第293話 俺のお願いと学校長のお願い
「おつかれ」
「よかったのじゃよ」
「お、ありがとう」
学校長に治療されるルイはぼーっと見ていたらラウレーナとルシエルが後ろからやってきた。
「ポーション使わないの?」
「あ、使っていいのか」
俺は中級の回復ポーションを使って体の傷を治す。何となく、回復魔法ができる者が居たら俺が回復する必要は無い気がしていた。これはラウレーナと道場にいた時の名残だな。
「やあ、おめでとう」
「ありがとな」
少ししてルイの回復を終えた学校長が俺の元までやってくる。
「魔法のみでの戦闘については授業が必要だね。実戦経験は任せてよ」
「ははは……。お手柔らかに」
それについては俺も自覚しているから何も言えない。ただ、学校長で実戦経験を積むのは肉体的にも精神的にもかなりヤバそうだ。
「約束通り勝てたから、願い事を聞こうと思っているけど、決まっているかい?」
「それについてはもう決まっている」
学校長に何を聞いてほしいかはその提案をされた時点で決めまっていた。
「俺の特訓にこの2人を参加させてあげてくれて欲しい。もちろん、2人が学校長の最高難易度を突破していないから、俺のついでという立場で構わない。ただ、ルシエルに複合魔法は教えてやって欲しいと思ってるけど」
「やっぱりその内容か」
学校長も俺の願いの内容は予想していたようだ。俺の提案はラウレーナとルシエルの2人も特訓に含めることだ。あの地下の場所で特訓をできるだけで広さと丈夫さがこことは段違いでやりやすい。また、人目がないからルシエルが刀を使うことも可能となる。
ただ、場所提供以外でルシエルには俺と一緒に複合魔法を教えて欲しい。そもそも複合魔法は魔法の種類が多いほど有効的に使える。魔法の種類が多いほど複合魔法の組み合わせが多くなるからな。その点では俺以上にルシエルの方が複合魔法に合っているな。
「それを聞くのは構わないよ。ただ、私からのお願いを聞いてくれたらね」
「ほんとか!何でも聞くから頼むよ」
まさか、ルシエルに複合魔法を教えることまでもすんなり通るとは思っていなかった。そのためならお願いくらい聞く。
「それならルイスを医務室に連れて行って、そこにいて起きたルイスと今日一日ずっと話してくれ」
「え?」
お願いの内容が意味不明で思考が停止してしまう。しかし、すぐに思考が復活する。
「学校長は俺とルイとの確執を聞いてたよな?」
「聞いていたよ」
学校長は俺の前の王都での話を聞いた上で再びルイと長い時間話せと言っているのか。
「拒絶するのは簡単で楽でいいけど、向き合うことは大事だよ」
「っ!」
学校長の言葉に俺は図星をつかれたのか、言い返しができなかった。そんな俺に学校長は続けて話す。
「別に勇者や聖女と話し合えとは言わないよ。職業なんて関係なく、たった2人の幼馴染なんだから拒絶せずに向き合うべきじゃない?仮にその結果仲違いしようとね」
「………」
確かに俺は再開したあの時2人が俺の知っている幼馴染では無いように思えて、二度と関わるなと拒絶した。もしかしたら、本当はあの時に2人と話し合う別だったのかもしれない。
「それに、ルイスが君と2度目に別れてから頑張ったというのは君が1番分かっているはずだよ」
「……そうだな」
今のルイがあのただ光魔法をひたすら使い、仲間の騎士が倒れたのに自分の土埃を綺麗にさせていたルイではないというのはよく分かっている。賢者といえど、短期間でここまで強くなるには中々大変だったはずだ。それだけの努力はしていたと思う。
「分かった。医務室の場所はどこだ?」
「それは……」
俺は学校長から医務室の場所を聞いた。
「でも何で学校長がそこまで気にするんだ?」
俺はルイの元に行く前に学校長にそう聞く。この問題は明らかにこの学校の役割とは別だ。
「教え子には私と同じようなことになってほしくないからだよ。その先の人生が長ければ長いほど過去の後悔は引き摺るからね。解消できるなら解消しておくべきだ。……相手がまだ生きているうちにね」
「………ああ」
学校長の悲壮感漂うその発言に俺は何も言えなかった。
「ほら、早く連れてってあげて」
「分かったよ」
そんな学校長から離れて俺はルイに近寄る。
「よっと…軽いな」
俺はルイをお姫様抱っこして、医務室へと向かった。その際、昨日居たルイの取り巻き?が騒いでいたが、学校長が黙らせていた。
「よいしょっと」
誰も居ない医務室のベッドの1つにルイを寝かせる。
それからルイの横でいつ起きるかと待っていた。
「はっ!」
「…早いな」
学校長の回復魔法の腕が凄いのか、そもそも俺の魔法でそこまでダメージがなかったのか、ルイは数分で目を覚ました。
「あっ……」
ルイは起きて状況を理解していないのか、周りをキョロキョロとする。でもそれは少しだけで横にいる俺と医務室のベッドの上にいる自分で状況を把握したようだ。
「ルイは負けたのね。同年代に魔法勝負で負けたのは初めて」
そう言うルイの顔はどこか憑き物が落ちたかのように昔の無表情に近しい顔に戻っていた。ただ、無表情に近い顔にも少しの清々しさのようなものが滲み出ている。
「ああ、ぎりぎりだったけどな」
「ヌルは半分の力しか使っていないのは知ってるからそれは慰めになってない。今ならヌルが本気を出せたら完封されてたのは分かる。ルイが少し強くなったとしても、ヌルもその間に強くなるもんね。そんな当たり前のことすら頭になかった」
俺の慣れていない下手くそなフォローでは駄目だったようだ。
「ルイもあれからはそれなりに頑張ったつもり何だけど」
「いや、俺は2人と別れて時からずっと頑張ってるんだから、そんな少しの間で抜かされてたまるかよ」
「そうだね」
そんな短期間で抜かれたら俺は本気で落ち込む自信があるぞ。そして、その後は抜き返そうと今まで以上に頑張りそうだけど。
「ルイは…いや、ルイ達は他の人と違う選ばれた職業を授かったって教わった。それは当然他の人とは比べ物にならないほど強いって。だからその強さ故に他の人は有象無象に過ぎないとも。そして、ルイ達もそう思ってしまってた。
でも、実際はルイは半分の力のヌルにすら負けるくらいに強くない。物理職を使わないヌルならあまり普通の職業と変わらないのにね。だから別に賢者も剣聖も…勇者だって他と一緒でただの職業の1つで、昔その職業で凄い人がいただけって分かった。だからルイ達自体が何か凄いってことは現時点では全くない」
「………」
ルイのその話に俺は何を言っていいか分からなかった。ただ、そんな雰囲気を察してか、ルイから話しかけてくれた。
「…ねえ、ルイと別れてからのヌルの話を聞かせて」
「いいぜ」
俺はルイに昔話をし始めた。何か、今のこの空間だけは昔に戻った気分がして凄く懐かしくて楽しいと感じてしまっていた。
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