第290話 冷や汗
「よかったの?」
「多分、よくは無いんだけどさ」
ルイらが宣伝をしに魔法技術塔を離れると、ラウレーナから尋ねられた。ルイに勝てる確証がないのにこんな勝負を受けるのはよくは無い。
「でも負けたところで俺に不利益が無いし、勝ったら学校長が何でも聞いてくれるっていうからやってみる価値はあるかな」
「私に迷惑をかける分には構わないよ」
学校長がいいと言ってるんだから別にいいだろう。それに気は乗らないはずなのに、どこかわくわくしている自分もいる。
「ところで、あの賢者と知り合いだったの?」
「あーー…」
そう言えば、その辺のことはラウレーナを始め、ルシエルも学校長も知らないよな。
俺は幼馴染であることから、さらに再開時にどんなことがあったのかを話した。
「何それ!すっごくムカつく!ヌルヴィスは悪いことしてないのに!」
「それは理不尽じゃ!倒すなら余も協力するのじゃよ!」
俺の話を聞いた2人は苛立ちを隠せない様子だった。何なら、ルシエルはさっきよりも怒っている。
「それはかわいそうだね。お互いに」
「ん?」
苛立ちを隠さない2人とは別に、落ち着いた様子の学校長がボソッとそう言う。
「もし、勝ったら…いや、勝とうが負けようが明日の勝負が終わったら1つだけ私の言うことを聞いてくれないか?」
「ん?別にいいけど…今じゃダメなのか?」
学校長からは色々と教えてもらってるので、1つくらい言うこと聞くのは問題ない。ただ、勝っても負けてもなら今それを言えばいい気がする。
「いや、戦い終わってからじゃないとダメなんだよ」
「まあ、いいけどさ」
学校長なりの考えがあるなら俺はそれ以上何かを言うことはできない。どうせ聞いても言わないしな。
「それと、明日はストックを事前に用意するのを禁止するよ。それをすると勝つのは当たり前になるからね。これは特訓の一環と思ってもいいよ」
「まじか……。まあ、仕方ないな」
開始早々に突然ストックを放てば勝つことはできるはずだ。しかし、それで勝っても…という考えはあった。学校長から封じられたなら使かおうか考える必要がなくなっていい。
「幼馴染同士全力でぶつかり合ってみなよ」
「わかったよ」
そういえば、俺はルイとシアの幼馴染とちゃんと戦ったことは無いな。わくわくしているのはそのせいかもな。
「明日は応援してるよ」
「僕も応援してるよ!」
「余もじゃ!そんな奴に負けるのは許さんぞ!」
「ああ、ありがとな」
そして、俺達は宿へと帰った。宿の部屋の中で明日はどう戦おうかと考えていたが、特に何も思いつかなかった。物理職を使えない以上、なるようになるしかないよな。
「逃げずに来たね」
「こっちこそ。負けを見られるためにこんなに人を呼ぶとはな」
次の日は特訓も無くなったので、正午前に魔法技術塔に行ったのだが、既に50人弱の観客が集まっていた。
「終わったあとが楽しみ」
「そうだな」
俺とルイご会話はこれで終わり、各々離れて軽く体を曲げ伸ばしなどしていた。
「両者とも揃ってるね。準備はいい?」
「ん」
「いいぞ」
ルイは杖を構えて頷き、俺は防具だけつけて答えた。大鎌は役割的に杖代わりになるのだが、さすがに持つわけにはいかない。
「では、これよりヌルヴィス対ルイスの模擬戦を始める。流れ弾は私が防ぐから両者とも遠慮なく全力でぶつかり合ってくれ。
それでは始めっ!」
「燃え尽きろ!」
「暗がれ!」
俺とルイは開始の合図と同時に詠唱を始める。
「ファイアランス!」
「ダークランス!」
俺とルイの魔法がぶつかり合う。すると、それらの魔法は相殺される。
(嘘だろ…)
俺は顔にも声にも出さないように気を付けながら驚愕する。使った魔力はほぼ同じなのに、俺の鬼才の闇魔法とルイの奇才の火魔法が相殺なのだ。つまり、その差を補えるほど、ルイの【魔攻】が俺よりも高いのだ。
「轟け!」
俺は急いで次の魔法を準備する。
「サンダーランス!」
「硬くなれ!アースボール」
俺は雷魔法を放ったが、ルイはそれよりも半分以上も少ない魔力で作った土魔法でまた相殺する。雷魔法は電気を流さない土魔法に弱いのだ。
(前の光魔法しか使わないルイじゃない……)
前に会った時は馬鹿の一つ覚えみたいに新しく取得したであろう光魔法しか使わなかった。しかし、今は自分の魔法のスキルレベルと属性の相性を把握して魔法を使っている。
「ふふ」
「………」
ルイは昨日の不気味な笑みと違い、余裕を表すような堂々とした微笑みを浮かべる。
それを見た俺は背中に冷や汗をかくのを実感する。
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