第308話 仲間

「ここは……」


目が覚めた俺は天井が目に入る。どこか見覚えのある天井を眺めている時間はほんの一瞬だった。


「主!起きたのじゃな…」


「ん?ルシエルか。元気そうでよかったよ」


俺の左横にはルシエルが座っていた。また、その奥にはラウレーナが、向かい側にはルイがベッドで横になっていた。2人とも腹部が規則的に上下しているのを見て、無事だったことに再度安堵した。


「学校長らが来たのは夢じゃなかったんだな」


ラウレーナが生きて横にいることで、気を失う寸前の出来事が現実だと実感できた。正直、あの時点でかなり無理をしていて、意識は朦朧としてたので、夢と言われても信じてしまいそうだったからな。

まあ、俺が無事に目を覚ませた時点で夢という疑いはかなり薄いけどな。


「そうじゃよ。ちゃんと主の脚も学校長が治しておったぞ」


「っ!!」


ルシエルの言葉に布団をめくって脚を確認する。すると、ちゃんと膝先もあった。足の指も問題なく動かせる。また、向かい側のルイも掛け布団から両腕出ているので、治っているのを確認できた。


「綺麗にスパッと斬れておったから上手く治せたそうじゃ。斬れた先の凍傷が酷く、骨がぐちゃぐちゃに折れていても」


「……それは良かった」


目が覚めて氷に包まれている足先の感覚が薄かったのは凍傷に陥っていたからなのか。また、骨は魔力回復のために自分で殴って折った。そんな俺の両脚ですら治ったのだからルイの片腕も問題なく治るよな。

それにしても、ルシエルの言い方的に学校長が治したっぽいが、回復魔法まで使えるのか?そうだとしたら隙が無さすぎるぞ。魔法に関しては勝てる者が居なくないか?


「主……」


ルシエルは椅子から立ち上がり、頭を深く下げてきた。


「今回は本当に申し訳なかったのじゃ!あの魔族共に襲われたのも余のせいじゃ。それなのにも関わらず…余は逃げ出した!」


「別に奴隷になった経緯を聞いた時点でルシエル目的の奴に襲われる可能性は考えていた。それにそもそも逃げろって言ったのは俺だ。そう言っておいて怒る理由は無い。むしろ、最後は戻ってきてくれて一緒に戦ってくれたことに感謝するくらいだよ」


ルシエルから過去の話を聞いた時点で誰かに襲われる覚悟はしていた。ただ、その者が想像よりも強く、俺達では太刀打ちできなかっただけだ。

また、ルシエルを逃がしたのも役に立たかないから逃がしたのでは無い。敵がルシエルを真っ先に狙ったから逃がしたのだ。

作戦にミスがあるとすれば、俺が相手の力量を把握できず、最初にルシエルを連れて逃げようとしたことだ。まずは2対2で戦った方が良かったかもしれない。もし、その後にルイを合わせて3対2になっていたら2人とも殺れたかもしれない。まあ、もう1人の魔族の力については把握してないし、ルイが来ることは想定外過ぎたから何とも言えないけどな。

つまるところ、今回の原因は力不足だったことだ。


「じゃが……」


「ラウレーナもそう思うだろ?」


「うん。そうだね」


「なっ!」


俺が声をかけると、ラウレーナも肯定しながら上体を起こした。それにルイは驚くが、俺は気配感知でルシエルが謝る少し前から起きていたのは分かった。


「仲間なんだから助け合うのは当たり前だよ。僕だって獣人国の大会ではヌルヴィスに敵討ちをしてもらったよ」


「それなら俺も油断していた時に海竜の攻撃をラウレーナに庇ってもらったな。あれがなければ俺は死んでいたな」


獣人国の決勝で俺はラウレーナのために隠していた魔力を使って戦った。また、ラウレーナは俺を庇って水魔装の上から腹を斬られた。あの攻撃を俺が食らっていたら絶対に身体は真っ二つになっていた。


「だから、今回は僕達がルシエルを助けた分、僕達に何かあった時はルシエルが僕達を助けてくれればいいよ」


「…でも、余といたらまた狙われるかもしれないのじゃぞ!」


「いや、今回は俺も狙われたぞ。何ならルシエルよりも優先的に」


「あっ」


恐らく、物理職と魔法職のステータスを兼ね備えているからだと思うが、ルシエルよりも優先的に生け捕りを推奨していた。この中で狙われる可能性なら俺が1番高くて、ラウレーナが圧倒的に1番低い気がする。


「別にルシエルがまた狙われようが、俺達は戦うぞ。だから俺が狙われた時も一緒に戦ってくれ」


「あれー?ヌルヴィスは僕が狙われた時には戦ってくれないのー?」


ラウレーナはニヤニヤしながらふざけて俺の揚げ足を取るようなことを言ってくる。


「戦うに決まってるだろ。だから俺やルシエルが狙われた時も戦ってくれよ?」


「そんなの当たり前だよ」


俺とラウレーナがそんな会話をしている時、ルシエルは膝を付いて俯きながら目を拭っていた。


「2人とも…ありがとう!それと、これからもよろしくなのじゃ…!」


「おう」


「任せてよ」


俺とラウレーナはお互いに腕を伸ばして、泣いているルシエルの背中を優しく撫でて落ち着くのを待った。

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