第305話 脅し
ドゴンッ!ドゴン!
「ん゛……」
何かが激しく爆発するような音で俺の意識は少しずつ覚醒していく。
「ヌルっ!」
「はっ!」
覚醒しかけていた意識はルイが俺を呼んだことで完全に覚醒する。
「ルイ!」
ルイを見ると、身体に傷と氷を付けてボロボロになりながら必死に魔法を使って、自分に氷魔族を近寄らせないように奮闘していた。
咄嗟に俺はどのくらい寝ていたのかと考えたが、今はそんなことはどうでもいい。早くルイに加勢しないと。
「あれ?」
しかし、俺の身体は起き上がらなかった。その原因は膝から下の感覚がないからだ。俺はうつ伏せの状態から上体を起こして下半身を見る。
「なっ!」
俺の下半身、正確には膝から下が氷に埋まっていた。その氷の中には短刀が入っている。
(気絶する前に短刀を投げたのはこのためか)
氷魔族は俺を凍らせて身動き出来ない状態にさせたかったのだろう。ただ、朧気ながら気絶する直前に闇の斬撃を放った記憶がある。それで狙いが外れて膝から下だけが凍ったのか。
「ふっ…!」
懸命に動こうとするが、氷は微動だにしない。
「らあっ!」
手に持っていた大鎌で氷を攻撃するが、欠けもしない。
「くそっ…!」
今の俺にやれることはほとんどなかった。もしできるとしたら泣け無しの魔力を使ってルイを援護するぐらいだが、今の俺程度の魔法なら氷魔族は容易く捌かれた。また、気絶している間に氷魔族がやったのか、マジックポーチはしっかり凍らされている。
つまり、今の俺には傷付けられ、どんどん追い詰められていくルイを見ているだけしかできなかった。
「う、うぅ…」
「ルイ……」
それからそう時間はかからず、ルイの首が氷魔族に掴まれた。首を掴むことでルイは詠唱をできなくされた。
「お前がまだ抵抗をするならこいつを殺す」
俺の少し近寄ってきた氷魔族は俺にそう言ってくる。その際も横になっている俺の大鎌の範囲には絶対に入ってこない。
「ル、ルイは死んでも…ヌルを恨まない…。だけど、…ルイの分まで…自由に…いっぱい…!」
「余計なことは話すな」
ルイの言葉は首を強く握られたことで途中で止まった。しかし、口の動きでなんて言っていたかは分かってしまう。
(生きて)
ルイは先の言葉の続きにそう言っていた。自分の命が危ない時でもルイは俺の事を心配していた。
「分かってないようだからな」
「な、何を…」
氷魔族は空いている手に持つ短刀をルイの脇の横に構える。そして、そこからゆっくり見せつけるように短刀を上げる。その短刀の上にあるのはルイの腕である。
「ぐうぅぅぅぅ……!!」
「おい!やめろよ!」
氷魔族はルイの腕をゆっくり斬っていった。しかし、その光景はそんなに長くは続かなかった。理由はルイの腕が地面に落ちたからだ。
「だ、大丈…夫」
「………」
ルイは涙を流しながら明らかに無理をしているのに、俺に心配させないように軽く微笑みを作ってそう言う。
一応ルイをすぐ殺す気は無いのか、傷口は凍って血が流れないようにはしている。
「次は足を斬るぞ」
「………」
この時の俺の感情はごちゃごちゃになっていた。恨み、焦燥、怒り、絶望、殺意……負の感情を上げればキリがなかった。
「……分かった」
「ヌルっ!」
そして、それらが少し落ち着いた俺はそう零していた。きっとルイが再会した時の性格のままならこんな選択はしなかっただろう。いや、そもそもそうだったらこの場にルイは来ないか。
「もう抵抗し…」
ここまで言ったが、最後まで言い切ることは無かった。
「ヌルヴィスとその女に何をしてるのじゃ!」
「ルシエル……」
俺が言い切る前に光魔装をしたルシエルが氷魔族に刀で後ろから攻撃したのだ。氷魔族は短刀でルシエルを弾くと、ルイを投げ捨てて近くに短刀も投げる。すると、ルイの胸から口までが塞がれた。
「ルシエル!逃げろ!」
俺は氷魔族と向き合っているルシエルにそう伝える。氷魔族にも俺達の戦いで疲労は見えているし、2本の短刀も失った。それでもルシエルが勝てる相手では無い。
「すまんが、もう逃げるのはやめたのじゃ。それが例えどんな結果になったとしてもじゃ」
しかし、ルシエルは強い意志を瞳に宿して俺の言葉を否定した。
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