第285話 不意打ち

「そんな警戒しなくても一気に終わらせたりしないよ。それではつまらないだろ?」


「ははは…」


学校長が攻撃すると聞いて俺は知らない間にかなり緊張していたらしい。

咄嗟に物理職のステータスを出さないように注意しているが、不意打ちをいつもの癖で咄嗟に回避をしたら【敏捷】があるのは確実にバレるからな。それに対する身体の強張りもある。


「でも、今のままでは私がなめられるかもしれないからね」


「いやいや!なめてない!なめてない!」


俺は慌てて学校長の発言を否定する。その発言の次に飛び出す魔法なんて想像したくない。


「いや、そう言っても万が一があるからね。ここは学校長らしいところを見せないと」


「凍てつけ!!」


俺は嫌な予感がして急いで魔法の準備を始める。まだ危険感知は反応していないが、それももうすぐ反応するだろう。


「ファイアボール」


「アイスウォール!」


俺が氷の壁を出すのと、学校長が拳ほどの炎の玉を出すのはほぼ同時だった。その炎の玉は小走り程度でゆっくり進んでくるが、スピードのコントロールは学校長が自由にできるのだろう。


「っ!?」


氷の壁の奥から炎の玉が近付くのを見ていると、危険感知が反応した。俺はゆっくりを意識して身体を伏せる。


「ばんっ」


「ぐおっ…!」


学校長がそう言った瞬間に炎の玉が爆発する。その爆発で俺の氷の壁などは砕けて溶け散り、俺は爆風で吹き飛ぶ。氷が一瞬で溶ける程の火力なのに、俺には火傷するほどの熱はこなかった。どんな精度をしているんだよ…。

また、今の魔法は詠唱省略に偽装した無詠唱のボムの魔法のはずだ。当たり前のように魔法の偽装をしないで欲しい。


「寝ている暇は無いよ?ファイアランス」


「暗がれ!ダークサイズ!」


俺は学校長の魔法を闇魔法で相殺する。その間に不自然ではないくらいに少し学校長に近付いておく。


「今度は俺のとっておきだ!」


「ウィ……へえ?」


俺の宣言に学校長は魔法の詠唱を止める。いや、魔法の詠唱は途中で中断できないんだぞ。つまり、今のも詠唱はブラフで無詠唱で何かやるつもりだったな。


しかし、俺の予想通り学校長は俺から何かやろうとしたら待ってくれる。学校長は俺の力を見る戦いなのだから邪魔はできないのだ。



「轟け、サンダーサイズ」

「凍てつけ、アイスサイズ」

「暗がれ、ダークサイズ」


「凄い!異なる属性を一気に作ることができるのか!」


これには学校長も驚いていた。まあ、大鎌の魔法以外ではできないけどな。


「ふぅ……」


別に俺はこれを見せたかったわけではない。俺は集中しながらその3つを混ぜ合わせる。


「凄い!凄い!凄いよ!」


「くぅ…」


俺の苦悩をしている中、学校長は大興奮だ。どんな顔をしているか見てみたいが、そんな余裕は無い。


「できた…」


俺の目の前には一回り大きくなった大鎌が浮いている。ただ、その大鎌はベースは闇大鎌なのだが、刃には雷が迸り、それ以外には氷が張っている。

これは魔法の大鎌での実験中に見つけたものだ。


「防いでみろ!」


維持し続けるのも難しいので、俺はもう学校長に放ってしまう。


「ファイアランス!」


学校長も魔法で合体大鎌を狙うが、そんなのは無いものかのように突破する。


「硬くなり、燃え尽きろ!」


学校長はそれを見て、省略せずに詠唱を始める。

俺はその時を待っていた。俺は身体強化と雷身体強化をして学校長へ駆け出す。走る姿を見られないよう、魔法の影に隠れるのを意識しておく。


「アースファイアランス!」


学校長の土と火の合体魔法が俺の魔法へと迫る。簡単に合体魔法を作っている技術は後で教えてもらおう。

結局、俺の魔法と学校長の魔法はお互いに相殺された。


でも、俺の目的は十分果たした。俺は雷身体強化を闇身体強化に変え、そして大鎌の至極を取り出す。


「ふっ!」


「っ!!」


学校長の横まで移動していた俺は大鎌を学校長に向かって振る。

学校長も無詠唱で大鎌との間に魔法の壁を2枚作るが、そんなのでは俺の至極は止まらない。このままでは腕1本ぐらいは斬り落とす勢いだが、手加減できないからそれぐらいは許して欲しい。


「移れ」


「やった!…え?」


しかし、俺の大鎌はスカッと空を斬った。今のは絶対に防げるタイミングではなかったはずだ。



「私にこの魔法を使わせたのは両手で数えられるくらいしかいないよ」


「え?」


学校長は5mほど後ろから話しかけてきた。いや…いつ移動した?瞬間移動したかのように動きが見えなかった。今の動きは物理職があろうとできっこない。


「君も魔族…闘力を使っている時点で違うね」


「っ!?」


学校長が言い出したことに俺はドキッとする。というか、君もっていうことは……。

しかし、俺がこんなことを考えている余裕はすぐに無くなる。


「いや、そんなこと今はどうでもいい!これなら私ももっと本気を出してもいいよね!!」


「やっべー……」


学校長は大興奮を通り過ぎて、闘志がみなぎってしまった。俺は学校長を仕留め損なった上にやる気にさせてしまった。

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