第307話 新手?
「………」
氷魔族を殺ってすぐ聞こえてきた声の方向を見て俺は固まった。そこに居たのは氷魔族の他にもう1人いた魔族だった。
「油断してようが、3人がかりだろうが、そいつを殺るなんて凄いじゃないか」
何か言っているが、その話の内容は全く入ってこない。また、燃えるように熱く、痛かった膝下の痛みも感じない。
「なんでオマエがここにいる」
「なんでって…ああそういう意味ね」
俺の言っている意味が分かったのか、その魔族はニヤッと笑って答えた。
「あの女は俺が殺した」
「そうか。死ね」
俺は氷魔装と闘装で脚の傷を塞いで血が流れないようにして、切れた脚で地面を蹴って魔族へと迫る。
「おいおい。1人殺っただけで満足しとけよな」
向かってくる俺にそう言ってくるが、そんなのは無視だ。
「はあっ!」
「あいつの防御力を突破したその攻撃は食らわねえよ」
俺が振った大鎌は簡単に避けられる。どうしても、脚の怪我と血の流しすぎ、さらには疲労で身体が思うように動かない。
「ん?もしかして闘力を使っているのか?魔力も持っているのに?」
近寄ったことで俺が身体強化と闘装を使っているのが分かり、闘力を持っていることがバレた。だが、そんなことはどうでもいい。
「なるほどな。それでお前も連れて行こうと捕らえてたが、ミスって殺られたんだな」
「くっ…」
俺の攻撃を簡単に避けながらこの魔族はぺらぺらと話している。
「暗がれ!」
それなら避けられない攻撃をしようと詠唱を始める。
「それはダメだ」
「ダーがほっ…」
魔族に腹パンをされて俺の詠唱は無理やり停止された。
「…ライトランス!」
「ちっ」
俺に追撃をしようとしていた魔族はルシエルの魔法によって一旦距離を取る。
「主…」
「ああ…死んで氷が溶けたか」
俺の傍に来たルシエルには付いていた氷が付いていなかった。よく見ると、俺や大鎌に付いていた氷も無くなっている。
「…もう休んでるのじゃ。さすがにこれ以上の無茶は命が危ないのじゃ…」
「あいつを殺してからな」
俺は強がってそう言うが、もう平衡感覚もおかしくなりつつあり、さらに少し離れた魔族の姿もボヤけて見える。立っているだけでもかなりキツイ。
それでもラウレーナの仇を打つためにもあれは殺さないといけない。
「2対1だとしても死に損ない共2人で俺に勝てると思ってるのか?」
「2対1では無い」
「……マジかよ」
また別の人の声が聞こえてきた。その者は目の前の魔族よりも奥にいる。
よく見てもボヤけた目では顔までは見えないが、立派な角があるのは分かった。
「新手の魔族かよ」
「ち、違うのじゃ……いつも遅いのじゃよ……」
俺の呟きをルシエルは否定する。
「我らが姫に何をしている」
「っ!!」
そう言った瞬間に発しられたプレッシャーに俺は身に覚えがあった。
もうそこに居るのが誰かまで分かった。これは獣人国で俺の元に来たやつだ。
「やっぱり身体が動かねぇな。でも知ってるぜ。これをやってる時はお前も動けねぇんだろ?それにこの状態でも魔法は使える。このままだとお前の大切なお姫様に魔法を当てるぞ」
「ふっ」
目の前の魔族が新手の魔族を脅すようなことを言うが、それを新手の魔族は鼻で笑う。
「何がおかしい」
「自分の能力は自分が1番分かっている。そんな私が1人でここに来ると思っているのか?」
「っ!!」
目の前の魔族は大きく眼球を動かして周りを見る。ただ、動けないからか頭は動かしていない。
「けっ。何だブラフかよ」
「君かい?私の教え子達をこんな目に合わせたのは?」
「「え?」」
俺達の横に空中から落ちてきた誰かが着地した。その者の正体に気付く前にその者に抱えられたラウレーナに気付いた。
「ラウレーナ!」
「何とか私が来るまで意識を保って水魔装で血が漏れないようにしていたおかげで何とか間に合ったよ。大丈夫、彼女は無事だよ」
「良かった……」
その言葉に心の底から安堵したと同時にやっと落ちてきた者の正体に気が付いた。それは学校長だった。
「ヌルヴィスも怪我が酷いね。もう後のことは私達に任せて意識を落としていいよ。その脚の傷も一旦は私が塞いで治してあげるから」
「そうか……」
その言葉に安心した俺は強化類を全て切る。その瞬間に脚が冷たく感じた。学校長が氷魔法で傷を塞いだのだろう。
強化類を切ったことで力が抜けて、一気に意識が薄くなっていく。俺はそれに抗わず、意識を手放そうとする。
「助けてくれて、支えてくれてありがとなのじゃ」
誰かが倒れていく俺を優しく抱きとめ、耳元でそう言った気がした。
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