第255話 俺の最強の一撃
「やあっ!」
ルシエルが紫ゴーレムの身体を登り、俺が欠けさせたところを刀で斬り付ける。
「ウオォォ…」
紫ゴーレムは肩の上のルシエルを、顔の周りを飛ぶ鬱陶しい虫かのように手で払う。もちろん、ルシエルはそれを飛び降りて回避する。降りてる間にも刀を振るが、ダメージには繋がっていない。
しかし、紫ゴーレムの視線は俺ではなくてルシエルへ向いている。
「…何でだ?」
ルシエルは紫ゴーレムにダメージを与えていないのにヘイトが向いている。
俺がヘパイトスからヘイトを奪うためにはダメージを与えないといけなかったのにだ。
「……もしかして知能が上がったからか?」
魔物はランクが上がるほど、知能も上がる。しかし、戦い始めた頃は推定Aランクの紫ゴーレムの知能が普通のCランクのゴーレムと同じくらい低かった。それがフェイントを使う程には知能が上がっていた。
「そうか…!ここは紫ゴーレムの餌場であり、檻でもあるのか」
この部屋の入口は縦横共に5m程しかない。そのため、軽くそれを超える巨体の紫ゴーレムはこの部屋から出れない。また、この紫ゴーレムの強さを恐れてこの辺には魔物が居ないので、紫ゴーレムはずっと1体のみでここに居た。ただ食べるのみの生活をしながら変異しようが、そもそも何も考えていなければ知能は上がっても変わらない。そもそも考えることがないんだから。
そして、今は変異よって上がった知能を少し有効的に使えるようになった結果、単純な危険度以外にも鬱陶しいからという理由でルシエルを狙っている。これも中途半端に知能を使えるようになったおかげか。
「ただ、それもいつまで続くか…」
今は中途半端に持ち合わせた知能を使えるようにからそうなっているだけで、さらに高い知能を完全に使えるようになれば、今度は別の視点でヘパイトスを真っ先に狙う可能性もある。
「殺るしかないか」
最初にこの紫ゴーレムを殺ろうと考えた時は成功への段階が多くて成功率は低かった。その中での一番の問題がヘイトを俺から移せないことだった。それにあの時はまだ時間稼ぎという選択肢もありはした。
でも今はルシエルが紫ゴーレムの気を引くという難関のステップは成功し、時間稼ぎという選択肢も現実的ではないと分かった。
つまり、ほぼ実行出来なく、仮に出来ても俺が行動不能となる可能性があり、さらに紫ゴーレムが殺し切れない可能性があった紫ゴーレム討伐と、もう限界近くなって疲労困憊の俺と1発当たれば即死のルシエルとでの時間稼ぎを比べると前者の方が生存確率は高い気がする。
「ルシエル!今からそいつの気を何としても引いておけ!それで俺が合図したらそいつをこっちに向けろ!」
「殺るんじゃな!それくらい任せるのじゃ!」
俺はルシエルに指示を出すと、最大威力の攻撃を出す準備を始める。まずは魔力が全回復するほど魔力ポーションを飲む。
「暗がれ!ダークランス!」
俺はほぼ全ての魔力を使って詠唱し、その闇魔法をストックする。再び魔力が全回復するほど魔力ポーションを飲む。
「闇魔装」
次はまたほぼ全ての魔力を使って闇魔装をする。ダメ押しにもう一度魔力が全回復するほどの魔力ポーションを飲む。魔力ポーションを数十本飲んだせいで、もう数本しか残っていない。ついでに腹も苦しい。これ以上飲むのは胃のキャパ的にもキツいな。それと、帰ったら魔力ポーションを買い足さないとな。
「闇れ、暗がれ……」
俺はストックのダークランスを目の前に出し、闇魔装を全て使ってストックの横にダークランスを並べる。俺は詠唱しながらそれを螺旋状に巻き付けていく。
俺が準備しているのはラウレーナの両腕に穴を開けたあの二対槍だ。これなら紫ゴーレムの胸を魔石ごと貫けるかもしれない。
でも正直に言うと、ラウレーナよりもこの紫ゴーレムの方が防御力が高い気がする。だから二対槍でも殺れない気がする。
「ダークランス!」
鼻血を垂らしながらも、何とか魔法が完成する。ここでダメ押しに回復した魔力を使って闇魔装を行う。とはいえ、ここからさらにもう1回ダークランスを混ぜる余裕は無い。
「こっちに向けろ!」
「分かったのじゃ!」
俺はルシエルにそう指示すると、闇魔装を大鎌だけに集める。
「これで良いか!」
ルシエルはわざとスピードを落として俺の方に向かってくる。すると、ルシエルを追う紫ゴーレムが俺の方を向いた。
「完璧だ。らあっ!!」
俺は大鎌を振り下ろして闇の斬撃を放ち、その斬撃とほぼ同時に二対槍も放つ。それらは空中で混ざり、重なった弓と矢のようになってスピードを増す。紫ゴーレムはその魔法を腕で受けようとするが、鈍い紫ゴーレムでは混ざって速くなった魔法には間に合わない。合計1400以上の魔力が込められた闇魔法は紫ゴーレムの胸に命中する。
バガガガンッ!!!
命中した瞬間、大きな音と共に紫ゴーレムの胸の一部分が爆散する。
そのまま紫ゴーレムは仰向きに倒れようとするが、何とか堪えてしまう。紫ゴーレムが体勢を戻したことで紫ゴーレムの魔法が当たった胸が見えた。
「くそっ!後ちょっとか!」
紫ゴーレムの胸は大きく抉れていて、魔石は遠くからでも見れるほど露出している。魔石自体には耐久力は無いからある程度の威力の攻撃をもう一撃与えられれば殺れる。
「あっ…くそっ……」
しかし、俺は二対槍の影響で視界がぼやけていて、走ることは愚か、魔法を魔石に命中させることもできない。
そんな中、紫ゴーレムの胸はかなりゆっくりだが、治っていっている。このままでは紫ゴーレムを殺れなくなる。
「ルシエル頼む!!」
「ああ!」
ルシエルには紫ゴーレムとの相手は無理だと言っておきながら、俺は情けなくも最後をルシエルに任せるしか無かった。
「光れ!」
紫ゴーレムの胸まで近付いたルシエルは昨日のうちにストックし直していた光魔法を紫ゴーレムの魔石目掛けて放つ。
パキンッ
「ォォォ……」
何かが割れる小さな音がすると、今度こそ紫ゴーレムは仰向きにゆっくり倒れた。
「良いとこ取りをしてやったのじゃ」
地面に着地したルシエルは俺の傍までやってくると、にっ!と笑いながらそう言ってくる。良いとこ取りをされたのは間違いないが、そのぐらいの手柄は上げても良いと思えるほどルシエルには助けられた。
「ふぅ……」
「お、お主!?大丈夫か!?」
紫ゴーレムの魔石が砕かれ、確実に殺れたのを見て安心した俺は紫ゴーレムと同じように仰向けに倒れた。
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