第270話 約束と出発
「昨日の今日でもう出て行くのか」
「ああ。待ってる仲間も居るからな」
次の日の朝、俺は朝食の準備を終えた長にもう出て行くと伝えた。
ちなみに、子供達にも伝えたが、急に去ることに軽く文句を言われたくらいだった。前もって何回も武器が出来たら出て行くと言っておいてよかった。ちなみに、この1ヶ月と少しで目標としていた体術と魔力操作のスキルを新たに取得することは誰もできなかった。ただ、何人かは惜しいところまで入っているので、これからも努力を続けていくなら時間の問題かもしれない。
「まあ、また武器や防具が必要な時はまた来いよ。その時に私は生きてるか分からんけどな!」
「あと50年は元気で生きてそうだぞ」
長は既に中年ぐらいの歳だが、何やかんやで100歳ぐらいまでは生きていそうな気がする。普段の行動や言動がアグレッシブ過ぎるしな。
「あんたには世話になったよ」
「それはこっちのセリフだ」
1ヶ月以上ここに住ませてもらったし、ハゲデブのことでも世話になった。まあ、長も長でハゲデブをどうにかできてよかったのかもしれないけどな。
「じゃあ、またな」
「くだらないことでは死ぬなよ」
「こんな良い武器を貰って不甲斐ない死に方はしないぜ」
まだ強い魔物に適わなくて死ぬなら良い。だが、転んで死んだとか、雑魚に油断して死んだとかではこんな良い大鎌を作ってくれたヘパイトスに申し訳が立たない。
「ちょっと待て!」
「んあ?」
長との挨拶も終わったし、出て行こうとしたところで、1人の少年の話しかけられた。この少年は最初に俺と模擬戦をした氷魔法使いだ。
「凍てつけ!アイスボール!」
その少年は俺の前でいきなり魔法を使った。ただ、それは俺に魔法を当てるためということでは無いのはすぐに分かった。なぜなら、その氷魔法は魔力を抑えて小さくされていたからだ。
「どうだ!魔力操作を取得したぞ!」
「凄いな」
普通に俺は感心していた。正直、1ヶ月程度で魔力操作を取得できるとは思っていなかった。この子が人一倍努力をした成果だろうな。
「約束通り、あの身体に纏うのを教えろよ」
「あーー……」
俺は地味な特訓ばかりでやる気の出ない少年らに取得出来たら教えると闘装を見せた。それぞれ体術か魔力操作を取得できたら闘装かそれの魔法版の魔装を教えると約束していた。
正直、誰も出来るわけが無いと思ってた故の約束だ。物理職と言っている俺が魔装はどうやって教えるのかというのもあるし、そもそも純粋な魔法職に魔装は必要無いしな…。
「いや、今からここを出ていくところだけど」
「俺は約束通り、師匠がここにいる間に取得できたぞ!」
ギリギリではあるが、少年は俺がここにいる間に魔力操作を取得した。
「分かった。午前中の間だけ、お前に付きっきりで教えてやる。その後どうするかはお前自身だ」
目標に向かって頑張り、それを成し遂げたのならそれ相応の報酬はないとダメだな。それに約束を破るのは良くない。
「ルシエル、少し出るのが遅れる」
「……わかったのじゃ」
ルシエルは刀を抱えたまま少し不服そうにする。早く刀を試したくてしょうがないようだ。普段は腰に差すはずの刀を抱えてるしな。
「俺達の部屋に行くぞ」
「おう!」
俺はそれから部屋でその少年に魔装をできる限り教えた。教える前にはちゃんと魔装はあまり有用では無いのも説明した。それでも取得したいどのことだった。魔力を使わない中で教えるのは難しかったが、それでも全力は尽くした。
「うぅぅ……」
「さて、行くか」
「やっとじゃ!」
少年はもうすぐ午後になるというところで魔力切れになった。キリがいいため、そこで教えは終わりにした。
「もし!俺が冒険者になって、その時に会ったらまた色々と教えてほしい!」
魔力が0になって苦しいはずなのに、少年は部屋から出ていこうとする俺にそう叫ぶ。少年はもうすぐ14歳になると言っていたから、その約束が果たされるのは1年後以上は絶対に経過してからになるわけだな。
「お前が今みたいな努力を続け、今よりも強くなっていたらな。その時は俺にできる全力で魔法を教えてやるよ」
俺はそう言い、部屋から出た。何も考えずに約束をすると面倒事になるとは今日の件で学んだが、まるで冒険者に憧れていた時の俺のように頑張っている少年を見たらその約束は断れない。また、今のような努力を続けられたなら、もっとちゃんと教えてあげたいとも思った。
「じゃあ、行くな」
「またいつでも来いよ。お前らなら歓迎するぞ。その時にはちゃんと魔物の肉を持ってこいよ」
「はいよ」
最後にまた長に出て行くと報告をして、俺達は重い扉を開いて外に出る。
「さて、行くか!」
「じゃな!」
外に出た俺達は路地裏を走って、次の目的である魔道国へと向かった。
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