第264話 雑魚

「ハゲデブが来たぞ」


俺を扉の前まで呼んだ長は開口一番そう言ってニヤリと笑った。


「私はここで見ているから好きにやりな」


「分かった」


俺は長にそう答えると、何度も叩かれ、怒号が飛んできている扉の前に経つ。


「ルシエルも準備はいいか?」


「……大丈夫じゃ」


俺のすぐ後ろのルシエルはこれから起こすことに緊張している様子だったが、気丈に振舞っていた。これなら取り乱したりはしないな。


「ふっ!」


ルシエルの様子を確かめて安心した俺は身体強化を軽くかけ、扉を殴る。ドンッ!と凄い音がして、扉は軽く凹んでしまう。しかし、一瞬で外は静かになった。


「よいしょっと」


静かになったので、俺は片方の扉を開いて外に出る。


「ずっとうるせぇんだよ。何の用だ?」


外には軽く30人くらいのゴロツキどもが居た。その一番奥にハゲデブもしっかりいる。ちなみに、扉の前にいたであろう奴らは急な轟音にびっくりしたのか、一歩下がって腰を抜かしている。


「やっと出てきたか。俺の要求はその奴隷を渡すことだ!」


「ん?あー、誰かと思ったら俺よりも金がなくて奴隷を競り負けたやつか。金が無いからって脅しに来たって訳ね」


俺の返答にハゲデブは頬をぴくぴくと動かす。


「素直に渡せば命までは取らんぞ」


「何で俺がお前なんかに俺の物を恵まないといけないんだよ?そもそもお前さ、その体型で戦闘奴隷なんて必要か?戦闘奴隷を買うよりも先に痩せれば?」


「そいつを殺せ!!!」


ついに堪忍袋の緒が切れたのか、ハゲデブはゴロツキ共にそう命令する。その命令で尻もちをついていた先頭の奴らが武器を手に取って立ち上がる。


「「「はあっ!」」」


そして、いっせいに俺へと武器を振ってくる。


「はあ……死ね」


俺が大鎌を振ると、目の前にいた3人の首と胴体が離れ離れになる。


「なっ!」


「あのさ。ここに来る前に俺の素性とか調べなかったわけ?」


きっと調べもしないでここに来たのだろうな。調べていたら、Bランクの冒険者にこんなゴロツキなんかで向かってこないはずだ。


「後はルシエルに任せていいか?」


「う、うん」


俺はルシエルにそう言い、前へと歩く。すると、目の前のゴロツキ共は俺に道を作るように左右に別れる。


「お、お前ら!何をしている!早く殺せ!」


「や…やあ!!」


命令を聞いて一人の男が横から俺に斬りかかる。俺は無言でその男の首も斬る。


「「ひっ!!」」


男の頭が転がった先に居た場所の男達が悲鳴を上げる。俺はそれを無視して歩く。


「ルシエル。どうせ全員殺すんだからもう始めていいぞ」


「「「っ!?」」」


ゴロツキ共の間を完全に抜けてから俺は振り返らずにそういう。それだけで後ろからの緊張と恐怖が伝わってくる。


「うわぁっ!?」


そして、ルシエルの居た場所から男の悲鳴が上がる。ちゃんとできたルシエルに安心した俺はハゲデブへと向かう。


「お前はそれなりの冒険者だな?」


「そうだな」


ハゲデブの真横にいた男に話しかけられる。こいつはハゲデブの護衛みたいなものか?


「雑魚相手に調子に乗るなよ!」


その男は俺に向かってくる。その動きは後ろのゴロツキ共とは違い、少し速い。


キンッ!


「俺は冒険者時代はCランクだったんだぜ?」


「へぇ……」


俺は男の自慢話を一方的に聞きながら男の剣と打ち合う。


「その頃からお前みたいな生意気な野郎の成果を殺して奪ってきたんだぜ!」


「だろうな」


俺は男にそう答えながら、身体強化を強めて男の胴体に大鎌を振る。


「えっ……」


男の腹はぱっくり斬れ、そこから大量の血が吹き出す。


「Cランクの冒険者にしては弱過ぎだ」


ゆっくり倒れるその男を横目に俺はそう呟く。真面目に冒険者をしているCランクの冒険者と比べてその男は弱過ぎた。もちろん、冒険者を止めて動きが鈍っていたのもあるだろうが、そもそも実力でCランクになれる強さでは無い。


「……終わったのじゃ」


「お疲れ様」


ちょうどそのタイミングでルシエルに声をかけられた。振り返ると、ゴロツキ達は全員血まみれで倒れていた。周りが血まみれの中でルシエルは返り血1つ浴びていない。その異様な光景はルシエルのその美しさも相まって1枚の絵のように見える。


「それで、お前はどこに逃げようとしてんだ?」


「ぐえっ!」


こっそりハゲデブが逃げようとしていたが、普通に鈍臭いから丸分かりだ。


「いくら欲しい!俺を見逃してくれれば好きなだけ金をくれてやるぞ!」


「いや、お前は俺よりも金を持ってないだろ」


「な、なら!女はどうだ!?屋敷には色んな女が居るぞ!好きなだけ使って…」


「興味無い」


「ぐあぁぁぁ!!?」


逃げられないように脚を踏んで潰すと、醜い声を上げる。


「あっ、そうだ」


「があぁぁ!!な、何をするんだ!?」


ある事を思い付いた俺は潰れた脚を大鎌に引っ掛けて扉の方に歩く。


「こいつを痛め付けるのやる?」


「お前さんは良い性格をしているな。もちろん、やらせてもらおうぜ」


扉の中で様子を見ていた長に話しかけると、ニヤッと笑いながらやってくる。


「何か物は必要か?」


「ナイフは持っているから大丈夫だ」


長はそう答えると、俺の横までやってくる。


「この後の処理は私に任せてくれ。ちゃんと証拠は集まっているから、神官に言えば上手くやってくれる。お前さん達に迷惑はかけないよ」


「そうか。ありがとな」


「ふっ。礼を言うのはこっちだよ」


俺は長と交代すると、扉の方に向かっていく。


「ルシエル。帰るぞ」


「うん……」


そう言っても動かないルシエルに無言で頭を撫でる。そして、軽く背中をトンっと押して2人で歩いて扉の中へと入って行った。

ちょうど扉に入ったタイミングで後ろから大きな悲鳴が聞こえたが、無視して部屋へと向かった。

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