第301話 上位互換
「くっ…!」
俺は屈んでから転がって氷魔族の氷短刀を避ける。
「暗がれ!」
「ッ!」
そして、俺が詠唱をすると、氷魔族は勢いよく距離を詰めてくる。
「だ、ダーク……」
詠唱をまともにできないほどの猛攻を俺は何とか回避する。詠唱に集中できないため、最低限の魔力で魔法を放とうとする。
詠唱が終わりそうなタイミングになると、氷魔族は逆に俺から遠ざかる。
「サイズ!」
そして、氷魔族は俺の魔法を簡単に避けると、再び向かってくる。
(戦い慣れすぎだろ!)
氷魔族は近接戦で魔法を使う相手と戦い慣れすぎているように感じる。それは同じ戦闘法の魔族と戦う機会が多かったからだろう。その経験値は俺を追い詰めている。
「凍てつけ」
「っ!?」
今度は氷魔族が詠唱を始める。俺は急いで距離を取ろうとするが、それを氷魔族は許さない。氷魔族は詠唱中にも関わらず、変わらない猛攻を続けている。
「アイススピア」
「くぅ…」
危険感知と反射神経だけに頼って俺はその魔法を掠る程度まで避けることに成功する。闘装と氷魔装のおかげで傷もかなり抑えられた。
とはいえ、これは氷魔族が俺の事を殺す気がないこその結果だ。殺す気だったら避けられないようなデカい魔法を使っているはずだ。
「はあ……はあ……」
何とか氷魔族から距離を取って呼吸を整える。
一応まだ致命傷のような傷もなく、氷短刀で少しだけ身体に薄く氷も張っているだけだ。大鎌もそこまで氷は侵食していない。
でも、氷魔族はまだほとんど無傷に近い。
「無駄な抵抗をするな。大人しく付いてきたら悪いようにはしない」
「こ、断るぜ」
もし仮にこの提案に乗ってこいつに付いて行ったとして、殺されなかったとしよう。でも、その時点でもう冒険者として活動する事は出来ないだろう。また、こいつらの仲間になった時点で、俺は犯罪の片棒を担ぐことにはなりそうだ。
そうなったら、俺はお世話になった親しい人達と戦わなければならなくなる。下手すると、俺が危害を加えることに繋がる。そんなことは死んでも嫌だ。
「勝てないのが分からないのか?」
「………」
もちろん、殺さないように手加減されている前提だが、接近戦だけなら特殊な武器同士でぎりぎり互角程度では戦えてる。それに魔法の要素が加わると、戦い方の上手さでこちらが一気に押される。だから俺も苦し紛れに魔法を使うが、それは意味をなさない。
全てにおいて俺の上位互換の奴と戦っているような気分だ。
「雷身体強化」
俺は身体属性強化を変える。大鎌での攻撃も氷短刀で防がれているので、闇身体強化の攻撃力の攻撃は意味を成していない。それなら攻撃をもっと避けれるように素早さを上げた方が良い。
というか、こいつは氷魔法の身体属性強化でステータス全般が上がっているようだが、俺の氷魔法の身体属性強化と違うのか?俺の場合は防御面しか上がらないぞ。あ、そうか。
「その鬼才の氷魔法…厄介だな」
「ほう…鬼才まで知っているのか」
鎌をかけたのだが、氷魔族は否定しなかった。
「あれがそこまで話したのか。もしやお前も鬼才の…」
そこまで言うと、氷魔族は腰を落とし、低く構える。
「お前の力も分かった。そろそろ終わらせるとしようっ!」
氷魔族はそう言って俺に向かってくる。俺に氷短刀を振ってくるが、大鎌で弾く。その際、氷短刀を斜めにすることで大鎌の重さを受け流していた。
ところで、この大鎌で斬れないなんて、なんて硬さの氷だよ。
「凍てつけ!」
「っ!?」
氷魔族は今まで以上の魔力を込めて詠唱をする。しかし、今回は詠唱に気を取られているのか、攻撃が少し緩くなった。だから後ろに下がって距離を取ろうとする。
シュッ!
「ん?!」
俺の行動よりも少し先に氷魔族は氷短刀を2本俺の後ろに投げる。
ガキンっ!
「あっ…」
地面に刺さった氷短刀からはそれぞれ斜めに氷の壁がそびえ立った。2つは先端でくっ付いて「<」のような形になって、俺をその内側の角に追い込んだ。俺の背中はちょうど角に挟まるような形でこれ以上は下がれないし、横にも行けない。
「くそっ!!」
起死回生を狙い、相打ち覚悟で俺は大鎌を構えて氷魔族に向かって進んだ。でも、俺が近寄って大鎌を振るよりも魔法の発動の方が早いなのは魔力感知で気付く。
また、それと同時に氷魔族が準備している魔法とは別に、他にも魔法があることにも気付く。
「ッ!」
氷魔族が大きく飛び退けると、氷魔族がいた場所に火の大槍の魔法が通り過ぎる。
「…アイスバーン!」
氷魔族は火魔法を避けてから魔法を放った。その頃には後ろの氷の壁からも離れていたので、俺はその魔法を回避することができた。
魔法を避けた俺と、魔法を外した氷魔族は火魔法がやってきた方向を揃って向く。
「はあ…ふう…魔法を試しにルイも森に来てたら、特訓とは思えない激しい魔法戦の音が聞こえて急いで来たけど……」
「え!?」
俺と氷魔族が見ていた場所の草をかき分けて、息を切らせながら見覚えのある人がやってきた。
「あれが敵でいいのね。加勢する。今度はルイがヌルヴィスを助ける番」
「ル、ルイ!」
手も足も出ない状況で加勢に来てくれたのはまさかの幼なじみで賢者の職を持つルイだった。
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