第260話 帰宅

「外だ……!!」


面倒事が待っているのは承知だが、久しぶりな外で感じる陽の光に感動を覚えてしまう。約10日間洞窟に籠っていたらこうなるのも仕方ないと思う。


「やっと、外…」


その感じたのはルシエルも同じようで、ルシエルも空を見上げて立ち止まる。


「そんなところ居たら他の人にも迷惑だ。早く行くぞ」


「ああ」

「うん」


ヘパイトスの言葉に正気を取り戻した俺達は当たり前のように先に進んでいたヘパイトスの元へ小走りで向かう。

その時にルシエルに競り負けた奴の仲間が居ないか確認するために周りをチラッと見る。しかし、俺達に向いているどの視線も優しい目だったり、遠い目をしているだけだった。

もしかすると、ここに来る者達はこの陽の光の感動を味わったことがある同士なのかもしれない。



「街には特に問題は無いな」


「そうか」


洞窟を出た俺達はそのまま山を降りて街に帰ってきた訳だが、ヘパイトス曰く街の様子はいつもと変化は無いらしい。俺はいつもが分かるほど街に出向いてないので分からないが。


「見つからないよう入り組んだ場所を選んで進むから、少し遠回りして帰ることにするぞ」


「それがいいかもな」


少し遠回りになろうと、見つからないのが重要だ。俺達はヘパイトスの案内で裏路地を進む。


「ほ、細いな…ヘパイトスは大丈夫か?」


「だ、だだ大丈夫だ…」


その際、身体を横に向けながらではないと通れないような細い道を通る時もあった。その時にヘパイトスが何度か挟まって動けなくなりそうになって焦った。俺は大鎌が引っかかりそうになって焦る場面があった。

まあ、そんな道もルシエルだけは余裕そうに通っていたけど。



「無事到着だ……」


「お、お疲れ」


細道以外にもしゃがまないと通れなかったりする道もあったため、ヘパイトスはかなり大変そうだった。だが、その苦労のおかげで誰にも会わずに帰ることができた。



コンコンコッココン


「いずれ征する」


「っ!は、入れ!」


ヘパイトスが扉に独特なノックをしてから合言葉を言うと、中から緊張した声が聞こえる。その声が聞こえた後にゆっくりと扉が開いていく。


「よ、良かった!ヘパイトスさんだ!」


「予定よりも長旅になったが、帰ってきたぞ」


扉の中の者はノックをした者がヘパイトスと分かると、かなりホッとしたような顔をしてヘパイトス及び、俺達を招き入れる。


「最近裏路地が…」


「わかっている。その件で話をしたいからバミロンを俺様の工房に呼んでくれ」


「わ、分かった!」


裏路地のことをヘパイトスに話そうとした少年を遮り、ここの長であるバミロンを呼ぶよう頼んだ。


「行くぞ」


長が来る前に俺達は先に工房へと移動した。その際もヘパイトスはかなりの子供に囲まれていた。仏頂面だが、どれだけここの子供達に慕われているかが分かる。

ちなみに、俺の元にも戦い方を教えている達が数人やってきてくれた。



「馬鹿共、帰ってきたそうだね」


俺達が工房に付いて5分も経たず、長も1人で工房にやってきた。


「すぐに私を呼んだってことは、裏路地の現状とその理由について分かってるってことだな?」


「ああ」


長は睨みながら俺達に質問するが、ヘパイトスは平然と頷く。


「この件は俺のせいだ。だから俺が説明する」


「言いな」


俺のせいと言ったことで、長は更に鋭い目で俺を睨む。しかし、だからと言ってすぐに非難するなんてことはなく、腕を組みながら俺が話すのを待っている。


俺はルシエルを買った時から説明する。とはいえ、ルシエルを競り勝って恨まれたぐらいしか言えることは無いけど。



「……そうかい。あんたも面倒なのに目を付けられたな」


「……え?」


話を聞き終えた長は睨むのを止めてそう言う。最低でもここから出てけとは言われると思っていたから、肩透かしを食らった。


「なんだい?怒られるとでも思ったのか?別に悪意を持ってやった訳でも、ここの子に何かした訳じゃないから怒るはずがないだろ。

私はここの子供達を裏切った時に許さないって言っただけだ。別にお前はここの子供達を全く裏切ってはいないだろ?」


「あ、ああ…」


俺に悪意が無かったとはいえ、結果的にここの子供達を少なからず危険に晒している。そうだとしても悪い事をしたり、悪意をもってしていなければ問題ないらしい。

ここで親の居ない子供達の親代わりになって育ててるだけあり、長は高い人間性を持っているな。



「ところで、あんたに競り負けた奴は脳天がハゲてるデブだろ?」


「よく分かったな」


「あいつは若い女が大好きでこの街でも有名だ。奴隷だけじゃ飽き足らず、時々この裏路地でもゴロツキ共と好みの女を見つけて奴隷にするために練り歩いている。ここの子供も何人か奴の奴隷にされた……」


そう語る長は歯を食いしばり、とても悔しそうな表情だった。

しかし、あいつはどうしようもない奴だな。ここの子供も被害にあってるのか。あいつ自体は弱くても、連れているゴロツキがそこそこ強いから何も出来ないのだろうな。


「あんたに喧嘩を売るってことは、もちろんぶちのめしてくれるんだろ?どうせあいつもゴロツキ共と一緒に来るんだから、最低でも不能にした上で、2度と裏路地に入れないようにトラウマを植え付けてくれるんだよな?」


「ま、任せろ」


ここの長に許可を貰ったことだし、喧嘩を売ってくるなら買うだけだ。それに向こうから目立たない裏路地に来てくれるんなら好都合だ。この裏路地で片付けてやる。

ただ、長が言っていたことをやるよりも、ただ殺す方が簡単だろうなとは思ってしまった。でも長は生き地獄を望んでいるみたいだし、できるだけ要望に応えられるように頑張ろうか。

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