第306話 ルシエルの信頼
〜〜〜〜少し前のルシエル視点〜〜〜〜
「ここで逃げたら…あの日から何も変わってないのじゃ!」
転がって目の前にきた刀を見て、落ち着きを取り戻したルシエルはそう決意する。
「それに、こんなところで逃げていたら余はこれからも堂々と仲間として主の傍にいることはできない!」
余は主の傍で居るのが好きだ。常に前を向いて努力を続けている主の傍だから同じように余も頑張れたし、頑張ろうと思えた。余は死ぬことよりも、今のように主の傍に居られなくなる方が嫌じゃと気付いた。
「それに大事なところで使えないようじゃ、この刀を持つ資格は無いのじゃな」
余はそう言うと、目の前にある刀を持って立ち上がって、逃げてきた道を戻ろうと走り出す。
「……いや、駄目じゃ」
しかし、その足はすぐに止まった。もちろん、またトラウマに怖気付いたわけではない。
「余が混ざってとしてもきっと勝てないのじゃ」
それはあの氷魔族の力をよく知っている余だからこその判断だ。例え、余と主が2人がかりだったとしても、短刀を持ってスイッチを入れて本気を出した氷魔族には勝てない。
「それならスイッチを切ったところ?」
案は浮かんでくるが、結局戦い中にスイッチを切る場面なんて当然ない。それにスイッチを切ったところで余では結局勝てない。
それからも小走りをしながらも策は考え続けた。
「…主次第じゃな」
考え抜いた策が成功するかは全て主次第という無茶なものだった。当然、作戦を話す余裕は無い。つまり、主が余の想像通り…いや、想像以上の無茶を成功させないといけないということになる。
「でも主ならそうしてくれるのじゃ!」
しかし、余は根拠は無いのに自信を持ってそう思えた。主ならそうしてくれると。
まだ会って短いが、余はいつも引っ張ってくれる主のことを兄のように慕っているのじゃ。もし仮に想像通りに動いてくれなくて余が死んでもそれなら満足できる。
逃げた場所に戻ってきたルシエルは最初に脚に氷を纏って動けずに地面に伏している主を見つけた。それでもルシエルの頭では作戦を変えたり、中止するという選択肢は全くなかった。
(余の主なら大丈夫じゃ)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ルシエル…!」
ここに戻ってきたルシエルが1人で氷魔族と戦っている。それなのに、俺は地べたに這いつくばって何もせず呆然としている。
「そんなの駄目だ!!」
スピードで翻弄しながら懸命に戦っているルシエルを見て活力を貰った俺は、改めて状況を整理することができた。
もしここで負けたら俺だけは助かってもルイとルシエルは死ぬかもしれないのだ。そんなのをただ這いつくばって受け入れていいわけが無い。
「何ができる、何ができない…」
俺は脳をフル回転させて考え続けた。
その結果、早急に解決するべきことが2つ見えた。
「魔力が足りない」
その1つが魔力が足りないことだ。しかし、魔力ポーションは使えない。でも、俺はもう1つ魔力を回復できる方法がある。
「闇魔装…」
俺はバレないように氷から出ている脚に闇魔装を行った。
「ふっ!」
ガンッ!
俺の大鎌の峰が脚と氷にぶつかる。それと同時に歯を食いしばらないと声を我慢できない程の痛みが襲う。それと同時に闇魔装が消えて魔力が少し回復する。
「無駄だ。それは絶対に砕けん」
「ふんっ!くっ!」
氷魔族の言葉を無視して俺は大鎌を振り続ける。
前に試した自傷では闇魔装は消えなかった。ただ、その時の自傷なんてせいぜい自分を軽く傷付ける程度だった。だが、骨を砕くつもりで大鎌を振れば闇魔装はかき消されるように魔力に戻るのだ。
また、大鎌をほぼ全力で振るのは氷を砕こうとしていると氷魔族に誤解させるためだ。これが軽くダメージを与えるように大鎌を振ったら怪しまれる。
「くっ…!うぐっ…!」
俺は少しずつ声に漏れてしまうほどの痛みに耐えながら、バレない程度の多くない魔力量の闇魔装をした脚へ大鎌を振り続けた。骨が砕け始めた時、遂にその時はやってきた。
「あっ……」
「戻ってきたのは無駄だったな」
傷だらけのルシエルの首を氷魔族は掴んだのだ。その際に【攻撃】があるルシエルは腕と脚も凍らされている。
「さて、2回目だな」
「くぅ…」
そして、氷魔族はそんなルシエルを連れて俺の前までやってきた。
「お前が大人しく付いてくるなら…」
俺は氷魔族の話を効かずに脚に向かって大鎌を振り上げる。
「そんなことをしても無駄だと…」
氷魔族は話しているが、俺は大鎌を自分の脚に振り下ろした。また、その途中でほぼ全魔力で脚に闇魔装を纏う。
ちなみに、今回は振る大鎌の向きが逆だ。つまり、どうなるかと言うと…。
シュッ…!
「ぎっ…!!!」
俺の膝から下が大鎌の刃に当たって切断される。大鎌の斬れ味を自分の身で体験した。
でも、これで俺を縛り付けている氷は無くなり、ついでに砕けた脚も切断されて無くなった。これで2つの問題が無くなった。
「ぐぅっ…!!」
俺は身体強化と闇身体強化と無属性付与を全力ですると、全力で大鎌を持たない左手で氷魔族へと飛び跳ねた。そして、右手に持った大鎌を振り上げて氷魔族へと振り下ろそうとする。
「馬鹿か!」
氷魔族はそう言いながら左手のルシエルを手放し、右手に持っている氷短刀で俺の大鎌を受けようとする。ルシエルを盾として前に出されなかったのは良かった。それだとしても…。
(駄目だ)
この大鎌が氷短刀で受けられたら、残るは脚のない俺だけだ。そうなればもう勝ち目は無い。絶対にあの氷短刀をどうにかしないといけない。
俺は詠唱省略で魔法を使おうとするが、あんなに練習してできなかったのが急に出来はしない。ただ、無理やりやろうとしたら、魔力の代わりに別の何かが動いた。
「サイズ!!」
「なっ…!?」
目の前に半透明の大鎌が現れた。それは氷短刀を攻撃し、氷短刀と共に消えた。
俺は詠唱省略では詠唱をせずに魔力を属性に変えるのに躓いた。だが、俺の中に属性を必要としない魔法があったのだ。
普段は他の魔法の劣化版で、魔力を隠す時しか使い道がなかった無属性魔法がここで真価を発揮した。
「輝け、ライトウォール」
「あっ…」
武器がなくなり、俺から逃げようとした氷魔族の背中にルシエルの光魔法の壁ができた。
「くそっ…!」
「らあっ!!!」
氷魔族は大鎌をガードしようとクロスした腕に氷魔装をするが、もう間に合わない。
「あっ……」
「へっ……!」
俺の大鎌は氷魔族の2本の腕を斬るだけでは止まらず、左肩から斜めに氷魔族を真っ二つにした。
「マジかよ…まさか、そいつが殺られるなんてな。一応俺よりも強いんだぞ?」
しかし、まだ戦いは終わっていない。
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