世界でたった1人の鬼才の魔法剣士 〜不遇を添えて〜

第286話 残念な終わり方

「うおっ！」

俺は危険感知の反応に従って頭を下げると、そこに魔法が現れていた。それを見て俺は体勢を低くしたまま転がるように下がる。すると、すぐにその魔法が爆発する。

「嘘だろ…」

学校長は無詠唱だけでなく、手元以外にも魔法を出せるようだ。つまり、気が付いたら身体が魔法の中ということもあるのか。

「良い反応だよ！これはどう防ぐ！」

「げっ…！？」

学校長の背後には様々な属性の数十の矢の魔法が浮かんでいた。それを緩急を付けながら俺に放ってくる。

俺は下がりながら急いで闘装と闇魔装を行う。

「うっ…こほっ…わっ！」

俺は下手くそなステップを踏んでいるみたいに魔法を避けていく。時々大鎌で強引に斬り消しているが、攻撃に転じるにはいかんせん数が多過ぎる。

「下がっていたら攻撃できないぞー」

「らあっ！！」

余裕そうなその発言に少しカチンときた俺は、向かってくる大量の魔法の矢の合間を見つけ、そこに闇の斬撃を放つ。

「ほう！これは魔法では無いな！」

学校長は嬉しそうに俺に向かってきていた魔法の矢を闇の斬撃に向かわせる。

「しっ！」

俺に向かってくる魔法の矢が少なくなったことで、俺はやっと前に出ることができた。

「たあっ！」

闇の斬撃が消されそうになったところで俺はまた闇の斬撃を放っておく。

「………」

あと数歩で学校長に大鎌が届くという距離まで来たが、学校長は俺を見てニヤニヤしている。何をしようが防げる気なのだろうな。

「撃て！」

「…ん？！」

学校長が行動を起こす前に俺は無属性魔法の詠唱を始める。学校長ですら知らないであろう魔法により、学校長の動きがピタッと止まる。

「アタック！」

俺は闘力の弾を放つが、それは学校長が無詠唱で作った氷の壁に止められる。

「暗がれ！ダークバーン！」

今の魔法は学校長に近付くための時間稼ぎで、当たるとは思っていない。俺は残りの魔力の4/5程を使って、広範囲の闇魔法を自分もろとも使う。

学校長がこの魔法の中にいることは気配感知で確認済みだ。とはいえ、学校長はダメージを受けないように土魔法のドームに籠っている。

「やあっ！」

俺は魔法の痛みに耐えながらマジックポーチから取り出した大刀を土魔法のドームに突き刺す。その瞬間から俺は気配感知に集中するために目を閉じた。

俺の予想なら学校長はまた謎の魔法？移動するはずだ。

「そこだ！」

俺はダークバーンの範囲外に突如として現れた気配目掛けて大鎌を投げ、その方向に俺も走って向かう。

「こんなもの……何これ！？重っ！」

ダークバーンの外から学校長の声がした。ダークバーンの範囲外に出てると、大鎌の下敷きになって仰向けで倒れている学校長が居た。

俺はそのままのスピードで学校長を殴りに行く。

「待って！もうダメージ受けたから！」

「んあ？」

横になっている学校長の顔面に拳を振り下ろそうとしたところで、学校長から待ったをかけられた。

いや、なんて言ったか定かでは無いから、やっぱり殴っておこう。

「私の負け！だからそんな追い打ちしなくていいから！」

「勝った……のか？」

改めて俺を止める学校長を見て、強化類を全て解いて少し冷静になる。学校長の状態を見ると、斬り傷などは無い。それなのにダメージを受けた？あっ。

「もしかして、それを受け止めようとして……」

「はははっ…失敗しちゃった」

学校長はある程度大鎌の勢いを魔法で抑えたところで、大鎌をキャッチしようとしたらしい。しかし、大鎌は見かけによらずかなりの重量がある。そのため、学校長はキャッチできずに下敷きになり、押し潰されるような形でダメージを受けたそうだ。

「勝った気しねぇ…。それにこんな終わり方はしょぼいだろ」

「……その点は私も反省してるよ」

学校長が調子に乗って大鎌を掴もうとしていなかったら俺は勝っていなかった。だって、もう闇身体強化と闇魔装をする魔力もないから次の攻防は無かったはずだ。

「でも、この最高難易度に君が勝ったことには変わりない。そもそも、こんなにも私を夢中にさせた時点で、私の技術を教えたいと思ってしまったから結果に関わらず勝ちみたいなものだよ。

それに言ってた通り、ちゃんと付きっきりで君に相応しい魔法を教えるよ」

「あ、そうか。それなら良かった？」

途中から勝った時のことなど忘れ、1発くれてやることしか考えてなかったな。一応勝ちは勝ちだしな。どんなに過程がしょぼくても勝ちという結果は変わらない。

「ところで……」

「ん？」

学校長は困ったような、恥ずかしがるような情けない顔をする。

「この大鎌を退けてくれないか？これを退かしてくれないと立てないんだよ」

「あ、ごめん」

俺は学校長の上に乗っている大鎌を持ち上げる。そして、学校長に手を伸ばし、学校長を引っ張って立ってもらう。

しかし、魔法職の者だとこの大鎌が乗せられたら動けないのか。何かに使え……はしないか。