第254話 限界

「はあっ!」


ガキンッ!


紫ゴーレムをこめかみを欠けさせてから30分ほど紫ゴーレムの攻撃を避けながら、俺も攻撃しているが、相変わらずダメージには繋がらない。


「全身硬いとかもう反則だろ」


この紫ゴーレムは全身が硬く、弱点などは存在しない。もちろん、口の中や関節とかも同じように硬い。

強いて言うなら魔石が埋まっている胸が弱点かもしれない。ただ、魔石が埋まっているところは少し他よりも硬い気がする。そこを突破して魔石を砕くのは無理そうだ。


「ヘパイトス、何時間くらい稼げばいい!?」


「10時間は欲しい!」


この紫ゴーレムを相手に10時間の時間稼ぎはさすがに厳しい。闘力や魔力はポーションで何とかなるにしても、体力と集中力が持たない。その2つはポーションではどうにもならない。

しかも、動物のような他の魔物と違って、鉱石で出来ている魔物であるゴーレムは疲れを知らない。だから時間が経てば経つほど俺らは不利となる。



「殺るしかないか?」


だから俺らが目的を達成して生きて帰るにはこの紫ゴーレムは殺るしかないのかもしれない。

だが、問題はこの紫ゴーレムの高い防御を突破するほどの攻撃が無いことだが……。


「あっ…。1つある…おっと!」


俺はこの紫ゴーレムの防御を突破できるかもしれない攻撃が1つだけあるのに気付く。それと同時に攻撃がくるので避けておく。

しかし、その攻撃で倒せなかったら俺はその後戦えないかもしれない。そんなギャンブルをこの場でして良いのか?

また、それには準備に時間がかかるため、ルシエルにその間は1人で足止めしてもらうことになる。俺にロックオンしている紫ゴーレムの気を引いて足止めするなど、かなり危ない橋を渡らないといけない。


「……無理だな」


考えた末、俺は紫ゴーレムを殺るのは無理と決定付けた。何時でも逃げて帰れる地上とは違い、まだ帰るのに時間がかかるこの地下で魔物相手に分が悪いギャンブルをするのは危険過ぎる。




「あっぶねっ!!!」


殺るのは無理と決めてから2時間弱が経過した。俺の集中力と体力がかなり減っていて、紫ゴーレムの攻撃に反応が遅れる。その結果、俺の身体の左側に紫ゴーレムの拳が掠った。それだけで俺の闘装と防具が犠牲となる。幸い、その2つのおかげでかすり傷程度の怪我しかしていない。


すぐに闘装を纏い直し、再び紫ゴーレムの攻撃を避ける。


「残り8時間弱か……」


後ろのヘパイトスは汗だくになりながら、やっとアダマンタイトを1つ取ったところである。今は再びアダマンタイトの採掘をしている。ちなみに、連続で同じ鉱石を採掘するのは慣れで採掘スピードが上がるからだそうだ。

とはいえ、最低目標であるアダマンタイトとヒヒイロカネの2つを採掘するために、アダマンタイトの次にヒヒイロカネの採掘に入らないのが凄いな。もう完全に武器を作るのに足るまで採掘するつもりだな。

まあ、最低限度採掘できたとしても武器が作れなければ意味が無いしな。妥協した武器なんか作って欲しくは無い。



「らあっ!」


キンッ!


「オオオ!!」


相変わらず俺の攻撃は紫ゴーレムには効かない。

俺はまた紫ゴーレムの近くで攻撃を避け続ける。


「っとと!!!」


さっき攻撃を掠ってから10分ほど経ってまた攻撃が掠ってしまう。本格的に気を付けないと紫ゴーレムの攻撃にクリーンヒットする日も遠くないな。

こんなに休憩無しで長時間格上の魔物と戦うのは初めてだ。クラーケンの時は一斉魔法攻撃の時や海に潜っている間に休憩できていたしな。


掠っても攻撃は続くからまた紫ゴーレムの攻撃を避けた。



「ははっ…攻撃する余裕がなくなったぞ」


2度目が掠ってから1時間くらい経ったが、避けるのに限界で俺から紫ゴーレムに攻撃できなくなった。それなのに何度か紫ゴーレムの攻撃を掠っている。

もちろん、紫ゴーレムが俺の動きを読めるようになって動きが良くなったのはあるが、一番の原因は自分でも自分の動きが悪くなっていると自覚できるほど体が動かないことだ。


それでも俺は紫ゴーレムの攻撃を避け続ける。そうしないと死んじゃうからな。



「……もう代わるのじゃ」


そんな俺にルシエルは声をかけてきた。気は少し逸れるが、紫ゴーレム以外に気を向けるのは集中力回復のためにはいいかもしれないな。


「無理だ」


そんなルシエルに俺は冷たくそう言う。俺もできることなら代わってほしい。だが、紫ゴーレムがそれを許さない。紫ゴーレムのヘイトは俺に向いているのだ。下手にヘイトを移そうとすると、またヘパイトスにヘイトが向きかねない。


おっと、紫ゴーレムからの攻撃がやってきた。



「でも今のお主よりは余の方が上手く戦えるのじゃ!」


「ははは。そうだろうな」


今の集中力も体力も底を突きかけている俺よりも、ルシエルの方が上手く戦えるとは思う。


「でも、俺がやらないと駄目なんだ」


どんなに俺の集中力と体力が無くなりかけても、精神的にキツくなろうが、この役目は俺がやらないといけないのだ。

別にルシエルが役立たずと言っている訳では無い。適材適所でこの役目は俺しか駄目なんだ。もし仮にラウレーナが居たとしても、【敏捷】が無いラウレーナが攻撃を避け続けるのは不可能だから俺がやっていただろう。


また紫ゴーレムが拳で攻撃してくるから俺は避ける。


「えっ…?あっ…」


紫ゴーレムがここにきて俺に当たる直前で攻撃を止めるというフェイントを初めてしてきた。ゴーレムがフェイントをするなんて聞いていない。

もう横に回避行動をした俺へと拳を向け直して振ってくる。全く想定していないそれを俺は避けれない。


「えっ……」


しかし、急に俺の身体が持ち上げられて攻撃を避けさせられる。


「言わんこっちゃないのじゃ」


「ルシエル…」


俺を抱えて攻撃を避けさせたのはルシエルだった。


「これは俺の私の役目とか、ここは俺に私に任せろとか、余はもう聞き飽きたのじゃ!戦っている背中を見ながら守られるだけは嫌じゃ!!

お主が許してくれないというのなら余が勝手にやるのじゃ。もし、余がこのゴーレムの注意をお主よりも引いてしまった時には、お主は休むなり、このゴーレムを倒す手段を考えるのじゃ」


ルシエルは抱えた俺を乱暴に落とすと、そう言って紫ゴーレムへと向かって行った。

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