第283話 難易度

「地下?」


「その通りだよ」


学校長に付いて行くと、長い階段を降りることになった。最初は誰にも見られない場所はどこか気になっていたが、それが地下なら納得だ。



「着いたよ」


「……頑丈過ぎないか?」


10分以上も階段を降りて目に入ったのは頑丈そうな金属の扉だった。その扉は年季が入っているようで、錆びている部分があるし、傷なども多く付いている。

しかも触っただけでヘパイトスのところの扉よりも分厚いのがわかる。


「頑丈なのは仕方ないさ。なぜなら、私がトレーニングするために作った場所だからね」


「ははは……」


つまり、学校長がトレーニングするとなれば、こんだけ頑丈にしないと外に影響があるのか。あ、だからこんな地下に作ったのか。


カチャカチャ


「ん?何してるんだ?」


「魔法で作った鍵で開けているんだよ」


しかもこの扉は鍵で閉められるようになっているらしい。そして、その鍵は毎回学校長が作っているから物としては存在しない。確かにこれは覗きには来れないな。


「さあ、入って」


鍵を開けた学校長に言われて俺は中に入る。中は学校長の魔法で明るくなっていた。

ちなみに、通る時に見ると、金属の扉の厚さは1mはあった。


「なっ!」


中に入るとその光景に驚いた。別に中は想像よりもかなり広く、大型の魔物でも存分に暴れられる。とはいえ、特別なものとかは無い。


「何回も魔法で補強してるけど傷が減らないんだよね」


「………」


部屋の中は無数の魔法の跡で酷いことになっていた。大きく抉れたりしているのは当たり前で、ところによって溶けて透明になっているところもあるし、氷が残っている場所もある。

気になって地面を触ってみても柔らかいということも無い。むしろ、かなり硬く、俺の普通の魔法程度では傷1つつかなそうだ。


「ビビったかい?」


「いや…逆に楽しみになってきたよ」


こんなことを出来る奴に俺は魔法を教えてもらえるかもしれないと思うと、楽しみになってくる。


「それなら良かったよ。ところで、難易度はどうする?」


「難易度?」


ニヤニヤ話す学校長から突然よく分からない言葉が飛び出した。


「勝てもしない相手にただ戦うだけじゃつまらないでしょ?だから難易度としてクリア条件を設定させるんだよ。比較的簡単なのは、ボール系以外の魔法を使わせるとか、魔力を50以上使わせるとかね。難易度が高いので言えば、1歩でも動かせるとか、防御させるとかかな」


「なるほどな」


要するに、この部屋を見てやる気をなくした者に対してモチベーションを持ち上がらせるための処置ってことか。


「難易度に合わせて、クリアした時の私からの指導の質も高くなるよ」


「指導の質?」


教育者なら指導の質は常に最大にしろよと思うが、どう変わるのかは純粋に気になる。


「もちろん、どの難易度をクリアしようが失敗しようがその人に合う魔法は教えるよ。ただ、高難易度をクリアするほど、難しくて強い魔法を教えているんだよ」


結局は実力に合う魔法を教えているだけということだな。


「ちなみに、最高難易度をクリアしたら私の知識を全て使って付きっきりで合う魔法を教えるよ」


「まじか!」


難易度のクリア報酬にはあまり魅力を感じていなかったが、その一言で変わった。学校長程の者なら人に言えないような殺傷力が高い魔法なども知っているはずだ。それらを付きっきりで教えてくれるのか。


「…ちなみに、最高難易度の内容は?」


「よくぞ聞いてくれた!」


学校長はその質問を待っていたとばかりにテンションを上げる。

そして、少し溜めてから話す。


「私にダメージを与えることだ。もちろん私はそうさせないようにガードもするし、それなりの攻撃もするよ」


「ははっ…」


俺は周りを見る。もちろん、そこまで威力のある魔法は使わないだろうが、攻撃までするのか……。


「さて、どうする?」


「はあ…」


ニヤニヤしながらも、どこか期待するような顔をされたら選ぶのは1つしかないだろう。

何より、俺はこういう挑発的なものに弱いんだ。


「最高難易度に決まってるだろ」


「君でその難易度を選ぶのは5人目だよ!」


学校長は嬉しそうにそう答えると、俺から少し離れる。


「さあ!スタートだ!いつでも来るといい!もちろん、私は最初のうちに攻撃することは無いし、攻撃を始める時は早めに教えるから、それまでは自由にやっていいよ!」


そして、学校長は急に開始を合図してきた。でもそれは攻撃をしないからこその大雑把の開始宣言だった。


「轟け!サンダーランス!」


それならと俺は早速魔法を学校長に放つ。俺は追撃を準備せずに学校長の行動を観察した。その魔法をどうするか見るためだ。

しかし、結果的には学校長は何もしなかった。


「これは驚いたよ。想像よりも威力があったね。奇才のスキルで、今のスキルレベルは5かな?」


「はあ!?」


学校長は魔法を腹に食らったはずなのに全くダメージを受けた様子はなかった。


「あ、私は魔法耐性は特別高いんだ。今の威力を2倍、3倍にした程度だとダメージは与えられないよ」


「まじかよ……」


規格外という他ない。でも、高いのは【防御】ではなく、魔法耐性か。それならまだ可能性はあるな。


「さて、みんなに1度だけ聞いてるんだけど、難易度は落とすかい?」


学校長は少し暗い表情でそう聞いてくる。ここで難易度を落とす者が多いんだろうな。


「このままでいいぞ」


「っ!本当かい!もう取り消しは無しだからね!」


学校長は笑顔でそう答える。そして、どんどん魔法を打ってこいとばかりに両腕を横に広げた。




「ちなみに、最高難易度を下げなかったのは君が初めてだ。私でもよく分からなかった君をもっとよく魅せてくれ」


難易度攻略に夢中になっていた俺は学校長が何かを小さく何かを呟いたのに気付かなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る