第298話 突然の訪問者
「うーん」
学校長が不在でも俺達は森で各々特訓を行っていた。ただ、俺とルシエルはあまり進んではいないけどな。
「ラウレーナの調子はどう?」
「学校長に教えてもらったこともあり、バッチリだよ!何ならヌルヴィスにも勝てるかもしれないよ」
「それはやばいな……」
知らない間にラウレーナだけは新しい魔法の開発を順調に進めていたようだ。
「ヌルヴィスが良ければ、戦ってみてもいいよ?」
「……もう少し待ってくれ」
俺も少しは現状を変えてからラウレーナとは戦いたい。
「ふふっ…ヌルヴィスから戦ってもいいって言われるのを楽しみに待ってるよ」
「すぐに言ってやるから待っておけ」
強がってそう言うが、もう少しは時間がかかりそうだな。
そんな調子で特訓を続けていた。このまま学校長の居ない3日間は過ぎ去るものと思っていた。
「誰か来たっ!」
「「っ!!」」
学校長不在の2日目の昼過ぎ、突然近くに誰かがやってきた。もちろん、ここは森なので誰かがやってくることはあるだろう。ただ、その者達は一直線にこちらに向かってきている。だから怪しさ満点だ。
「「「………」」」
俺達は各々警戒してその者達の正面に立つ。
気配察知でやってきた者らは2人なのは分かった。また、その者らは特に隠れようとかバレないようにとかは考えていないのか、歩く音が聞こえてくる。それ故、たまたまここを通り過ぎる者が居たのかもと思った時だった。
「お姫様〜、元気だったか〜?」
「っ!!ぃゃ…」
まだ姿が見えないが、声が聞こえてきた。
その声はルシエルに話しかけているようだった。また、その声を聞いてルシエルは小さく震え出した。
俺とラウレーナはルシエルの前に立って警戒レベルを最大まで引き上げる。
「そこのお姫様を抵抗せずに渡すなら、そこの2人は殺さないでやるよ。抵抗するなら悲しいけど殺さないといけねぇよな〜」
草陰から出てきたのは頭に2本の角の生えた男達だった。ぺちゃくちゃ喋っている男が先頭を歩き、後ろにはじっとこちらを観察している者がいる。
「イヤーーー!!!」
「ルシエル!?」
2人の姿が見えると、ルシエルは両手で耳を塞いで蹲ってしまう。
「もしかして、俺が後ろから王妃様のことを刺したのがまだトラウマだったりする?いい悲鳴を上げてくれたもんね」
「こいつら……」
今の話で俺とラウレーナがこいつらが何者なのか大体分かった。こいつらはルシエルが奴隷になる原因を作った魔族なのだろう。
「ラウレーナ…少しの間2人を足止めできるか?」
「……厳しいけど、やってみるよ」
「ありがと!」
俺は身体強化をしてルシエルを抱え、魔族らに背を向けて森の奥へと進んでいく。
「それは抵抗として見てもいいよな!?殺していいんだよな!」
「行かせない!」
「邪魔だよ!どけ!」
「俺が追うからお前はこの女を殺ってから来い」
後ろからはラウレーナと魔族の攻防の様子が聞こえてくる。早くルシエルをどこかに隠してラウレーナの元へ戻らないと。奴隷の契約であまり遠くまでは離れられないけど、隠れることはできる。最悪、学校長が帰ってくるまで隠れられたら勝ちだ。
「ごめん!1人そっちに行った!」
「っ!?」
何て考えを打ち砕くように後ろからラウレーナの叫びが聞こえてきた。チラッと後ろを見ると、さっき後ろにいた魔族が追って来ている。
「くそっ!」
俺は身体強化を全力で行って走るが、どんどん差は無くなってきている。後ろの魔族は身体属性強化を軽くしかしていないのにだ。これでは俺が雷身体強化をしても逃げ切れるとは思えない。
「少し待っててくれ」
「ま、待つのじゃ!主ではあやつには勝てないのじゃ!」
地面にルシエルを降ろすが、腕を伸ばしてルシエルは俺を止めようとしてくる。まだ立てないほど震えているのに俺の心配か。でも話せる程度には回復したようでよかった。
「あ!余があいつらの言う通りにしたら…」
「俺が絶対に奴隷契約を解除しないからそれは無理な話だ」
言い方的にルシエルの身柄が欲しいようだった。それなら俺が生きている限り、ルシエルは遠くまで生きて連れられない。だから俺を殺して奴隷としてルシエルを奪う必要がある。
つまり、奴隷契約をしている限り、俺を無視してルシエルが攫われることは無い。
「素直に渡せば殺さないぞ」
「それは無理だな」
追い付いた魔族の提案を俺は断る。死ぬのが嫌だからって仲間を差し出すのは有り得ない。
俺はルシエルを巻き込まないように数歩前に出る。
「それなら殺して奴隷の主を変えるとしよう」
「やってみろよ!」
突如として俺とラウレーナはそれぞれ魔族と戦うこととなってしまった。
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