第268話 最高の魔法鍛冶師
「ちょっと待ってろ」
混乱している状況の中、ヘパイトスはそう言ってまた奥へと向かう。すぐに戻って来たが、その手にはマジックポーチがある。
「ちょっとこれを持ってみろ」
「あ、ああ」
ヘパイトスはマジックポーチから慎重に何らかの鉱石を取り出すと、床に置いた。
それを持ち上げろと言われたので、大鎌を置いてからそれを両手で持ち上げようとする。
「え?重っ…でもっ!何とか…!」
その鉱石は見た目の大きさで予想していたよりも遥かに重かった。でも、何とかギリギリ持ち上げることができた。
「下ろしていいぞ」
「よっと…!」
持ち上げたそれを俺はゆっくり床に置き直す。
「大体大鎌の重さがそれと同じだ」
「はあ!?嘘だろ!」
俺は改めて大鎌を持つが、絶対同じ重さには感じない。試しに軽く上に投げるが、そんな重さがあるような動きはしない。そんなに重かったら投げた瞬間に勢いよく床に落ちようとするはずだ。
「これがこの大鎌の力なのか?」
この大鎌には使い手によって重さの変動とかがあるのか?投げても俺が感じてる重さになるのは不思議だな。でも、前にヘパイトスは俺の魔法で変異した海竜の鱗を使うと、俺しか使えない武器になるかもしれないと言っていたし。
「すまんが、それに関しては全く分からない」
「え?」
「それが大鎌による力なのか、お前のスキルに関係しているか、またはそのどちらもが上手く合わった効果なのか全く分からん。ただ、何かしらの力でほぼお前しか使えない大鎌というのは間違いない」
この効果はヘパイトスですら原因が全く分からないそうだ。しかし、これは俺に対して悪い効果では決してない。むしろ、俺は軽く感じるのに、他では重く感じるのはかなり強いぞ。
「長期間の作業でテンションがおかしくなって、お前でも使えないと弱音を吐くほど重く硬く、斬れ味の良い大鎌を作ろうとしただけなのに、まさかこんなものができるとはな」
「おい。ちょっと待てや」
そういえば、ヘパイトスすら知らない軽く感じる効果が無かったら、俺はこの大鎌は持ち上げるのすら難しく、扱えなかった。
「いや、出来上がった時にしまったとは思ったが、お前が俺に扱えない大鎌は無いとかほざいていたから試しに渡してみたのだ。実際それは間違っていなかったな」
「どれも見切り発車過ぎるだろ…」
ヘパイトスのそれらの行動のほとんどが思い付きで行ったようなものだ。しかし、結果としてはこれ以上ない最高な大鎌が出来上がったので、文句は言えない。
「あ、それでも金はいくらだ?」
こんな良い武器を作ってくれたんだからそれ相応の金は払わないといけない。
「防具は2人合わせて黒貨8枚、刀は黒貨12枚だ。合わせて大黒貨2枚払ってくれればいい」
「高いけど、まあ…」
値段はそこら辺の武器屋で見たのと桁が1つか2つ違うが、この出来なら仕方がない。……ん?あれ?
「大鎌の金額はいくらだ?」
今言われた金額の2つに大鎌の値段は入っていなかった。
「はあ…その大鎌は完成した瞬間に俺様の人生で最高傑作だと確信したが、それと同時に誰も使えない無意味な武器にもなったと思った。お前はそんな武器を手に取ってくれたんだ。俺様の最高傑作を使いこなせる唯一無二の者に金が取れるか。
それに、そもそも俺様ですら効果がよく分かってない武器に値段を付けられるかよ」
「はあ……じゃあ、これは有難く貰ってくぞ」
ヘパイトスがこう言ってるなら、大鎌だけは金を払わず貰うことにする。まあ、これで他の武器でも金は取らんと言ったらさすがに反抗していたけどな。防具や刀は俺とルシエル専用と言いつつ、使える者は多くいるだろうしな。
出来れば、大鎌に関しても金を払いたいのだが、そこはヘパイトスにもプライドがあるんだから、それを俺のエゴで傷付けるような真似はできる限りしたくない。
「ほいよ」
「確かに受け取った」
俺はヘパイトスに大黒貨を2枚渡す。
ヘパイトスもそれを受け取るが、受け取った瞬間に大の字に横になった。
「ちょっ!大丈夫か!?」
「大丈夫だ。眠気がピークになっただけだ」
それは大丈夫と言っていいのか疑問だが、体調不良とかではなくて眠気でまだ良かった。
「俺は反動で何日寝るか分からん。お前達は俺が起きるのを待たずに旅立っていいぞ」
「…ああ、分かった。最高の武器をありがとうな」
少し寂しく思ったが、ラウレーナも待っているからできるだけ早く出ていかないといけない。でも、武器の感想を伝えられないのはかなり悔やまれる。
「防具や刀にメンテナンスが必要になったらいつでも来いよ。まだあのゴーレムの素材は余ってるからよ」
「ああっ!その時はまたよろしくな」
別にこれが一生の別れでは無い。次に来た時には武器の感想を嫌になるくらい聞かせてやろう。
俺とルシエルは工房を出ていこうと扉に向かう。扉と手が触れたところで俺は振り返った。
「ちなみに、大鎌のメンテナンスの時も来ていいか?」
「はんっ!その大鎌にメンテナンスの必要があるはずないだろ!……だが、もしその大鎌でもお前の実力に合わなくなったら、その時は海竜の鱗以上の素材を持ってやってこい。その時は俺様の中の最高傑作を塗り替えてやるぜ!」
この俺の実力でこの大鎌が不相応と思うことがあるとは思えない。だが、もしそうなったとしたら迷わずにここに来よう。
「良い武器と防具!ありがとうな!」
「あ、ありがとうなのじゃ!」
「依頼なんだから当たり前だ!ちゃんと俺の傑作達を使いこなせよ!」
最後にそんな会話をして俺達はこの工房を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます