第253話 約束

「らあっ!」


俺は先手必勝とばかりに紫ゴーレムの足を大鎌で斬り付ける。


キンッ!


「嘘だろ!?」


仮にも身体強化と闇身体強化をほぼ全力でしていたのに、俺の大鎌は紫ゴーレムに傷1つ付けられず弾かれた。


「そのゴーレムは恐らく、2種の鉱石のいいとこ取りをしている!つまり、物理攻撃も魔法攻撃もほとんど効かない!」


「クソが……」


それではこのゴーレムが無敵と言っているようなものだぞ。しかし、そんな愚痴をドワーフに言ってもしょうがない。


「オォォ!!」


「あっぶね!」


ゴーレムが足元の俺に拳を振り下ろしてくる。その威力は地面が簡単に凹むくらいだ。今のを食らったら重症は避けられない。闘装を強固に纏って何とか即死は回避できるかもしれない程度だな。


「勝ち目が無いが、どうする?!」


ドワーフがそう叫ぶ。確かにこのゴーレムに勝つのは無理かもしれない。だが、目の前に目的の鉱石が山ほどあって引く気にもなれない。


「俺がこのゴーレム相手に時間稼ぎをする。その間にお前は鉱石を採掘してくれ。ルシエルは何かあった時のためにドワーフの傍で護衛をしろ」


俺は紫ゴーレムを見上げながら後ろに居る2人にそう言う。


「…お前の覚悟は分かった。だが、お前が死んだり、大怪我したら結局俺達は帰れないってことだけは理解しておけよ」


「そうだな。全員で生きて帰るぞ」


俺とルシエルのどちらかでも居ないだけで生還できる確率は格段に下がる。また、鉱石が取れてもそれを加工できるドワーフが居なくても意味が無い。

ここで鉱石を採掘して終わりでは無いのだ。絶対に全員で生きて帰らなければならない。



「余も一緒に戦うのじゃ!」


「駄目だ。ルシエルがこのゴーレムの攻撃に当たったら即死だ」


ルシエルは闘力が無いから身体強化や闘装で防御力を上げられない。また、魔装もまだ使えない。

そのため、ルシエルは諸々の強化込みの俺よりも防御力は低い。そんなルシエルがゴーレムの攻撃を食らったらほぼ即死する。正直、このゴーレム相手にルシエルを庇って身代わりになるとかはしたくない。


「…お主が限界そうなら手伝うのじゃ」


「ああ、頼む」


ルシエルは自分の力不足を理解してか、大人しく引いた。


「さてっと……!」


俺は足を振り下ろしてくる紫ゴーレムから距離を取って足を避ける。


「轟け!サンダーランス!」


俺は遠慮なく魔法を使う。崩壊の危険はあるが、この巨体の紫ゴーレムが暴れるのと比べたら、俺が紫ゴーレムに魔法を当てるぐらい誤差のようなものだ。さすがに魔法を壁や天井に当てたら別かもしれないけど。


「しかし…攻撃してもこんなに無傷だとトラウマが蘇るぞ」


俺の魔法でも紫ゴーレムは無傷だ。絶望的に勝てないと思った海竜との戦闘が思い出される。

ただ、紫ゴーレムは攻撃力と防御力が高いだけで、スピードに関しては俺よりも遅い。能力が尖っているだけで、根本的な強さはクラーケン程度だろう。つまり、紫ゴーレムはAランクぐらいの強さだな。


「まあ、Aランクの魔物に1人で勝てるほど俺は強くないんだけどな」


結局、この紫ゴーレムが俺よりも強い事には変わりない。まだスピードが遅いのが救いで、攻撃を避けるだけなら何とかできている。



カンカンカンッ!!


「始まったか」


後ろではドワーフがハンマーやつるはしを使い、鉱石の採掘を始めた。


「オオオ!!!」


「ちょ!ちょっと待て!」


採掘の音がこの空間に鳴り響くと、紫ゴーレムは俺から目を逸らしてドワーフを見る。

そしてなんと、俺を無視してドワーフの方へ向かっていく。


「おい!ゴーレムがそっちに向かったぞ!一旦逃げろ!」


「採掘を途中で止めると上手く取れずに品質が下がる!だから途中では止められない!」


俺の忠告にドワーフはハンマーを振りながらそう言う。

俺は大量に鉱石はあるんだから今やっているやつは諦めて一旦逃げろと思ったが、そんな気持ちは次のドワーフのセリフを聞いて消え失せた。


「採掘は俺様に任せろ。完璧に集めてやる。その代わりにお前は魔物をどうにかするんだろ?それが洞窟に入る前の約束だ。それに、お前はさっきもそのゴーレムは俺に任せろと言ってたよな?

だからそのゴーレムに関してはお前に任せている。俺様は約束通り採掘しているのに、お前は約束を守れないのか?」


「ヘパイトス、言ってくれるな……」


ヘパイトスの最後のセリフは完全に俺を挑発するようなものだった。しかし、実際に自分を一撃で確実に殺せる魔物が向かってきている中で、全く逃げずにそんなことを言える者がどれぐらい居るだろうか。

挑発はしているが、こんな状況で逃げないくらい俺を完全に信じてくれているのなら、それを応えないと男じゃない。


「ふっ!」


俺はヘパイトスに向かっている紫ゴーレムの体を登り、肩までやってくる。


「闇れ!」


そして、俺は紫ゴーレムのこめかみへゼロ距離でストックしていたダークランスをぶち込んだ。

さすがの紫ゴーレムもその威力に横に倒れそうになる。


「闇付与!」


しかし、これで俺の攻撃は終わらない。闇魔法を付与した大鎌をさっきの魔法で少しヒビができたこめかみに突き刺す。


「らあぁぁぁぁ!!!」


そこで俺は身体強化類を全力でかけ、大鎌がしなるほど大鎌に力を込める。


ベキベキベキ……ゴトッ!


そして、俺は紫ゴーレムのこめかみの1部を欠けさせることに成功した。その大きさは拳くらいで巨大な紫ゴーレムから見たら本当に少しの量だが、俺は確実に紫ゴーレムにダメージを負わせた。

ちなみに、紫ゴーレムの欠けた鉱石?は回収しておく。


「ヘパイトス!ちゃんと採掘しろよ!」


「ヌルヴィスこそ、ちゃんと戦っとけよ!」


さっきの挑発の返事をヘパイトスにしておく。

こんな状況でも俺達はお互いを挑発し合って笑っていた。



「オォォォ!!」


「はあ……そうだ。お前の相手は俺だ…」


立ち上がった紫ゴーレムの視線は完全に俺へと固定された。

ただ、問題は今ので俺のストックが無くなっただけでなく、闘力と魔力を1/4ほど消費し、体力をかなり使ったことだな。

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