第259話 全く別の問題

「よっ!」


「壁が多いのも大変だな」


俺がルシエルの土魔法の壁を壊したのを見てヘパイトスがそうぼやく。この壁は行きの時に、追加で魔物が来ないよう後ろに定期的に作った物だ。

ヘパイトスの文句を聞き、作った本人であるルシエルが少しムッと顔色を変える。



「いや、そうでもないぞ」


ヘパイトスの言うように壁を一々壊すのは確かに面倒だ。でも、そのマイナス要素だけでもない。


「この壁があるおかげで魔物が一気に現れない」


「ああ、なるほどな」


今通っている道は1本道ではなく、所々他の道へと続いている。そのため、そこからも魔物はそこそこやってくる。しかし、壁があると、それより先からは魔物が来ないから、そこから新たにやってきた魔物を一気に相手にする必要が無くなっている。

魔物が一気にやってくると、それらを殺っている間にまた音や血の匂いで追加で魔物がやってくるという悪循環になるからな。


「さて、どんどん行くぞ」


あとは帰るだけなので、俺達は地図を見てどんどん進んでいく。行きよりも進みは早い。その理由で最も大きいのは魔物が少ないからだろう。元々ここ近辺に居た魔物は行きの時で殺っていたから、帰りは追加でやってきた魔物だけだから数は半分以下だ。

だから魔物の対処はレベル上げも兼ねてルシエルにほとんど任せている。とはいえ、行きの魔物と紫ゴーレムを合わせてレベルは4も上がっているらしいので、帰りでCランクの魔物を殺ってもこれ以上は上がらないと思うけど。




「あ、人だ」


穴を登ってから4日後の今日、ついに他の人を見かけた。まだランタンは無いが、ここからは人が多くなってきそうだ。進み的に明日には帰ることができそうだな。

人とすれ違う時はお互いに警戒していたが、特に何も無かった。その日は特に人が多くなるであろうランタンが見える前に休んだ。



「お、ランタンか」


次の日、歩いて1時間弱でランタンの光が見えてきた。もうここまで来ると、帰ってきたという感じがするな。

ちなみに、食料に関しては俺のマジックポーチの中にも大量に入っているから余裕だった。

それからは人とすれ違う頻度がそれまでよりも多くなった。とはいえ、こんな人通りの多いところで襲う者は少ないので、そこまで警戒しなくていい。


警戒が薄いからか、通り過ぎる時に話をしている者達も多い。あるグループとすれ違った時に話し声が聞こえてきた。



「それにしても、裏路地にまで探し始めるんだから凄い執着だよな」


「俺達には縁の無い話だが、身の丈に合わないのは持ちたくないな」


「…!」


聞こえた内容が少し気になり、俺達は立ち止まった。


「なあ、その話少し詳しく聞いていいか?」


「んあ?」


俺は背中にルシエルを隠しながら、通り過ぎた者達にヘパイトスよりも先に話しかけた。


「俺達は1週間ぐらいここに籠っていたんだ。それなのにろくな鉱石が採掘できなくてさ、憂さ晴らしに裏路地にでも行こうかなって話してたから今の話が気になってな」


「それなら今はやめておいた方がいいぜ。何でも、奴隷のオークションに負けた奴がその奴隷を手に入れるために血眼になって買ったやつを探してるんだってさ。それで、昨日くらいから裏路地に狙いを付けて徹底的に探させているんだぜ」


そこまで聞くと、彼らに背を向けて走り出しそうになったヘパイトスの肩を掴んで動きを止める。ここで急に走り出すのはあまりにも不自然だ。


ちなみに、裏路地に憂さ晴らしに行く冒険者はそこそこいる。その理由は何をやってもほとんど人目につかないからだ。

もちろん、自警団などがそんなことを黙認するはずもなく、時々検挙をしている。でも裏路地よりも優先することが多く、ほとんど行われていない場合が現状らしい。


「そうか。いい情報をありがとうな。それならやめておく方がいいか。良い話を聞けたぜ。これで良い酒でも飲んでくれ」


「お、分かってるな!有難く受け取るぜ」


銀貨1枚を彼らに投げ、それで彼らとは別れた。ヘパイトスも今すぐ走り出さない程度には落ち着いたようなので肩から手を離す。

そして、ルシエルにフードを深く被させる。



「早く行かねぇと!」


「落ち着けって。裏路地と当たりをつけているくらいだから、この洞窟に入っていることも特定してるかもしれない。それなのに急に走ったりすれば目立つだけだ。

噂が広まっているなら、それを聞いて慌てながらここから出てきた者が居ないか見てるかもしれない」


まだ冷静では無いヘパイトスをそう言って説得する。


「昨日に裏路地の捜索を始めたくらいなら、地下を見つけることもできないだろう。仮に見つけてもあの扉を突破するのは無理だ」


裏路地はかなり入り組んでいる上に、かなり広い。俺も子供達に案内されなかったら、特に入り組んだ細道の先の地下への厚い扉を発見することもできなかっただろう。そんな場所を1日で見つけるのは困難だ。また、見つけたところで、中々の人材や魔導具を用意しない限りあの金属の扉は突破できない。


「そ、そうだな」


「今日中には帰れるんだから落ち着けよ。それと、ルシエルは一応フードを帰るまでは被っとけよ。そいつらを相手にするとしても一旦帰ってゆっくり休みたいからな」


「分かったのじゃ」


正直、今からそんなゴロツキ共を相手したくない。金がありそうだから強いゴロツキを雇っている可能性もあるし、相対するのは休んでからにしたい。だから帰宅時に顔を晒してトラブルになるのは避けたい。


「これは俺のせいだ。すまんな。できる限り迷惑はかけないようにする終わらせる」


「気にするな。悪いのは逆恨みをしているやつだ。それにこれは事故みたいなもんだしな」


ヘパイトスはそう言うが、ルシエルを買ったのは俺だからこれは俺の問題だ。泊まる場所を変えるのも考慮しないとな。

それからもこれまでと変わらない速度で歩いて洞窟の外を目指した。

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