第303話 両者の本気
「居た!」
走り出した俺はそう遠くない場所で岩に寄りかかって座っている氷魔族を見つけた。岩がひび割れてるからぶつかって止まったのだろう。
「ん…?」
その氷魔族はうなだれているが、片手には今までよりも一回りサイズが大きい氷短刀が握られている。
違和感はそれだけで、特に危険感知も反応していない。だからこのまま進んで大鎌で斬り込めば仕留めることもできるかもしれない。だから俺はそのまま次の1歩を踏み出した。
「くっ!!」
しかし、どうしても嫌な予感がするので、俺は急停止して全力で跳び退く。その瞬間に危険感知が反応する。
ガガガンッ!!
「なっ…」
俺の目の前に氷の剣山のようなものが氷魔族から何本も伸びてきた。その生成速度はさっきまでよりも格段に速い。あのまま進んでいたら危険感知の反応の後から回避することすら無理だったはずだ。
「っ!」
俺の危機はそれだけでは無かった。すぐにまた危険感知が反応する。俺は急いで屈むと、俺の髪に氷魔族の短刀が掠る。氷魔族は続けて蹴りまで向かってきたので、氷の後ろに回り込んでから全力で一旦距離を取る。
「本物の短刀か…」
氷魔族の片手には本物の短刀が握られていた。さらに、新たにもう1本取り出して、両手に短刀を持つ。そして、その短刀の上から氷魔装を纏う。
「やっばいな……」
明らかに氷魔族の雰囲気が変わっている。理由は攻撃をまともに食らったからか、短刀を手にしたからかは分からない。
ただ、もう俺を生け捕りにするのかも怪しくなった。さっきの短刀の攻撃も食らったら最低でも俺の腕を斬り落とせる威力はあり、回避をしなかったら身体が真っ二つになっていた可能性もある。
「まずは……」
俺は氷魔族の行動に注意しながら、さっきまでの場所に戻る。再び2対1の状況を作り出したのだが…。
(俺にしか意識向けてなくね?)
感覚的に氷魔族はルイを無視して、俺を仕留めようとしているように見える。確かに仕留められる機会が多いのは接近戦をしている俺だけども。
「硬くなり、吹き荒れろ!アースウィンドランス!」
俺と同じことをルイも感じ取ったのか、ルイが俺を避ける軌道で魔法を放つ。
しかし、氷魔族はそれを一瞥もせずに氷短刀を振る。それから放たれた氷の斬撃で魔法は凍り付く。
それで短刀に纏う氷は消えるが、すぐにまた氷を纏う。その纏う速度はさっきまでの氷短刀を1から作るよりもずっと速い。そりゃあ、1から短刀を作るよりも纏わせる方が簡単だよな。
「ふぅ…」
俺は意識を切り替え、闘力や魔力の温存は考えずに、身体強化類を全力でかける。また、大鎌には雷付与もする。
「しっ!」
それから俺は氷魔族へと向かっていった。
ルイからの魔法の援護を受けながら俺は戦った。でもルイの魔法はことごとく氷魔装の斬撃でかき消される。また、普通の短刀を手にしたことで氷魔装が無くなっても大鎌は短刀で受け流されるようになってしまった。だが、俺も闇魔装をすることで闇の斬撃を何回か掠らせることはできた。もちろんそれだけではなく、大鎌での攻撃やそれ以外の攻撃も何度か食らわせた。
しかし、俺のどの攻撃も氷魔族に致命傷を与えるには程遠かった。さらに、氷短刀を掠った場所に氷が付くことで重さと動きづらさで俺の動きはどんどん悪くなっていった。また、特に魔法や闇魔装を多用しているせいで魔力が枯渇し始める。
そんな中、ついにその時はやってきた。
べキョッ!
「がっ…?!」
「ヌル!?」
氷魔族の蹴りが俺の脚にヒットする。その際、俺のふくらはぎ辺りから骨が折れる音がした。ここで【防御】の低さが露呈することとなった。
「ふんっ!」
「ごはっ…!」
そして、片足が折られたことで次の腹パンを回避できなかった。さらに、片足では踏ん張ることもできなくなった俺はその攻撃でくの字に身体が折れてしまう。
「寝てろ」
「あっ……」
最後にトドメとばかりに後頭部を殴られた。それによって俺の意識はだんだん薄くなっていく。
ただ、薄れゆく意識の中、氷魔族が俺に両手の氷短刀を投げようとしているのが見えた。俺は無意識で大鎌を振り、纏っている闇魔装を斬撃として氷魔族に放った。
しかし、俺の意識はここで途絶えた。俺はたった3発の攻撃で意識を刈り取られてしまった。
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