第292話 少しの可能性
「さあ、どうする?」
ルイに勝つにはどうすればいいかを懸命に考える。ルイは俺が何かしようとしているとでも思っているのか、詠唱せずに止まっている。俺は後手に回った時点で持久戦にもつれ込まれて負けるのは確定だから俺から何かをしないといけない。また、その決断は早い方がいい。
「氷身体強化」
「っ!」
俺は氷魔法での身体属性強化を行う。それにはルイもギョッとしてから周りを見渡す。ちゃんと観客はいるから安心しろ。
「闇魔装」
次は残りの魔力を半分以上使って闇魔装を行う。
ルイはそんな俺を見て怪訝な顔をする。まあ、接近戦をやることができない以上、こんなことをしてもただの魔力の無駄だと思っているのだろう。
ザッザ……
俺はゆっくりとルイへと歩いていく。
「硬くなり、燃え尽きろ!」
「……暗がれ!」
そんな俺を見てルイは慌てて詠唱をする。それを見て俺も詠唱を開始する。
「アースファイア…」
「……ダーク!?」
ルイの詠唱に少し遅れる形で詠唱していたが、その途中でルイの魔法の魔力感知の反応が今までと少し違うに気が付いた。
「バーン!」
「サイズ!」
俺は急いで詠唱を終わらせ、大きめに作った大鎌の魔法を曲げて自分を囲む。もっと早くに気付けたら魔法の種類自体も変えれたが、大鎌の形を変えるので精一杯だった。
そんな俺にルイによる広範囲の複合魔法が襲いかかる。
(いって…!氷魔装!)
巨大な大鎌とはいえ、形状上完全に俺を囲むことはできず、隙間からルイの魔法が襲いかかる。ダメージを受けた瞬間に勝手に闇魔装が消えるので、氷魔装を行う。広範囲魔法の中は灼熱かつ尖った石の矢や槍が飛び交ってるなど最悪だ。
「くそっ……」
ルイの魔法が消えたところで俺は自分の甘さを後悔する。強化類をして近付けばルイは魔法を放ってくると思ったが、まさか広範囲魔法を使うとは思わなかった。不用意に近寄ったのは間違いだった。
とりあえず、立っていることも、歩くこともできる。しかし、全身に切り傷や火傷がある。また、もっと大きい傷もある。
「ぐっ…くう…!」
俺は二の腕に刺さっていた石の矢を抜く。これは闇魔装中の時に突き刺さったやつだ。闇魔装に防御効果が無いはきついな。まずはルイの広範囲魔法の射程から離れるために距離をとる。
「魔力が…」
そんな俺を見てルイがそうボソッと呟く。ルイが詠唱をしないかを注意深く見ていたからこそ気付けた。
そう、俺が闇魔装をしたのは魔力回復のためだ。ルイの魔法を闇魔法で威力を殺してダメージを受けるつもりだったので、ここまでの大ダメージは想定外だが目的は達成できた。今の俺の魔力は7割以上になっている。まあ、それでも現在の魔力量でルイに負けてるけど。
「………」
「そうするよな」
ルイは杖を構えて自分の魔力を大きく動かし始めた。俺に魔力を回復する手段があるとわかったので、一気にほぼ全ての魔力を使って魔法を放つゴリ押しで勝つつもりなのだろう。魔力量で負けていて、【魔攻】でも負けていたらルイのゴリ押しに俺は勝てないと判断したのだろう。
別に魔法準備だけで詠唱はしていないからここで俺が魔法でちょっかいかけても普通に魔法を使われて相殺されるだろうな。
「暗がれ、ダークサイズ」
「轟け、サンダーサイズ」
「凍てつけ、アイスサイズ」
「……?」
俺は魔力を残り魔法1、2発分だけ残して3つの魔法を横に浮べる。そして、それを魔法合体させていく。
「………」
良い教育を受けてきたであろうルイはこんな魔法合体のような強引な技術とも言えない手法を見た事ないのか、変な顔をしながらそれを見ていた。ただ、それを大したことないと思っているのか、邪魔をせずに自分の魔法の準備をしている。
ところで、複合魔法と比べて、魔法合体のメリットもある。まず、複合魔法のスキルレベルによっては3つ以上の属性の複合は無理となる。それがスキルレベルが上がっていくとどんどん複合できる属性数が増えていく。しかし、魔法合体にはスキルも無いので、そんな縛りは無い。
「硬くなり、吹き荒れ、燃え尽きろ……」
俺がルイの邪魔をしないと確信したからか、ルイはゆっくり詠唱を始める。その魔法に込められている魔力量は俺以上だ。また、スキルレベルが2か3はあるのか、3つの属性を合わせていく。ここに来てから取得しただけでなく、もうスキルレベルが上がったのかよ。
「アースウィンドファイア……」
「よしっ…」
俺はルイの詠唱が終わるぎりぎりで魔法合体に成功した。
「ランス!」
「行け!」
ルイの魔法と俺の魔法がほぼ同時に放たれた。それらはお互いに向かって一直線に進み、衝突した。
ところで、魔法合体のメリットは残り2つある。複合魔法は詠唱中にバランスよくそれぞれの魔法に魔力を使う。しかし、魔法合体では出してからなので、それぞれの魔法の魔力の比率は自由だ。俺は雷魔法と氷魔法の魔力を合わせて闇魔法くらいの比率にしている。とはいえ、この違いでは良くてルイの魔法を相殺できるくらいだろう。
そして、1番のメリットは威力の違いだ。例えば、100の魔力を使って火と風の複合魔法を放ったとする。その時に火と風の魔力は50、50で使われていない。40、40といったところだろう。複合している段階で無駄が生じるのだ。もちろん、スキルレベルが、上がればその無駄もほぼ無くなる。ただ、ここに来てから取得したというルイがさすがにそこまで到達していることはないだろう。
それに対して魔法合体は何度も言うが、先に出してから合わせている。だからそんな無駄はほとんどない。
俺はこれらの話を学校長から聞いていた。だからここの場面で合体魔法を使ったのだ。そして、俺の魔法とルイの魔法がぶつかった結果…。
「嘘っ!わあっ!」
俺の魔法がルイの魔法を突破した。自分の魔法が勝つと信じていたのか、ルイは避けれず俺の魔法を食らう。
砂煙でルイの様子は見えないが、気配感知で倒れているのであろうことは分かる。
俺は残った魔力で新たに魔法を詠唱しようとする。
「そこまで!勝者!ヌルヴィス!」
しかし、その前に学校長がこの戦いを終わらせた。
「あっ…」
緊張が解けたことで俺は膝を折って地面に座り込む。改めて自分の姿を確認すると、それなりに血を流している。
「ぎりぎりか…」
俺がルイに勝てたのはほんの少しの可能性を何とか掴めたからだ。何度もギャンブルのような行為を繰り返した。その中でも1番のギャンブルは合体魔法の準備中だ。その時に攻撃されていたら俺は何もできずにその攻撃で負けていた。ルイと違ってあれの準備中は他に何もできないのだ。そもそも俺の多重行使のスキルを持ってやっと魔法合体はできる。だから魔法合体を使う人も居ないし、世間には知られていないのだ。
ルイが魔法合体の特徴を知っていたり、俺を警戒していたら負けていた。つまり、もう1回戦ったらまず負ける。
他にも魔力を多く使ったこともあって、魔法合体の維持に精一杯で魔法をそこそこのスピードでまっすぐしか放てなかった。だから複合魔法を逸らして放ち、ルイが俺の魔法を避けようとしても負けていた。そもそも最初から連続で詠唱し続けて、魔法を放たれ続けても負けていた。
つまり、ルイが俺を舐めているのに、俺の特異性を知ってどこか警戒していたからこその勝者だ。賢者であるルイはかなり強かった。
今度は大鎌をありにして戦って欲しいもんだ。
「あーー、疲れた。でも楽しかった」
かなり疲れはしたが、それでも試行錯誤しながら魔法で戦うのは楽しかった。
ただ、魔法戦闘の知識と経験が無さすぎて、今回のような格上との戦い方が全く分からなかったのは問題だな。
砂煙が晴れて、倒れたルイに回復魔法を使う学校長の姿が見えた。ルイの魔法とぶつかったとはいえ、俺のあの魔法食らってもあまり血を流しているようには見えない。【魔攻】だけでなくて【防御】も高いのかよ。俺の低い防御力ならあれを受けるのに四肢を差し出す覚悟はいるぞ。
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