第258話 トラブル

「じゃあ、壊すぞっ!」


俺は後ろにいるルシエルとヘパイトスにそう言うと、出口を塞いでいる厚い複数の土の壁を大鎌で砕いていった。

砕いた土の壁から急に魔物が飛び出るかもしれないので、警戒しておく。



「魔物は居ない……な」


しかし、全ての壁を砕き終えても魔物の姿は見えなかった。それなら一安心だ。


「じゃあ、行くぞ」


「ああ」


「おう」


一応まだ警戒しながら、俺達が落ちた場所まで移動をした。



「魔物も出ないし、穴も問題なさそうだな」


「そうだな」


落ちた場所に来たが、それまでに魔物を見ることは無かった。それに穴が落ちた時よりも崩落しているとかも無さそうだ。崩落して穴が塞がっていないのは良かった。



「それじゃあ、さっさと登るか」


俺はそう言うと、魔力を操作して無属性魔法の準備をする。何かここまで魔物が居ないのは不気味だから早くここから去りたい。もし、紫ゴーレムのような魔物が居たりしたら最悪だ。


「守れ、シールド」


俺は少し丈夫な盾を数十枚同時に作る。この盾は2人を抱えた俺が蹴っても壊れないぐらいの強度はある。だから魔力をいつもの足場に使う時よりもかなり消費してしまった。


「さて、じゃあ早速登………」


俺が2人に手招きをして、抱えられるように近くへ来てもらおうとしていたその時だった。



「シィィィヤャァァァァァ!!!!」


「っ!?」


遠くから何かの雄叫びが聞こえてきた。その雄叫びは無意識に大鎌に手を伸ばしそうになるほど恐怖を煽る叫びだった。


「早く行くぞ!!」


「あ、ああ!」

「お、おう!」


2人も感じたことは同じようで、すぐに俺の腕の届く範囲に来てくれた。俺は身体強化と闇身体強化をすると、2人を抱えて勢いよく跳び上がった。


ガンガラガロン!!


「な、何だ!?」


気になって下を見ると、さっきまで俺達がいた場所の瓦礫などを破壊しながら巨大な何かが通過した。


「で、でかいのじゃ……!」


その何かは俺達の居た場所を通過した後も胴体が見え続けている。


「あれはジャイアントスネークだ!A-ランクの魔物だぞ!最大で30mの長さまで成長する!」


「はあ!?」


俺の予想が最悪な形で現実となってしまった。もうこの地下深くは紫ゴーレムやジャイアントスネークのような高ランクの魔物が縄張り争いをしているような場所なのか。


「見てる場合では無いな!」


俺は目線を上にし、足場を蹴って上へ上へと移動する。


「もう下には降りれんぞ」


「そんなこと、分かっている!」


あんなのが下にいるならもうここを登って帰るしか選択肢は無い。下に降りたらまず間違いなく、あの大蛇に狙われる。もし仮に戦闘となって大蛇を殺れたとしても、そこから移動したらすぐに別の高ランクの魔物が現れそうだ。


「シャァァァ……!!」


「ん?」


下から魔物の声がした。チラッと下を見ると、大蛇が穴に顔を突っ込んでこちらを見ている。


「ルシエル!下にストックを撃て!」


嫌な予感がした俺はそう叫ぶ。



「シャァァァァァ!!!!」


「光れ!」


大蛇が穴を登りながらこちらに向かって来るのと、ルシエルの魔法が放たれたのはほぼ同時だった。

大蛇はルシエルの魔法に当たり、怯んだように向かってくる勢いが弱まった。

見張りの間にちゃんと魔法をストックしておいてよかったな。


「今のうちに!」


大蛇は一旦引っ込むが、また向かって来そうだ。俺は大蛇が届かないくらいまで登るために急ぐ。



「シャァァァ………」


「ふぅ……」


大蛇は急激に上昇している俺達を見て、諦めたように穴から顔を引っ込めた。

穴に突撃するのは諦めただけで、落ちた時のために待ち構えているかもしれない。油断せずに登っていこう。

正直、俺のストックを使うのは穴の崩落の危険があるからあまり使いたくなかったから助かった。ルシエルのストックと俺のストックの2つは威力が高いからかなり穴に負担をかけてしまう。



「上には辿り着けそうか?」


「大丈夫そうだ」


大蛇に追われて勢いよく駆け上がったおかげか、想定よりも盾に余裕がある。このままなら無事に穴を登り切れそうだ。




「到着!!」


その後は特に問題なく、俺達は穴を登り切ることができた。登った先でもすぐには魔物が見当たらない。



「あれにはびっくりしたのじゃ…」


「生きた心地がしなかったぞ…」


穴を登ると、俺達は地面に倒れ込むように座って心を休めた。


「ここからは下と比べると安全だし、さっさと行くか」


「…もう落ちる前のゴーレム軍団が雑魚に感じてしまうのじゃ」


確かに戦った紫ゴーレム、今さっきの大蛇を見てからだと、ただのゴーレムなんて何体いても可愛く思えるかもな。

俺達は休憩もそこそこに地図を見ながら帰って行った。

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