第256話 休憩

「あーー、頭痛てぇー」


「意外と大丈夫そうじゃな?」


俺は倒れてからそう呟く。これが安全な場所なら寝る…というか気絶したいほど頭は痛いし、目眩もあるし、疲労も溜まっている。だから全然大丈夫では無い。

でも寝る前にしなくてはいけない指示が残っている。


「ルシエル、入口を土魔法の壁を複数枚で塞いでくれ」


「分かったのじゃ」


もう逃げることは考えなくていいから出入口は塞いでしまう。この空間には出入口が1つしかないからそこさえ塞げれば魔物の心配は無い。紫ゴーレムが死んだと気付いた魔物が来ないとも限らないからな。

ちなみに、洞窟の道では塞いだ片方の壁が突破された時に閉じ込められる危険があるから、塞ぐ時の壁は1枚にしていた。


「ヘパイトス!もう紫ゴーレムは殺ったから満足するまで採掘しろよ!」


「何だ、時間稼ぎをするんじゃなかったのか?」


「お前の採掘が遅いから間違えて殺っちゃたんだよ」


「こんなのを採掘したのは初めてに近いんだから仕方ねえだろ!だが、助かったぜ。これで慎重に採掘できるぜ」


気付いているだろうが、一応紫ゴーレムを殺った報告をヘパイトスにしておく。ちなみに、間違えて殺したというのは真っ赤な嘘だ。もちろん、そんなことはヘパイトスも分かってるだろうけどな。売り言葉に買い言葉ってやつだな。


それと、紫ゴーレムは全く気にしないと言っても、近くで魔物が暴れている中で時間に追われて採掘するのは大変だっただろう。これからは安心してゆっくりやってもらいたい。



「終わったのじゃ」


俺がヘパイトスと話している間にルシエルが壁を張り終わって戻ってきた。


「次はこのマジックポーチにあのゴーレムを入れてきてくれ」


「了解じゃ」


俺からマジックポーチを受け取ったルシエルは紫ゴーレムへと向かっていく。

あんなゴーレムがいるならルシエルとの連携の練習をしっかりやっておけばよかったな。狭い洞窟で連携して一緒に戦う機会は無いと油断してた。

……いや、仮に連携の練習をやっていても、紫ゴーレムとの戦いはルシエルに参加させなかっただろうな。一撃で死ぬ可能性のある魔物と戦う大変さと、万が一食らった時の危機を俺はよく知っているからな。



「入れてきたのじゃ」


「ありがと」


俺は戻ってきたルシエルからマジックポーチを受け取る。

ほんの少しだけ紫ゴーレムがまだ生きているかもと思ってもいたが、マジックポーチに入ったということは完全に死んでいたか。マジックポーチにまだ生きている魔物は入らないからな。


「すまんが、少し寝る。もし、土の壁から音がしたり、魔物がどこからかやってきたらすぐに起こしてくれ。それと、ルシエルも眠りたくなっても起こしていいからな。あとは…」


「分かったから早く寝るのじゃ」


起こす条件を事細かに伝えると、面倒くさそうな顔で早く寝ろと言われてしまった。

ここはお言葉に甘えて早く寝させてもらおう。寝袋を使うのも面倒だったからそのまま地面で眠った。




「ん…んーー!!」


俺は起こされることなく、自然と眠りから覚めた。その時には採掘しているカンカンカンという音は聞こえなかった。


「起きたのじゃな」


「ああ、おはよう……」


俺の真横にはルシエルが座っていた。


「ヘパイトスはどうした?」


「2つの武器を作れる程度の鉱石は採掘できたから一旦眠ったのじゃ」


その言い方だとまだ鉱石を採掘するつもりだな。ヘパイトスは採掘中には汗だくになっていたから、採掘にらかなり集中力と根気を使うのだろうな。



「ん?」


…ちょっと待て。ヘパイトスは目的の量を採掘するのに10時間かかると言った。そして、俺が眠る前には3時間と少しが経っていた。でも寝る前にはこれからは慎重にやる的なことも言ってもいたから、10時間よりも採掘には時間がかかるはずだ。それなのにヘパイトスはもうとりあえずの量を取り終えて眠っている。


「ルシエル、俺は大体何時間眠ってた?」


「12時間くらい眠ってたのじゃよ。ピクリとも動かないから何回か生きておるか心配して確認したぞ」


「はあ!?」


俺はそんなに眠っていたのか!?いや、ピクリとも動かないのはもう気絶だろ。道理でそんな時間が経っていることにすぐに気付かないはずだ。


「ここは見張りを代わるからルシエルも眠ってくれ」


「そうさせてもらうのじゃ」


俺がテントを出すと、ルシエルはその中に入って眠った。ルシエルはもう20時間弱は起き続けていると思うからゆっくり眠ってもらいたい。



「さて、見張りをやるか」


長い時間気絶していた分、これからの見張りは頑張らないとな。もう寝る前の頭の痛さも目眩も治まっている事だしな。

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