第276話 ラウレーナの新たな魔法
「流れ出ろ!」
ラウレーナが詠唱を始める。その詠唱を邪魔をせずに俺は何をするのか待つ。ただ、その間に闘装と氷魔装はしておく。
「ウォーターワイヤー」
「え?」
ラウレーナは俺の知らない魔法を使う。どのような魔法かさっぱり分からないが、ラウレーナの魔装の両肩と両方の足の付け根に拳程度の水の玉が付いた。
「行け!」
「うぉ!?」
その4つの水の玉から細い水が、俺に向かって勢いよく飛び出す。それ自体に攻撃力がないせいで危険感知が反応しないが、何とかそれを避ける。
「な、何だ?」
結局この魔法が何なのか、またラウレーナが何をしたいのかが分からない。
「行くよ!」
俺が混乱していると、ラウレーナはニッと笑ってそう言う。俺は警戒を強めるが、驚くことが起こった。
シュンっ!
「ぎょえ!?」
ラウレーナはその細い水が伸びている先へ高速で移動したのだ。その速度は光身体強化をしたルシエルをも越えた。
「ぐっ…!」
ラウレーナはそのスピードのまま横にいた俺を通り過ぎる途中で殴ってくる。それを大鎌でガードするが、勢いに押されて俺は吹っ飛ばされて転がる。
「まずっ!」
吹っ飛ばされている途中でその細い水が1本、俺の足首に巻き付いた。俺の体と大鎌が引き摺られながらラウレーナに引っ張られる。大鎌が重いせいか、さっきのラウレーナ程の速さでは引っ張られていない。だからラウレーナの元まで行くまでに魔法を使う余裕はありそうだ
「轟け!」
「ふっ!」
魔法の詠唱を始めた瞬間にラウレーナは俺を引っ張るのをやめる。そして、逆に自分から引っ張られて俺に向かってくる。まずい。俺は抵抗しているし、大鎌が重かったからラウレーナの元まで引っ張られるまでに魔法が間に合うと考えていた。
しかし、それよりも圧倒的に軽く抵抗しないラウレーナは魔法を使う前に俺の元まで来る。
「はあっ!」
「サンダー…!」
俺は詠唱を続けながらラウレーナが振り下ろしてきた拳を大鎌で防ぐ。そのまま俺を地面に押さえつけながら、倒れてた俺にラウレーナはマウントポジションを取る。
「ランス!」
しかし、俺はそれからさらに殴られることなく魔法を完成させる。それをラウレーナに放つ。
「はい、残念!」
しかし、俺の雷魔法はラウレーナが一瞬にして切り離した水魔装の1部だった水の塊に当たるだけでラウレーナには当たらなかった。
咄嗟に水魔装を切り落とし、それを盾のように扱ったのだ。
「ぐっ…」
何とか俺はそこから脱出しようと動くが、ラウレーナは全く動かない。よく見ると、肩から伸びる2本の水が地面に刺さっている。また、脚の付け根から伸びる細い水は俺の太ももに巻きついている。これは退かせないし、逃げられない。
「やあっ!」
「うっ…!」
ラウレーナは大鎌を片手で押えた上で、俺の腹を殴り付ける。闘装と氷魔装は一撃で砕かれ、ラウレーナの拳は腹に当たる。防具が防いでくれたが、それでも胃の中の物が上がってくる感覚があった。
「よっと」
1発殴っただけでラウレーナは肩の細い水を後ろに伸ばすと、マウントポジションの状態なのに俺から離れていく。離れながら太ももに巻き付く細い水も解除する。
「これは新しい魔法なのか?」
俺は腹を押えながら立ち上がりながらラウレーナへ質問をする。
「そうだよ。魔法は発想次第でいろんなことが出来るんだって。これは僕の敏捷を補ってくれる魔法だよ。本当はヌルヴィスの二対槍とかみたいな避けないと大ダメージを食らう魔法を咄嗟に避けるために作ったんだ。でもこういう使い方もできるんだよ」
「ついでの使い方が凶悪過ぎるだろ」
あの細い水を地面に刺したり、どこかに巻き付け、それで自分を引っ張ることで高速回避をするための魔法らしい。【敏捷】がない故にラウレーナは回避をほとんどしなかったが、それが変わったということか。
事前に動く方向に水を伸ばす必要はあるが、それでもあの高速移動や逆に俺を引っ張るのはかなり厄介だ。
「ヌルヴィスのその大鎌も重いんだけど、よく持てるね。攻撃を受けた時もそうだけど、引っ張った時に重くてびっくりしちゃった」
「ああ。これは俺以外にはクソ重いみたいだが、俺には軽く感じるんだ」
俺は大鎌の説明をしながら軽く大鎌を投げてキャッチする。
「それに斬れ味もびっくりしたよ。僕の水魔装が簡単に斬られたよ」
「海竜の鱗を使った最高の武器だからな」
俺は自慢するようにそう答える。この大鎌は俺にとって無くてはならないものだ。それが褒められると俺も嬉しくなる。
もし仮に、この大鎌が奪われようとしていたら、俺は人の目があろうと魔法を使ってでも絶対に取り戻すと思う。
「「さて…」」
俺とラウレーナは同じタイミングで再び構える。お互いに手札を明かした。この戦いの目的は達成できた。それなら後は決着を付けるだけだ。
サクッ
俺から少し離れた両横にラウレーナの細い水が刺さる。
「じゃあ、行くよ!」
「ああ!」
こうして、決着を付けるべく、第2ラウンドが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます