第299話 魔族の強さ

「氷魔装」


「っ!」


相手の魔族の男はいきなり氷魔法の魔装を行った。ただ、身体に氷の鎧を纏うことは無かった。


「それが武器か…」


魔族の男は氷魔装でできた1メートルほどの短い刀を2本作って両手に持つ。魔装を防御力高める防具ではなく、武器として使うのは初めて見た。しかし、身体属性強化は氷魔法だし、この魔族は氷魔法が得意なようだ。


「しっ…!」


「っ!」


この氷魔族は氷身体強化を強めると、そのまま俺に向かってきて、片手の氷短刀を振ってきた。それを大鎌で迎え打とうとする。


「それに触っちゃダメじゃ!」


「えっ…?」


しかし、急に後ろにいるルシエルから忠告を受けた。急なことで、大鎌の振りは止めてただ氷短刀を大鎌で受けてしまう。


ペキペキッ!


「なっ!!」


氷短刀が触れている場所から大鎌に氷が張っていくのを見て、俺は慌てて後ろに飛ぶ。武器の魔装という特殊な魔装なら、特殊な能力もある魔装だと警戒しておくべきだった。


「…重い」


まだ1、2センチの厚さの氷が少し大鎌に付いただけなのに、大鎌が重くなっていた。氷短刀から離れたらもう拡がっていく様子は無い。だが、消える様子も無い。大鎌だからまだ対処可能だが、これが身体に付いたら動きづらくもなりそうだし、かなりヤバいな。


「くそっ!」


繰り返される氷魔族の攻撃を俺は大きく移動しながら回避するしかなかった。その時ルシエルからも離れてしまったが、氷魔族は俺を狙い続けた。この男からは俺は警戒されていないようだ。ルシエルに手を出すよりも俺を殺した方が簡単とでも思われてそうだ。


(こんなことならラウレーナと別れない方が…いや、これで良かったかも)


どうせ逃げ切れずに戦うことなら、ラウレーナと共に2対2にした方が良かったかもしれない。そう考えはしたが、基本的に攻撃を食らう戦闘方法のラウレーナは、攻撃を当てる度にデバフを与えるこの氷魔族と相性最悪だ。それなら俺がこの氷魔族を1対1で戦った方が結果的には良かったかもしれない。


(それはそれとして、ストックが無いのがデカい…)


特訓中だったからストックは準備していない。それがあれば魔法を不意打ちで当てられたかもしれない。とはいえ、このまま魔力無しで氷魔族の氷短刀を避けるのも限界になってきた。


「暗がり、轟け!」


「なっ!?」


俺が詠唱を始めたことで、氷魔族の余裕そうな無表情が初めて崩れ、目と口を大きく開いて間抜け面を晒す。


「ダークサンダーサイズ!」


「ちっ!」


俺の魔法に対して、氷魔族は舌打ちをしながら距離を取り、片手の氷短刀を投げて対処した。氷短刀は俺の魔法を凍らせる形で相殺して消えた。


「はあっ!」


しかし、1本武器を無くさせたのは大きい。俺は闇身体強化をして氷魔族に接近する。


「っ!?」


あと一歩で大鎌が届くといったところで、危険感知が反応したので、俺はジャンプしながら後ろに距離をとる。


ガキンッ!!


氷魔族は残りの氷短刀を地面に刺すと、地面が凍り付いた。凍り付いた範囲にあった木は半分ほどまで氷に覆われていた。範囲は1、2メートルで広くは無いが、避けていなかったら俺も木のように氷に覆われていただろう。


「なぜお前が闘力と魔力の両方を使える?」


「知るかよ」


氷魔族は新たに氷短刀を2本準備しながら問い掛けてくる。だが、そんなことを俺が知るかよ。


「……予定変更だ。お前も一緒に来てもらう。いや、お前だけでもいいな」


「っ!!」


俺は氷魔族が標的を俺からルシエルに移したのを瞬時に察知した。

さっきまでルシエルが人質にならなかったのは、ルシエルを殺せず連れて行きたかったからだ。ルシエルを人質にしても、俺もそれをわかっている限り、有効的な人質にはなりにくい。

しかし、標的が変わって逆にルシエルを殺してでも俺を連れて行きたければ、ルシエルを人質にするのはかなり有効になる。さっきの発言的にもう氷魔族はルシエルを殺していいと思っている可能性がある!


「はあっ!」


ルシエルへと向かう氷魔族に大鎌で攻撃する。それを氷魔族は氷短刀で受けるが、大鎌の重さに負けて後ろに下がる。

一瞬触れる程度なら大鎌にほとんど氷は侵食しなかった。


「…!何だその大鎌は…?」


「ちっ…!」


ルシエルのおかげでさっきは盾としてしか大鎌を使っていなかったので、大鎌の重さについてはバレていなかった。だから確実にダメージを与えられる場面で大鎌を使いたかったが、仕方ないな。


「ルシエル!逃げろ!」


「ぃゃじゃ…」


「こいつを相手に庇いきれない!もうお前は標的じゃなくなってる!いいから逃げろ!」


「ぅぐっ……!」


余裕が無くて言葉が荒々しくなってしまったが、ルシエルが遠がっていく足音がしたことに安心する。ルシエルはもう1人で立って走れるようになるくらい回復していてよかった。

まあ、男から視線を逸らせないから逃げていくルシエルの後ろ姿は見えないけどな。


「ふっ…また逃げるか…」


氷魔族はそう呟くが、俺は聞こえないふりをする。正直に言うと、ルシエルにも一緒に戦ってほしかったが、明らかにトラウマがある相手にそれを強制はできない。


「はあっ!」


氷魔族がルシエルを追う様子がないのに安堵するが、状況は何も変わっていない。

俺は大鎌を構えながら、再び氷魔族へと向かっていく。

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