第278話 今の目標

「余の深緋でも……」


「その気持ちはよく分かるぞ」


「はははは……」


帰りの時は行きの時のようなぎこちない雰囲気での無言はなかった。

互いに何度か戦うことで相手のことが分かったからだろうか。


「深緋……」


しかし、新しい刀でもラウレーナの水魔装が斬れなかったことでルシエルはかなり落ち込んでいる。俺も今日まで大鎌ではラウレーナの水魔装に歯が立たなかったので気持ちはよく分かる。


「深緋は良い刀か?」


「そうじゃ!余が使ってきた中で1番の業物じゃぞ!」


俺の質問にルシエルがそう答える。

魔族の姫が使ったことのある刀よりも業物の刀を作れるへパイトスはヤバ過ぎるが、それは一旦忘れよう。俺がルシエルに言いたいのはそこでは無い。


「それならその刀で水魔装が斬れなかったのは何でだ?」


「そ、それは……」


ルシエルは言い淀みながらも、視線を下に逸らす。その反応的に理由は言われなくても分かっているようだ。

ルシエルから答えを聞くまで俺は黙って待った。



「……余の腕が足りないからじゃ」


「そうだな」


そんな時間をかけず、ルシエルは自分から答えを言った。言葉に出すことでしっかりとそれを認めるのは重要だ。

まあ、俺も水魔装を突破できたのは大鎌の斬れ味も大きい。とはいえ、斬れ味的には俺の大鎌とルシエルの刀では大差は無い。


「それをここで補う手段を探せばいいんだよ」


「分かったのじゃ!」


ルシエルは前を向いて力強くそう答える。すると、今度はラウレーナに指をさす。


「打倒!水魔装じゃ!余は何としても水魔装を斬れるようになるのじゃ!」


「ふふっ…その時を楽しみに待ってるよ」


ルシエルからの宣戦布告をラウレーナは笑顔で受ける。ラウレーナが珍しくお姉さんのような対応をルシエルにしているけど、この中で一番歳上なのはラウレーナなんだよな。それにラウレーナは正々堂々でのこういう宣言をされるのは好きそうだしな。



「じゃあ、僕もしようかな」


ラウレーナはそう呟くと、ルシエルがやったように、今度は俺に指を差す。


「今度はあの大鎌でも斬れず、そして膝を付かないようにする!僕はあの海竜に一撃でノックアウトされたことを忘れてないから!もっと防御力も高めるよ!」


「おいおい……」


そうするとルシエルの目標が難しくなるぞ。それはともかく、ラウレーナも目標を作ることはいいことだ。


「俺は……」


そこで俺も何か明確な目標を立てようとしたが、特に何も思いつかなかった。

もちろん、今よりも攻撃などを高めることや、もっと魔法にかかる時間を短縮とかなどより強くなるために必要なことはある。

ただ、2人のような明確な目標は無いのだ。



「とりあえず、2人も最初は学校長の授業を受けた方がいいよ。魔法に対する意識も変わるし、必要なことも明確になるよ」


そんな俺の煮え切れない様子を見てか、ラウレーナはそう提案してくる。俺とルシエルはまずその授業とやらを受けることにした。

学校長の授業は不定期開催との事だったが、次の日の朝一で確認すると数分後にやるとの事だった。



「今日は君達2人が来るかと思ってやることにしたんだ」


「そうか」


授業を行う教室で学校長に会うと1番にそう言われた。まあ、学校に入学した者は必ず1度受けるそうなので、そう予測されても仕方ない。


「どんな技術を身に付けたいか分からないなら、1度私と本気戦ってみてもいいんだよ?そしたら足りないところを正確にアドバイスできるよ?」


「いや、それはいい」


俺は学校長の提案を即答で断る。俺が本気で戦ったらバレたくないのが色々とバレてしまう。


「何か隠したいことがあるみたいだね」


「い、いいから授業を始めろよ!」


いちいちこの学校長は見透かしているようなことを言うから対応に困る。現に今のも俺は図星を付かれたしな。


「1度戦った方が君のためになるとは思うよ。人よりも優れた物を多く持つ者ほど自分に足りない物が分からなくなるものだよ。

この私みたいに!」


「………」


最初の方に言われたことには少しドキッとしたが、最後の一言で全部台無しになった。

……でも、本気で行き詰ったら学校長と戦うのも手かもしれないな。


「まあ、無理強いはしないよ。さて、余計な話が多くなったね。歳を取ると話が長くなるな。

さて、授業を始めようか!」


どこか警戒してしまうから緊張する学校長との会話も終わり、魔法に対する意識が変わるという授業が始まった。

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