第302話 2人の力

「俺が前衛で戦うから後衛で魔法のサポートを頼む」


「ん」


俺はルイの傍に近寄ると、小声で端的にそう伝える。


「ふっ!」


ルイからの返事が聞こえた時点で俺は氷魔族に向かっていく。


「はあっ!やっ!」


「………」


俺の大鎌は相変わらず氷魔族からは防がれるが、氷魔族からの攻撃の回数は確実に減っていた。それはさっきまでとは違い、ルイに対して意識を少し向けるからだろう。


「燃え尽き、硬くなれ!」


ルイが詠唱を始めると、氷魔族の意識はさらにルイへと注がれる。ルイというイレギュラーに対して氷魔族はかなり警戒しているようだ。だが、逆に俺から注意を逸らし過ぎだ。


「はっ!」


「うっ…!」


俺が突き出した大鎌の柄の先が氷短刀をすり抜け、氷魔族の胸に当たる。重さも加わったその攻撃に氷魔族はくぐもった声を発する。


「しっ!」


俺はすかさず氷魔族に対して追撃で大鎌を振る。怯んでいる中でも氷魔族はそれを横に跳んで回避する。でも俺から離れたな?


「ファイアアースアロー!」


跳んだ氷魔族に対して火と土の複合魔法の矢が3本飛んでいく。


「…!」


しかし、その魔法は1つ避け、2つを片方の氷短刀で斬られることで凍らされて防がれる。でもそのおかげで1つの氷短刀が消える。


「はあっ!」


俺は氷魔族が新たな氷短刀を生み出す前に大鎌で斬りかかった。



「やっ!」


「…」


俺の蹴りを氷魔族が腕でガードする。片方の氷短刀が無くなったことで明らかに氷魔族は防御の手数も減っている。俺の大鎌の刃は絶対に氷短刀で防いでいるが、それ以外の攻撃は度々腕でガードしている。


「凍てつけ」


「っ!」


そんな中、氷魔族は詠唱を始めるが、俺は構わず攻め続ける。後ろではルイも詠唱を始めている。


「アイスっ…!」


詠唱途中で俺の前蹴りが氷魔族の腹に入る。今回は深追いせずにそれでできた隙に俺は氷魔族から離れて下がる。


「「ランス!」」


俺が下がったタイミングでルイと氷魔族の魔法が放たれる。ルイのは複合魔法だったのに、氷魔族の氷魔法と相殺される。

その間に氷魔族は氷短刀を追加する。


「やはり、お前が面倒だ」


「…待てよ!」


俺の横を抜けてルイへと向かっていく氷魔族の行く手を大鎌で遮る。


「行かせるわけないだろ」


「……」


さすがにこの状況で氷魔族が考えるであろうことは俺でも想像つく。

氷魔族はルイからの援護射撃の魔法が厄介なので、それから潰そうとしたのだろう。ルイは完全な魔法職なので、近寄られれば氷魔族に手も足も出ない。


「燃え尽き、吹き荒れろ」

「暗がり、轟け」


鍔迫り合いをしていると大鎌が凍ってくるので、氷短刀を弾いたところで詠唱を始める。それは奇しくもルイと同じタイミングだった。ルイとの連携は初めてのはずなのに、なぜかかなり息があっている。


魔法を警戒した氷魔族は俺から距離を取ろうとするが、今度は俺がそれを許さない。


「凍てつけ!」


ここで初めて焦ったように詠唱を始めるが、それはもう遅い。


「ファイアウィンドランス!」

「ダークサンダーサイズ!」


ルイと俺の魔法が氷魔族がまだ詠唱途中にも関わらず放たれる。

まず、氷魔族は距離的に先に当たるであろう俺の魔法に右手の氷短刀をぶつけて凍らせて相殺する。


「アイス…」


「はあーーっ!」


俺はここで闇身体強化と闇魔装に変えて氷魔族に斬りかかる。氷魔族はルイの魔法と俺の大鎌をどう対処するかの選択を迫られた。


「ランス!」


氷魔族はルイの魔法に氷短刀を投げて、俺の大鎌を魔法で対処しようとする。


「おらっ!」


「なっ…!?」


氷魔族の魔法は俺の大鎌から放たれた闇の斬撃で消し去られた。俺の闇魔装は今の斬撃1回で消えてしまったが、問題ない。


「らあっ!」


斬撃を放った時に大鎌を振った勢いそのままに、俺は一回転して再び氷魔族へと斬りかかる。


「くぅ…!」


氷魔族も急いで氷短刀を作ろうとするが、俺の攻撃の方が速い。


「ぐおっ…!?」


氷魔族は細い氷短刀を前に出すことによって大鎌の刃に直撃することは避けたが、全力で振った大鎌を胸に食らって吹っ飛んだ。


「しっ!」


氷魔族の胸と大鎌の間に氷短刀があったからこれで氷魔族を殺れたとは思わない。俺は畳み掛けるべく、闇魔装を再びしながら吹っ飛んだ氷魔族を追う。

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