。あれから調べたが、お前のような魔装の能力の魔族はいなかった。さらに、回復魔法を使える魔族の中にお前はいなかった。それだけの回復魔法だ。少なくても奇才のはずだ。つまり、スキルを授かった時点はお前はステータスを隠して訳だ。何のためだ?」


「あらら。そんなことまで調べられてるのかよ。そんならもう魔族の国は問題なく回ってるわけか。竜を殺れたんだな。まあ、お前がいれば殺れるよな」


回復魔族はそれだけ言って黙った。そして、今の質問についても話す気はないのは2人にはわかった。だから拷問でもして聞き出そうと考えた時だった。


「それと、残念ながら拷問を受けないように俺らは拘束されて10分経ったら死ぬようになってんだ。そして、もうすぐ10分だ」


「「っ!?」」


その発言は少なからず2人を動揺させる。しかし、今からこの魔族の拘束を解くのは何をするか分からず危険過ぎるからできない。


「最後にお姫様に忠告だ」


「っ!」


邪魔をしないように静かにしていたルシエルは急に話しかけられたことに驚く。


「これからもお姫様は狙われるだろう。だが、それはしばらくは収まる。その理由はそこの2人がいるかもしれないせいと、あのガキをどうするかを決めきれないからだ。

だが、いずれまた絶対に狙われる。そして、きっとその時はあのガキも一緒にだ。だから精々もっと強くなれよ!お姫様は力をつけてしっかり抗えよ!がはっ…!」


「「「………」」」


言い切ったと思ったら血を大量に吐いて瞳の色を消した回復魔族に3人は固まった。

しかし、少しして学校長が警戒しながら回復魔族に近付く。


「うん。完全に死んでるね。吹き荒れろ、ウィンドサイクロン」


死んでいることを確認しながらも、学校長は魔法を放って回復魔族をバラバラにした。


「いくらあの魔装が凄かろうとこれなら生き返ることはないはずだよ」


「そうか」


それを聞いて魔族は影魔装を解く。


「自分で末端と言っててもかなり組織とやらを詳しく知っていたけど、もう仕方ないね」


学校長は情報を何も引き出せなかったことを悔しそうに言う。


「姫様」


そんな中、ルシエルの前まで移動した魔族は片膝を付いて頭を下げた。

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