世界でたった1人の鬼才の魔法剣士 〜不遇を添えて〜

第277話 まだまだ

「ふっ！」

俺はラウレーナが向かってくる前に横に刺さっている細い水を大鎌で斬る。こんな近くにあったら斬ってくださいって言ってるようなものだ。

「ん？！」

水圧があり、多少は丈夫だったが、俺の至極の斬れ味に抗える程ではなかった。だから細い水は斬ったはずだった。しかし、大鎌が通り過ぎたそこには変わらず細い水が存在している。

「っ！」

戸惑っている間に危険感知が反応する。さっきのようにこの水を使って勢いよくラウレーナが向かってきている。俺はそんなラウレーナに向かって大鎌を振る。

ガンッ！！

「「っ！？」」

ラウレーナの拳と俺の大鎌の峰が勢いよくぶつかる。轟音が響くと同時に、俺とラウレーナは共に驚きで目を見開いた。

「こんなに勢いをつけて殴ったのに1歩も引かないなんて、どんだけその大鎌は重いの？」

「いや、こっちこそ吹っ飛ばすつもりで大鎌を振ったんだぞ」

俺とラウレーナの攻撃の威力はほぼ互角だった。俺の大鎌は重さも乗っているはずなのにだ。つまり、スピードをつけたラウレーナの攻撃はそれほどに強いということだ。

「だが…！」

「うぐぐぐっ…！」

ラウレーナがこのまま水で自分を引っ張ったところで、スピードが付いていなければ俺の大鎌に押し負ける。

ラウレーナの大鎌を殴っている腕がどんどん曲がっていく。

「轟け！」

「っ！」

俺が詠唱を始めると、ラウレーナは俺から左の水を切る。すると、ラウレーナは残った水が刺さっている所を中心に半円を描くよう動いて俺の後ろに回り込む。

「サンダー！」

「うっ！」

気配感知でその動きを捉えている俺は振り向きながらまだ動いているラウレーナに大鎌を振り下ろす。ラウレーナのスピードは速いが、水の線での移動だから動きが読みやすい。

ラウレーナは俺の大鎌を片腕だけで止める。きっと水魔装に込める魔力量を増やしたのだろう。近くで見ると水魔装の色も濃くなっている。頑丈にされた水魔装を半分までしか斬れなかったのは残念だが、攻撃の重さでまたラウレーナは膝を付く。

「バーン！」

「あばばっ！！」

俺は自分も当たるのを覚悟で雷の広範囲魔法を使う。俺も少しダメージを受けるが、水魔装を纏っているラウレーナもダメージを受ける。しかし、すぐに細い水を消し、雷を水魔装に通さないように水魔装を少し変化させる。

「その細い水と雷を通さない魔装は同時にできないみたいだな！」

「あっ…」

俺はそう言うと、上から大鎌の峰をラウレーナの頭目掛けて振り下ろした。痺れがあるラウレーナはすぐには動けない。

「がっ……！」

水魔装は斬撃にはどの属性の魔装よりも圧倒的に強いが、打撃に関しては他の魔装の中でも平均的な強さしかない。だから少し水魔装を強くしたところで、この大鎌の重さから繰り出される打撃を食らったら無事では済まない。

大鎌に殴られたラウレーナはそのまま顔面を地面に埋める。

「……ぱっ！参った…」

顔が埋まった状態でうつ伏せに倒れたラウレーナは、顔を地面から抜くとそのまま降参を宣言した。

「とととっ…！」

「大丈夫か？」

立ち上がろうとしたラウレーナがふらついたので倒れないように支える。支えられたラウレーナはマジックポーチからポーションを取り出すと、それを飲んでダメージを回復させる。

「今度は俺が勝ったぞ」

「うぅぅぅ……」

俺が獣人国を出る前は完膚なきまでに負けたからそれの下克上ができた。

ただ、今回勝てたのは大鎌の性能のおかげというのがかなり強いので、少し微妙な感じだ。まあ、ラウレーナはそんなことを負けた言い訳にはしないだろうけど。

「まだ魔法は未完成だし、使いこなせてないな」

きっと、高速移動の魔法を実戦で使うのは初めてだったはずだ。だからところどころ改善するところは生まれたし、まだまだラウレーナ自身がもっとあの魔法を有効的に使えるようにしないといけない。

「そうだよ！それにまだ思い浮かんでてもできてない魔法とかもあるから！それか使えるようになったら今度は勝てるよ！」

「その時は俺も新しい魔法を生み出しておくよ」

俺とルシエルはラウレーナを迎えに来るために魔道国に来たわけではない。俺らも魔法を上手く使えるようにするために来たのだ。

「あ、ラウレーナとルシエルも戦っておく？」

「やりたいのじゃ！」

「うん！良いよ！」

俺の提案にルシエルは嬉しそうに刀を取り出す。

少し休憩してから次はルシエルとラウレーナが戦った。

2人の戦いは最初はスピード勝負のようになっていたが、ラウレーナの独特な動きに翻弄されたルシエルがだんだん追い詰められて負けた。

それからルシエルはまたラウレーナに挑んだ。次はラウレーナは新魔法を使わなかったが、ルシエルの攻撃でラウレーナの水魔装は突破できずにまた負けていた。