魔道国編

第271話 深緋の試し斬り

「はあっ!!」


地図などを準備してからドワーフ国から出た俺達は森へと入った。その森の中で出た魔物をルシエルが刀で両断する。



「……これじゃあ、深緋を試せないのじゃ」


「まあ、そうだろうな」


魔物で刀を試すという目的を達成できたのに、ルシエルはかなり不満そうにしている。


「この辺にいる魔物はランクが高くてもDランクだから試し斬りには向いてないだろ。最低でもCランクぐらいじゃないとな」


「うぅぅ……」


ルシエルがEランクの魔物を斬ったところで、刀の性能は全く試せない。ルシエルの力ならある程度の斬れ味があればそのくらいの魔物なら斬れてしまう。だから本当の意味で試し斬りできるのは、武器の性能に差が出るほどの強い敵と戦った時だ。


「強い魔物はどこにいるのじゃ?今すぐ狩りに行くのじゃよ」


「とりあえず、寄り道せずに真っ直ぐ行くぞー」


ルシエルの気持ちは痛いほど分かるが、その案には了承しない。そもそも、ドワーフ国の周りは弱い魔物しかいないのだ。ここから強い魔物を探しても見つかるには何日もかかる。真っ直ぐ魔道国に行くと、途中で強い魔物がいるようなところを通ることがある。だから魔物はそれまで我慢してもらいたい。


「もう我慢できないのじゃ…!」


「おーい。落ち着けよ」


ルシエルが俺の方を向いて刀を構える。刀を持ってから敵に飢え過ぎだが、その刀呪われてないよな?

まあ、冗談は置いておいて、これはルシエルなりの早く強い魔物と戦わせろというアピールなのだろうな。


「そのうち強い魔物とも出会うからそれまで我慢しろよ」


「何日後じゃ!?」


「うーーん……8、9日後くらいかな?」


魔道国までは大体走って12日弱くらいかかる。そして、強い魔物が多いとされる森を抜けると、後はすぐ魔道国だ。

また、普通は魔物を避けるためにその森を通らないルートを使うそうだ。その森を使うルートはやめておけと何回も言われた。まあ、その忠告は聞かないけど。


「主!全力で行くぞ!」


「いや!?待てって!」


ルシエルは光身体強化をすると、全力で走り出す。俺は身体強化と雷身体強化でそれを追う。


「あんまり飛ばして魔力切れになるなよ!」


「大丈夫じゃ!その辺の加減はちゃんとしておる!」


こうして、ダッシュをしながら森を進むことで、予定よりもかなり早く移動することができた。



「ここから強い魔物がいるのか!」


「そうだな」


そして、5日後には強い魔物が多いとされる森に辿り着くことができた。とはいえ、そこで魔物を探すということは特にせず、真っ直ぐ向かう。どうせその道中で魔物と会うからな。

そん考えていた時期が俺にもありました。



「出てこないのじゃ!!」


「本当だね」


しかし、その森を半分以上進んでも魔物が一体も出てこない。魔物を求めている時に限って魔物が現れない。


「お前じゃないんじゃ!」


「ギャンッ!」


ルシエルがDランクのビックウルフの群れを瞬殺する。


「はあ…魔物を探すか」


「そうするのじゃ!!」


ルシエルのフラストレーションが溜まり過ぎている。とてもじゃないが、このまま魔道国には行けない。魔道国では魔法職ということにするので、刀は使えないしな。ここで一旦リフレッシュさせないといけない。


(すまん、もう少し遅れる)


心の中で到着か遅れることをラウレーナに謝っておく。

というか、ルシエルの様子を見ているせいで、俺も大鎌を試したいはずなのに俺は冷静になってしまう。


「どこじゃ!どこにいるんじゃ!」


それから魔物を探すが、現れてもDランクばかりで、Cランクの魔物すら出なかった。見つからず、次の日になり、前情報が嘘かと疑った頃だった。


「ォォォォ…」


「いたのじゃ!!」


「ちょうどいいな」


地面が硬い岩肌のようなところになったところで、やっと目的の魔物を見つけた。見つけたのはアイアンゴーレムという、ゴーレムの順当な進化で金属でできているゴーレムだった。ランクはB-ランクだが、その防御は折り紙付きだ。


「行くのじゃ!」


アイアンゴーレムを見つけたルシエルが飛び出し、そのままアイアンゴーレムの脚に刀を振る。


ドンッ!


ルシエルが通り過ぎてからアイアンゴーレムは地面に倒れる。


「深緋は凄いのじゃ!」


片脚が綺麗にスパッと斬られたアイアンゴーレムは自分の脚が斬られたことに気付いていないのか、立とうとしているが、中々立ててない。

もちろん、紫ゴーレムよりは防御力は低いが、それでも全く苦労せずに斬れるとはな。


「あ…主も…た、試すか?」


「ぷっ…!」


目的が達成できて満足した瞬間に俺も大鎌を試せていないのを思い出したようだ。おずおずと振り返って聞いてくるルシエルが面白くて少し吹き出してしまった。


「俺は別にいいからそのゴーレムで存分に試してくれ」


「っ!分かったのじゃ!」


ルシエルは嬉しそうにアイアンゴーレムをぶつ切りにしていった。アイアンゴーレムは可哀想だが、出会った相手が悪かったとでも思ってくれ。


それと、俺も大鎌の性能は試したいが、ここまで来たら魔物ではなく、大鎌で1度も突破できなかった魔装を持つ奴で試させてもらおう。

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