第279話 学校長の授業
「燃え尽きろ、ファイアボール」
学校長はいきなり詠唱をすると、手の平サイズの火の玉を作った。
「2人はこのボール系の魔法を使えるよね?」
学校長の質問に俺とルシエルは頷いた。
「流れ出ろ、ウォータースピア」
「吹き荒れろ、ウィンドアロー」
「硬くなれ、アースボム」
「「っ!?」」
学校長は最初の魔法を消すことなく、続けて詠唱をすると、さらに3つの魔法を使う。
「同時に色々使うのはただのパフォーマンスだから気にしないでね」
「気にするなって…」
サラッとやっているが、1つの魔法を維持しながら続けて複数の魔法を追加するのは意識が分散するから、かなり難しい。俺はストックと合わせるくらいしか複数の魔法を同時に使うことはできない。いや、2つくらいならできるかもしれないが、その時は大鎌を振る余裕は無くなる。
「この魔法も2人なら使えると思う」
急に見せられた高等技術は本当に関係ないようで、普通に続きを話し出す。
学校長の言った通り、俺もルシエルもボール、スピア、アロー、ボムなどの魔法は使える。
「でも、何でみんなしてこの魔法を使っているの?」
「「え?」」
そこで俺とルシエルは思わず声を漏らす。何でって言われてもそう教わったからでしか言えない。
「それはみんなが固定としてイメージしやすいからその魔法が広まったからだよ。広まったことでよりみんなが使うから更にイメージしやすくなった」
まあ、ボールは球、スピアは槍などその魔法にイメージは誰でも簡単にできる。
「でもそれってつまり、詠唱した段階で敵にもどんな魔法か分かっちゃうよね?」
それはその通りで間違いない。ファイアボール!と言いながら他の魔法を使うなんてほとんどの者はできないので、詠唱された魔法が来ると警戒する。
「ヌルヴィスは魔法に何を求めてる?」
「えっと……妨害と威力?」
学校長の咄嗟の問に思い付いたのはその2つだった。俺が魔法を使うのは大鎌を食らわせるための妨害目的か、威力を高めた魔法でダメージを与えるためくらいだろう。
「それだったら、今のような魔法以外にもっと相応しい魔法は無いかい?「硬くなれ、ドーム」」
「おわっ!?」
「えっ?!」
俺は突如として現れた土の半円に囲まれた。俺の視界は光が全く無いことで真っ暗になった。
「これとかね。ウォールで壁を4枚作ることなく、この魔法なら囲むことはできるよ」
学校長は俺を囲う魔法を解除しながらそう言う。
「でも、こんな魔法は聞いた事が無いはずだ。私が今思いついてやっただけだからね」
「「………」」
俺とルシエルは空いた口が塞がらない。こいつは今思い付いて魔法を作ったのか?
「もちろん、思い付きですぐ魔法を作るのは私くらいしかできないよ。でも、どんな魔法があったら便利か、より強くなるかを考えて、試行錯誤すれば君達でも魔法は作ることができる」
ラウレーナのあのワイヤーという魔法もこの講義を受けて、強くなるために考えた結果として生まれた魔法なんだな。
「でも魔法を作るのはそんな簡単な事じゃないよ。既存の魔法のような明確なイメージがいるからこんな感じというあやふやでは使えない。より明確な意識をする必要がある。だから自分に足りないのを補う魔法や使いたい魔法なんかを考える方がいいよ」
「なるほどな…」
どんな魔法にするかを明確に意識して魔法は作らないと失敗するということか。
「まあ、こんな感じの魔法を使いたいというアイディアが出たら私のところに来てもいいよ。その魔法を試しに使ってあげるよ。私なら何となくのイメージで魔法を作れるからね。それを実際に見たら2人も明確なイメージができるはずだよ。それに想像と違ったとかもあると思うよ」
「「……」」
今の説明を聞いてこの学校長の異次元さがよく分かった。こいつはどんな魔法でも思いつきでどんなのでも使えるのだ。つまり、状況に合わせてその時の最適解の魔法を生み出せるのだ。
「ちなみに、魔法を作るには最低スキルレベル4は欲しい。欲を言うと5はあって欲しいかな?」
俺の雷魔法や氷魔法のスキルレベルは5だから大丈夫だ。もちろん、それよりも高い闇魔法もだ。
「だから魔法を作るなんてこの学校でも限られた者しかできない。まあ、戦いに慣れてない者が新しい魔法を作り出す必要が無いから問題ないけどね」
戦いを経験しないとどんな魔法が必要かも分からないからな。
「さて、授業はここまでだよ。参考になったかな?」
「かなりな……」
ラウレーナの言った通り、これは魔法に対する意思が変わるな。まだどんな魔法を作りたいかとかはすぐには思い浮かばないが、作る上の参考になる話だった。
「あ、最後に2人にはもう1つ見してあげる」
教室から出ていこうとした俺とルシエルに学校長はそう言ってきた。正直、既に満足しているのだが、これから更に何をするつもりだ?
「ファイアボール」
「「なっ?!」」
「これが詠唱省略だよ」
学校長は詠唱を短縮して魔法を作り出した。もちろん、今のはストックとかでは無い。
しかし、見せたいのはこれだけではなかった。
「そして、これが無詠唱だ」
次はそう言って一言も詠唱をしないで魔法をファイアボールを出す。
「もちろん、魔力消費が多くなるというデメリットはあるけど、不意打ちにもなるし、緊急時にも便利だよ。興味があったら教えてあげるよ。
ただ、魔法を作るよりも遥かに難しいからね」
「はははっ……」
俺は乾いた笑いを浮かべながら教室を後にした。この学校長は規格外過ぎる。やっぱり本当に人族か?何か人型の高ランクの魔物と言われても信じてしまうぞ。
ところで、俺が学校長室で大鎌を持って襲いかかっても勝てないと思ったのは間違いなかったな。多分それをしたら無詠唱の魔法でぶっ飛ばされるだけだ。
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