第288話 特訓の内容と別視点

「まあ、闘力と魔力を合わせるのは誰にもできるかは分からないから、気長に考えて特訓しなよ。今まず教えるのは魔力感知で、自主練の時に大鎌の魔法をもっと研究してみて」


「分かった」


学校長は業務もあるから毎日付きっきりで教えてくれる時間は無いそうだ。もちろん、空き時間は全て費やしてくれるつもりらしいけど。


「まずは今日と明後日は空いてるからね」


直近で分かるのは今日と明後日が空いていることだけらしい。明後日以降については明後日に会った時に教えてくれるそうだ。……ん?今日?


「さて、これから魔力感知を教えていくよ」


「おっ…よろしく」


これからかよとは思ったが、別にちょっと本気で動いただけだからまだまだ全然やれる。先に進んでいるラウレーナとルシエルに追いつくためには今すぐに取り組まないといけない。


「じゃあ、無詠唱で君の傍にどんどん魔法を生み出していくから頑張って避けてね。あ、闘力や魔力で身体能力は上げないでね。緊張感が薄まるから」


「え?」


いきなり言われたことに俺は戸惑ってしまう。


「もちろん、危険感知は反応しちゃうと思うけど、それだけだと避けられないくらい魔法を生み出すから。魔力が集まるのを早く感知できるようになるといいね。

あ、何発も食らうだろうから威力は抑え目にしておくよ」


「え?え?」


学校長の補足説明にさらに戸惑いが深まってしまう。今の話だと、俺は今から何発も魔法を食らわないといけないみたいに聞こえたぞ?


「いくよ。はい」


「いや、だから…ほわっ!」


俺は危険感知に従って頭を下げる。すると、頭のあった場所に火の玉が浮いていた。


「おっ!」


休まる間もなくまた危険感知が反応したので、転がって回避する。


「いや!ちょっ…!」


しかし、転がった先に最初に出した火の玉が移動して待ち構えていた。慌てて止まるが、火の玉は俺の方に近付いて来た。


「熱っ!」


「魔力が感知できたらその魔法がこの後どう動くかも把握できるから避けられるよ」


俺は飛び跳ねて火の玉を大きく避ける。それにしても魔力感知があると便利だと実感してしまう。


「ふぅ…」


気配感知や危険感知もそうだが、感知系を取得するにはそれなりにスパルタな特訓をしないといけないのか?

それはさておき、このままでは危険感知と俺の反射神経の特訓にしかなっていない。俺は目を閉じて新たな魔法に意識を集中させる。


「そこか!」


俺は何かを感じ取って深くお辞儀をするように頭を下げる。


「いや、それは気のせい」


「あぼぼぼ……」


俺の感じ取ったのはただの気の所為らしく、俺の頭は水で覆われた。なかなか難しいことを実感しながらも、俺は再び目を閉じて集中する。





「今日はこのくらいかな」


「かひゅ……こひゅ………」


あれから何時間続けただろうか?学校長はかなりのスパルタだったため、休憩無しで夕方まで続けていた。一応水は飲ませてくれたが、頭が水で覆われた時に飲めと言われた。

また、俺は身体は火傷や切り傷だらけで、パッと腕を見ただけで10箇所以上は怪我をしている。ちなみに、防具も緊張感を増すためとやらで外させられた。

さらに、休憩なく動き回ったことで俺の体力も限界に近くなっている。俺が疲れてきてどんなに動きが悪くなろうと学校長は構わずに続けていた。


「が、学校…長はだ、誰かに…特訓を…付けたことは…あるのか?」


「ないよ」


こんな過酷な特訓なのは絶対にそれが原因だ。学校長はどこかで自分を基準としてるのか、そもそも基準がないからなのか加減というのを知らない。


「でも少し掴んだでは無いか?」


「少しは…」


何かが集まる感じがして魔法を避けられることが最後の方だけ1、2回あった。偶然と言えば偶然だけど何かを感じ取った気はする。学校長曰く、このペースなら次かその次には魔力感知を取得できそうとの事だ。つまり、次とその次はこのキツすぎる特訓が行われるということになる。

というか、この特訓では魔力感知よりも直感や第六感などのそういうスキルが取得されそうで怖いな。


「ハイヒール」


「おおお……」


学校長の回復魔法で身体の傷が癒えた。心做しか体力も回復している気がする。というか、学校長は回復魔法まで使えたのか。使えない魔法は無いのか?


「そろそろ出るよ」


「りょーかい…」


俺はまだ子鹿のように震える脚で立ち上がると、歩いて学校長に続いて扉を出る。その歩き方が酷かったらしく、何か魔法の杖を渡された。俺はそれを普通の杖のように使って歩く。

そして、長く続く階段を前にして絶望感を覚える。



「赤ちゃんのように抱っこしてやろうか?」


「回復するまで待つという選択肢はないのか?」


「ないな」


学校長はこの後は書類のなどの仕事を片付けるため、そこまで時間が無いようだ。抱っこか自力かの2択なら自力で階段を上がるのを選ぶ。30歳過ぎであろう男に抱っこなんかされたくない。


「よおっしゃ……!」


「おつかれ」


その後、自力で階段を制覇したはいいが、どんどん身体が重くなっていくのを感じる。


「じゃあ、途中まで一緒に行くか」


「おお……」


ヘロヘロになりながら学校長と途中まで歩き、それからラウレーナとルシエルの元まで行った。


「2人とも……」


「ヌルヴィス!?」

「主!?」


2人にはかなり驚かれた。傷はなくても服はボロボロで、脚は震えて杖を付き、疲れきった顔などをしていたら心配されるか。その後は自力でちゃんと歩ける程度まで回復してから家まで帰った。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「え…?今のは学校長とヌル?」


ルイは自分の見た光景が信じられず、目を擦ったりするが、見える者は変わらない。ボロボロのヌルをの後ろ姿を見ると、あのオーガの時の嫌な記憶がフラッシュバックする。


「ん?何見てるの?あっ、あれって学校長?今日は朝からずっと用事で居ないはずだったのに何してるんだろう?

ぷっ…隣いる人大丈夫?まともに歩けてもないじゃん。あ、もしかして学校長の最高難易度をクリアして付きっきりで特訓つけてもらったのかな?」


隣にいるここで仲良くなった凡才の子がそう言ってくる。でも、ヌルは多分物理職のステータスもあると思う。だからルイが最初の一撃で諦めたあの難易度を突破するのは可能なのかもしれない。

だって学校長には魔法じゃなければダメージは与えられるのだし。剣聖のシアなら絶対にダメージを与えられてたはず。ルイが諦めたのは相性が悪かっただけ。


「まあ、賢者のルイスが無理なんだから無理か」


「そうに決まってる」


ルイはそう答えると、ヌルから目を離して逆方向へと歩き出す。仮にヌルが物理職のステータスを持とうが、賢者である自分ができないことをヌルができるはずがないのだ。

あの時は学校に通っているからレベルがヌルよりも低かっただけ。あれからはレベル上げパワーレベリングをしてレベルもかなり高くなった。

そもそも、ルイらはあの時から勝てない相手には騎士らを囮にしてでも逃げろと言われているし。勇者、剣聖、賢者、聖女などの職業を授かった者は大いなる役目があるからくだらないところで死んではいけない。だから学校長ともあのルールで戦っていたらダメージを与えるのはできたはず。



ヌルヴィスが拒絶した幼馴染達の性格はちっとも改善していなかった。むしろ、悪化していた。

彼女達の幸運はその性格を正せる者が近くにいたことだ。しかし、それ以上の不幸は他に近くにいる大人がクズばかりだったこと、何よりその者と離れてから培われた自尊心が高か過ぎたことだ。

だからあれから正気を取り戻すことなく、貴族を中心とした大人の口車に乗せられ、性格はより歪む方向へと進んで行った。まともな親である両親とはこうして研修として離れさせられ、接触できないようにされている。それは剣聖のアリシアも同じだ。

周りの大人からしたら現実を受け止めて落ち込んで自分を見つめ直す賢者や剣聖よりも、簡単に口車に乗ってくれる都合のいい駒の方が都合が良いのだ。

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