第263話 殺る覚悟

ドンドン!!


『おい!開けろや!ここにルシファっていう奴隷とガキ共がいるのは知ってんだぞ!』


「おー、うるさいな」


「そうだろ?」


俺とルシエルは長と一緒に金属の扉の前で、外で騒いでいるゴロツキ共の声を聞いていた。


「まだハゲデブの声が聞こえない。それが聞こえたら外に出て全員片付けてくれ」


「ああ」


まだ外にはゴロツキしかいなく、メインのハゲデブが到着していないそうだ。ハゲデブの存在が確認され次第、全て片付けていいそうだ。

しかし、それなりの人数が既に集まっているのは声の量でわかる。それなのに、長は俺が外の奴らに負けることは全く考えていないように見える。その様子が気になり、何でそこまで俺の強さを信じているのかを聞いてみる。


「そんなのあいつが一緒に素材を取りに行ってまで武器を作るからだ。あいつは自分の鍛冶の腕には絶対的自信を持っている。オーダーメイドはその人自身と実力を認めない限り、どんな魔物の素材を持ってこようが作らないからな。

そもそも、あいつがその辺のゴロツキが何人集まってもお前さんには勝てないと豪語してたしな」


「なるほどな」


長の言うあいつとは、ヘパイトスのことだ。ヘパイトスが俺の事を長に良いように言ってくれたから俺はここまで信頼されているようだ。

その信頼を裏切らないためにも、もし俺でも勝てない相手が居た時のことは一応考えている。でもそんな者が居る可能性はかなり低いと見ている。なぜなら、そんなものが居たらこんなにゴロツキを引き連れる必要が無いからな。


「ハゲデブが来たり、扉が破壊されそうになったらまた呼ぶな」


「ああ」


俺は扉の前にいる長とは別れ、自分達の部屋へと向かった。



「さて、ルシエルに質問がある」


俺は部屋でルシエルと2人っきりになったタイミングでそう切り出す。そして、今後一緒に行動する上で重要なことをルシエルに聞く。


「ルシエルは人を殺したことはあるか?」


「っ!!」


俺の質問にルシエルは目を大きく広げる。そして、少し経ってから、首をゆっくり横に振る。


「人を殺せるか?」


「……分からないのじゃ」


ルシエルは俯いてそう答える。


「ちょうどいい機会だ。外に出てゴロツキ共を相手する時に最低でも1人は殺せ」


「っ!!」


俺のその言葉にルシエルは顔を上げて俺を見つめる。今の発言が冗談でもなんでもないと示すために、俺は真顔でルシエルを見つめ返す。


「…できたらやるのじゃ」


「できたらじゃなくてやれ」


「………」


人を殺せるか、殺したことがあるか。それは今後重要になる。冒険者をしていると…いや、していなくても人から襲われる機会はある。特に特殊な状況のルシエルはその機会が訪れる可能性は誰よりも高い。

その時に人を殺せないと、殺される可能性が高い。俺もそうだが、ルシエルも殺そうとしてきた者を殺さないように手加減しても絶対に勝てるほど強くない。だから自分の命を守るために人を殺せるようにならないといけない。冒険者でもこれが出来ずに死ぬ者がかなり多いそうだ。


俺は幼い時から両親による刷り込みにより、人を殺すのにはあまり躊躇いはなかった。自分が殺されるくらいなら相手を殺すという考えを子供の時から持っていた。また、最初に殺した者が、成果を奪う目的で俺を殺すと話していたのを直で聞いたのも関係あるかもしれない。

ラウレーナにもそれとなく聞いたが、俺と似たような刷り込みがあり、ギルドの依頼で盗賊を殺したことがあるそうだ。まあ、ラウレーナは刷り込み以外にも、幼い時に理不尽な物で親が殺されたのも関係してそうだが。


しかし、姫として育てられたルシエルにそんな教育がされたとは思えない。今からそのような刷り込みはできないが、少し意識を変えるくらいならできる。



「…どうしても?」


「どうしてもだ。それに、今ここに来る者は俺を殺してお前を奪う目的だ。そのついでに、ここの子供達を奴隷にするつもりだ。そんな奴らを殺すのに躊躇う必要がどこにある?」


ここに来ている者は全員俺を殺すために集められた悪党共だ。俺を殺す気で来ているのだから、逆に殺されても文句ないはずだ。


「俺が殺されて、ルシエルがあのハゲデブの奴隷にされたらどうなるか1から説明が必要か?」


「いや…それくらいは分かるのじゃよ」


ハゲデブの奴隷になった時にどうなるかぐらいはルシエルでも想像できるようで、身体を一瞬震わせる。


「酷なことを言っている自覚はある。だが、それでもやらないといけない事だ」


「…分かった。ちゃんと殺るのじゃ」


ルシエルが意志を固めた。しかし、まだ不安があるようで時々刀にチラッと目を向ける。


「近くで殺るのが無理なら魔法でもいいからな」


「余は近接戦闘が主じゃ。だから今後のためにも刀でも殺ることにするじゃ」


「そうか」


そんな会話をした2日後、長からハゲデブの声が聞こえたと言って扉の前に呼ばれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る