第251話 ピンチ

「邪魔だな!」


俺はさっきまで動いていたゴーレムを踏んで砕きながらそう文句を言う。ゴーレムは死体が瓦礫のように積み重なって道を遮るから厄介だ。


ガキンッ!


「くっ!」


ゴーレム一体の身体を斬り落とすのは身体強化らと無属性付与をやっていれば難しくない。防御がオーガと同じと言っても胴体の太さまで同じでは無いからな。しかし、前までの魔物ように一気に何体も斬るというのができない。2体目の胴体の途中で大鎌が止まる。


「また追加が来やがった…」


そして、狩るのに時間がかかると、追加でまた新しいゴーレムがやってくる。完全に悪循環に陥った。


「凍てつけ!」


俺は我慢ならず、詠唱を始める。とはいえ、崩壊の危険がある魔法は使えない。


「アイスフィールド!」


俺は地面を凍らせる魔法を使う。これなら崩壊の危険は無い。そして、ゴーレムの足が固まって動きが鈍くなる。ゴーレムは攻撃力が高くないから氷を割るのには時間がかかる。


「うらあっ!!」


俺はその隙にできるだけゴーレムを狩る。しかし、この程度の効率上昇は焼け石に水であまり効果は無い。


「この辺は誰も来ていないのだろうな。戦闘の音を聞いて魔物が集まっている」


「ちっ…」


道理で終わりなく次々と現れるわけだ。目の前のゴーレムらをどうにかしないと逃げ帰るにも安心できないよな。ドワーフの後ろに作った壁もガリガリと音が鳴るくらいには攻撃されているしな。



「ガアッ!!!」


「嘘だろ!?」


後ろからゴーレムでは無い魔物の叫びが聞こえた。この叫び声は何度か聞いたことがある。こんなところでも出るのかよ!


「ルシエル!前のゴーレムの相手を頼む。時間を稼いでくれればいい!」


「わ、わかったのじゃ!」


俺は前のゴーレムの相手をルシエルに任せる。今のルシエルにゴーレムの大群の相手はキツイだろうが、頑張ってもらうしかない。


バコン!


俺が後ろに移動したタイミングでルシエルが作った土魔法の壁が壊された。その壁の奥から現れたのは5m弱のオーガだった。こいつは本当によく見るな。


「お前はここじゃあ狭いだろ!」


この洞窟の縦横それぞれ5mほどしかなく、オーガが暴れるにはかなり狭い。


「ガアッ!」


「くっ!!」


俺は身体強化類を強めてオーガが振るゴーレムを大鎌で受ける。何でオーガがゴーレムを振ってるんだよ。


「ガルッ!!」


「なっ!」


なんと、オーガの左右からグレートウルフという、ビックウルフよりもふた周りほど大きいCランクの狼のような魔物が1匹ずつ飛び出してきた。


「こっの!」


俺の脇をも抜けようとするそいつらを俺は大鎌で斬り殺す。これが抜かれたらドワーフに行ってしまうから殺るしかなかった。しかし、そんな明らかな隙を目の前のオーガが逃すわけが無い。


「ガアッ!」


「くっ……」


俺はオーガに振り下ろされたゴーレムを何とか後ろに跳んで避ける。スペースが少ない中、下がりたくなかったが、仕方ない。


ビキビキビキ……!!


「え…?」


今のオーガの一撃でゴーレムは破裂したように砕けたのだが、それとは違う嫌な音も聞こえた。

薄暗い中で地面をよく見ると、ひび割れのようなものができている。そのひび割れは俺の後ろを通ってルシエルが戦ってくれているゴーレムの方まで伸びていく。


急にゴーレムなどの重い魔物が沢山1箇所に集まって地面に負荷をかけ、ダメ押しのようにオーガのような強力な魔物の一撃が地面に加わる。それは魔法なんか使わなくても崩壊の危機に陥るには十分過ぎる原因だ。


「ルシエル!ストックでゴーレムども俺らから遠ざけろ!崩壊については考えるな!」


「分かったのじゃ!」


ルシエルは俺の言葉でゴーレムから少し離れて魔法を放てる準備をする。


「おい!それだと崩壊が……!!」


「光れ!」


何をするか察したであろうドワーフが言葉を発し切る前にルシエルが光魔法のストックを放つ。その瞬間、洞窟全体が大きく揺れるような感覚に襲われる。


「守れ!シールド!」


俺はルシエルらの方に走りながら詠唱をし、無属性魔法の盾を準備する。


「ガアァァ!!」


逃げるように背を向けて移動する俺をオーガは新しく拾ったゴーレムを振り回しながら追ってくる。

それが決定打となってしまった。


「おわっ!!?」


「ひゃっ!?」


地面が崩れ落ちた。地面が無くなった俺達は一直線に下へと落ちる。どうやら地面の下は空洞となっていたようだ。チラッと下を見るが、一番下が見えないくらい深いな。



「まずは…」


俺は盾の足場を蹴って空中を落ちながら移動する。


「およっ?!」


「暴れるなよ」


まずはドワーフを右脇に抱える。そして、次はルシエルの元へ移動する。


「キャッチっと」


「ありがとなのじゃ」


これで2人を空中でキャッチすることができた。

上がれるかな?と思って上を見るが、2人を抱えながらそれは無理そうだな。もしやるにしても、もっとちゃんと足場の盾の準備をしないと無理だな。今の盾の強度と量なら減速しながら降りるので限界だな。


「崩壊するのが分かっておって、できるだけゴーレムを遠ざけたかったのか」


「その通りだ」


沢山のゴーレムが降る中でドワーフとルシエルをキャッチするのは大変だからゴーレムだけは遠ざけたかったのだ。オーガに関しては2人の傍に居ないからどうでもよかった。

どうせ崩壊するなら魔法を使おうが早いか遅いかの違いしかないしな。



「……かなり深いな」


減速しているとはいえ、数分経ってもまだ下の地面は見えてこない。


「ポジティブに考えれば一気に目的地まで行けるな」


こうなったらもう下に行くしかない。俺達は下に何があるか期待と不安を抱きながら落ちて行った。

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