第261話 武器の要望
「とはいえ、あの愚鈍がここを見つけるのにはまだまだ時間がかかるだろうから、その間に目的の武器をそこの奴に作ってもらえよ」
「え?待つの?」
てっきり、明日から出向いて駆逐しろとか言われるかと思っていたし、俺はそうするつもりだった。
「あんたがくれた食料のおかげで貯蓄には余裕があるんだよ。だから子供達は数日外に出なくても問題ない。だったらここに集まったところを一気に叩くのが確実だ。ちゃんとここを突き止められるように私が餌も巻いておくしな」
「まあ、確かに…?」
言われてみると、探して見つけ次第やるよりも、集まったところをやる方が確実だ。見つけ次第だとそのうち警戒される可能性もあるからな。
「というわけだから、私はもう行くぞ。あ、ちゃんと明日からは子供達に戦い方を教えてやってくれよ。かなり楽しみにしてたしな。
あ、そこの腹が出てるやつもちゃんとした武器を作ってやんなよ」
「おい、ババア。誰にものを言っている。俺のオーダーメイドでちゃんとしていない武器になるはずがないだろーが!」
荒い口調ながらも、心優しき?長は工房から出ていった。しかし、長とヘパイトスはお互いに悪口を言い合っていたが、険悪な雰囲気は全くなかった。かなり昔からの付き合いがあるのかもしれない。
「たくっ……。さて、お前らの武器について要望を聞いておくぞ。今の武器と比較してでも何かあったら言ってくれ」
「それなら、もっとここの刃を鋭く薄くして、重さの重心をもっと持ち手に近づけて、持ち手の長さを……」
ルシエルが刀を抜いて見せながら、かなり細かくヘパイトスに要望を伝えている。それをヘパイトスは文句の1つも言わず、時には聞き返しながら真剣にメモを取っている。
鍛冶職人としてのヘパイトスの姿の一部が垣間見えている。
「とりあえずこんなものか。とりあえず要望通りの形のなまくらを作るから、また意見をくれ」
「うん」
ぼーっと見ていると、2人の話し合いが終わったらしい。でも、それで武器の構想が決まった訳ではなく、試作を作ってそれでまた感想を聞くらしい。
「次はお前だ。要望を何でも言え」
「とりあえず斬れ味が良くて頑丈くらいしか要望は無いかな?」
「はあっ!?」
2人の様子をぼーっと見ながら、考えていたが、斬れ味と頑丈以外に要望は無い。さっきのルシエルとの差はあるが、ある意味これは仕方ないのだ。
俺は無意識で呼吸や瞬きをするのと同じ感覚で大鎌を扱える。だから性能に関しての善し悪しはあれど、形に関してはこだわりがない。例え持ち手がグネグネに曲がっていたとしても、俺はそれすらも利用して使いこなせる自信がある。多分、これは鬼才のスキルである大鎌術だからだ。考えてみると、大刀ならそれなりの要望は出せるな。
「よし。わかった。お前の大鎌に関しては性能だけにとことん拘って、素材をふんだんに使って作ってやる。出来てから重いから持てませんなんて言うなよ」
「この俺が大鎌を持てないなんてことはありえないから性能だけをとことん拘って作ってくれ」
もし、限られた人にしか抜けない伝説の大鎌があるとしたら、他の誰に抜けなくても俺なら抜けるという絶対的自信がある。また、定められた血統にしか扱えない大鎌があるとしても、血統関係なく俺なら扱えるという確信がある。それほど俺は大鎌に関しては問題ない。
「とはいえ、作るのはルシエル、ヌルヴィスの順番になるが、問題ないか?」
「全く問題ないが、何でその順番なんだ?」
別に順番に関しては全く気にしていない。だが、ヘパイトスがその順番にした理由は気になる。模造刀を作る必要ない俺からの方が早そうなのに。
「単純にあの変異ゴーレムと変異海竜鱗なら圧倒的に前者の方が作るのが簡単だからだ。もしかすると、ヌルヴィスの武器を作った後に俺が次の武器を作れる体力が残っていないかもしれない」
「なるほどな」
それほど苦労して俺の武器を作ってくれることを嬉しく思う。だが、感謝は武器が出来てから言う。ヘパイトスも武器が完成してから言えと言いそうだしな。
「あ、変異ゴーレムと鱗を2つとも使うのは無理なのか?」
あの巨体のゴーレムの素材ならルシエルの武器に使っても余裕で余る。それを俺の武器に使えるなら使って欲しい。
「それは無理だ。同じ武器に使うには似た種類の魔物か、最低でも同じ場所で狩れた魔物の素材じゃないと上手く武器が纏まらん」
「それなら無理だや」
海竜とゴーレム、海と洞窟、魔物の種類も住む場所も違い過ぎる。これでは同じ武器に混ぜるのは不可能だな。
「今日は俺ももう休むし、お前らももう休め。要望の刀のなまくらが出来たらまた呼ぶ」
「おう、おやすみ」
俺とルシエルも話を終え、ヘパイトスの工房から出た。
「さて、俺らも部屋に戻ってさっさと寝るか」
「うん」
まだ夕方ぐらいだが、俺とルシエルも洞窟での疲れが溜まっている。だから何も無い部屋に戻ってテントをすぐ準備すると、今日はかなり早めに眠った。
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